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少女を救う英雄

結婚可能年齢は、国によって違います

「サウジアラビアにも立派な都市があるんだね。あたしは、てっきりラクダが歩き回っていると思った」

 良美が目の前を通り過ぎていく車を見ながら言うと隣の較が資料を確認しながら言う。

「都心じゃ無理だね。地方に行けば道路整理がされていないからラクダも現役みたいだけどね」

「そうなんだ」

 整理された道を歩く良美。

「それにしても、面倒な所を選んでくれたな」

 較の呟きに首を傾げる良美。

「何が面倒なの?」

 そんな時、数人の男達が二人を囲む。

「そこの娘達、その様な格好は、認められないから逮捕する」(アラビア語)

 言葉が解らず首を傾げる良美を下がらせて較がパスポートを見せながら告げる。

「私達は、日本からの観光客で、イスラム教徒では、ありませんので、教義に違反している訳では、ありません」(アラビア語)

「外国人だろうと関係ない。女は、全員規則を守った服装をしなければいけないのだ」(アラビア語)

 男の主張に較が顔を押さえる。

「知識では、知っていたけど、勧善懲悪委員会って面倒だね」

「何それ?」

 良美が尋ねると較が答える。

「簡単に言えば、宗教警察。宗教の教義に合わない人間を取り締まる人達だよ」

「とにかく来るんだ!」(アラビア語)

 手を伸ばしてきた勧善懲悪委員会の人間の手を較は、払う。

「ルールは、守りましょう? 貴方達には、逮捕権も無ければ裁判権も無い。警察に通達するしか出来ない。それが勧善懲悪委員会でしょ?」(アラビア語)

「黙れ! 我々を甘く見ているとただでは、済まさないぞ!」(アラビア語)

 武器を取り出そうとした時、較が殺気を放った。

 音が消え、犬が逃げ出し、子供達は、泣きじゃくる。

 勧善懲悪委員会に至っては、失禁して腰を抜かしていた。

 そんな中を平然としている良美。

「セーブ無しのヤヤの殺気って、ゴジラクラスだよね」

 較が頬をかく。

「気配がここまで尖がっているのは、褒められた話じゃないよ。『ケットシードレス』」

 気配を誤魔化した較は、そのまま歩き出そうとした時、一人の少女が横断歩道で泣きじゃくったままで、車に轢かれそうになる。

「ヤヤ、急げ!」

 良美に急かされて、少女に飛びつき、車に引かれる較。

 周囲がざわめく中、平然と良美が近づく。

「その子に怪我は、無い?」

 較は、傷どころか、服に汚れ一つ無い状態で立ち上がり、少女を抱き上げる。

「びっくりして、意識を失ってる。取り敢えず家まで運ぼう」

 周囲が完全に引く中、較達は、少女を家に送り届けるのであった。



「そうですか、娘を連れて来てくれたのですか?」(アラビア語)

 何故か、出迎えた母親は、辛そうな顔をする。

「無事で良かったな。これで、無事に嫁に出せる」(アラビア語)

 父親の言葉を翻訳してもらった良美が少女を見る。

「どう見ても、十歳位だよね?」

「この国では、初潮が来た後なら、結婚が平気なんだよ」

 較の言葉に良美が考えてから言う。

「それじゃあ、この子が好きな男性を見つけたって事。面白い国だな」

 較が首を横に振る。

「この場合は、本人の意思なんて関係ない。多分、この父親と相手の男性で決めたんだよ。母親は、反対なんだろうね」

 良美が怒鳴る。

「それじゃ、政略結婚って奴か!」

 いきなりの良美の大声に驚く少女の両親。

「もっと酷い。今回は、多分、娘を借金のかたに差し出したんだよ」

 較の答えを聞いて父親を睨む良美。

「実の娘にそんな事をさせる気だったのか!」

 今にも殴りかかりそうな良美を押さえ込み較が言う。

「最初にいっておくけど、この国では、よくある事だよ」

 悔しそうな顔をする良美。

「だけど、目の前で行われようとしている事くらい止めても良いだろ?」

「止めるってどのレベル? ただ、父親に今回の事を止めさせるだけじゃ、多分、借金苦の一家心中って事もあるけど?」

 較の突っ込みに良美が戸惑う。

「ヤヤが、援助すれば……」

「やっても良いけど、娘を差し出す父親が反省するとは、思えないよ」

 較が淡々と答える。

「何を言っているか解らないが、娘は、今夜にもダブダッタさんの所に行かなければ行けないんだ!」(アラビア語)

 較の腕から少女を奪い取り父親は、玄関を閉める。

「あいつ、半殺しにして良いと思う」

 良美が本気の目で言うが較が肩をすくめて言う。

「別に止めないし、合法的にする方法を提示しても良いけど、たいして意味が無いと思う」

 ため息を吐く良美。

「何か、この国の一番悪い所を見た気がする」

 較がフォローしようとした時、携帯がなる。

「イートコが接触した人間の目的がつかめた? ダブダッタって王族関係者が年端もいかない少女を金で自由にしようとしているのを止めさせるつもり……」

「タイムリー過ぎないか?」

 良美の突っ込みに較が右手を見せて言う。

「そういう運命だから」

「トラブルの方から近づいてくる宿命だったっけ」

 良美も諦める。



 少女の嫁入りの夜。

 男が居た。

 彼は、子供の頃、好きな少女が居た。

 その少女の家は、多額の借金を抱え、ダブダッタにまだ十歳で嫁入りする事になった。

 それから半年もしない内に、少女が悲惨な姿で死んでいた。

 ダブダッタは、変質的な性癖を持っていたのだ。

 幼い少女を薬で狂わせた挙句、性的にも、肉体と精神を苛め抜くと言う拷問としか呼べないもので、少女が死んだにも関わらず、少女の親族が起こした裁判で、ダブダッタは、無罪を勝ち取った。

 全ては、夫婦間の営みによる事故とされたのだ。

 その日から男の復讐の為の力を手に入れる為の日々が始まった。

 王族関係者であるダブダッタを倒す為には、尋常の力では、足らなかった。

 銃器を手に入れ、戦闘術を習得し、挙句の果てには、妖しい呪いまで手を伸ばした。

 それでも、男の手が、ダブダッタに届く事は、無かった。

 打ち破れ、死を待つだけの男を救ったのがイートコだった。

 そして、イートコは、男に新たな力を与えるチャンスを与えてしまった。



「何だよ、あれ?」(アラビア語)

 警備の兵達がどよめく。

 それは、ドラゴンだった。

 機械の装備を纏ったドラゴンに駆って、男は、ダブダッタの豪邸を襲撃した。

 竜の前に通常兵器は、無力だった。

 弛みきった腹、節操という物を感じさえない顔つき、不相応な豪華な衣装を纏った男、ダブダッタが従者長に怒鳴る。

「国軍は、何をやっている! 国王とも親族の私が、命を狙われているのだぞ! 今すぐ救援に来るのが当然だろうが!」(アラビア語)

「いきなり化け物が現れたと言っても、相手も信じて下さらなく……」(アラビア語)

 言葉を濁す従者長に切れ、ダブダッタが自ら電話を取る。

「さっさと軍隊をだせ! お前の首を飛ばすなど簡単な事なんだぞ!」(アラビア語)

「軍隊が来ても無駄だと思うけどね」

 較がゆっくりと豪邸の中に入ってきた。

「貴様、何者だ!」(アラビア語)

 ダブダッタの言葉に較が笑顔で答える。

「用心棒の押し売り。買う気になったら、この契約書にサインして」(アラビア語)

 日本語で書かれた契約書を見せる較にダブダッタが鼻で笑う。

「そんな者が必要なものか! 丁度いい、勝手に人の屋敷に侵入した罪は、その身体で払ってもらうぞ!」(アラビア語)

 自信満々に告げるダブダッタを無視して、良美が外に居る竜を見る。

「ドラゴンって人間に操れる物なんだ?」

「普通は、無理。どんなシステム使ってるのか、かなり興味があるね」

 較が暢気に感想を述べている間にも、戦闘ヘリが飛んできて、ドラゴンに攻撃を開始する。

 何発ものミサイルが命中し、土煙があがる。

「私の絶対権力の前に、化け物だろうが、関係ないのだ!」(アラビア語)

 勝ち誇るダブダッタだったが、土煙が晴れた後、無傷の竜が居た。

「馬鹿な……」(アラビア語)

 ダブダッタが愕然とする中、戦闘ヘリからの応援の連絡に次々と現れるジェット戦闘機や戦車。

 しかし、そのどれもが傷一つ負わせる事が出来ず、一方的に蹴散らされていく。

「流石にドラゴンは、強力だね」

 良美は、平然と感想を述べる。

「ドラゴンの周囲に展開されているドラゴンワールドは、物理法則の書き換えを行えるから、通常兵器では、核兵器でも傷一つ負わないからね」

 較も平然としている。

 化け物大戦が日常の二人と違う、ダブダッタが腰を抜かし、失禁をしていた。

「誰でも良い! 誰かあれを止めてくれ!」(アラビア語)

 較が笑顔で、契約書を見せる。

「だから、ここにサインしなよ。あちきがあいつを倒してあげるから」(アラビア語)

「サインでも何でもするから、さっさと倒せ!」(アラビア語)

 ダブダッタがそう叫びながらサインする。

 較がドラゴンの前に立つ。

『立ち去れ! 俺の敵は、その人間の屑だけだ!』(アラビア語)

 ドラゴンに着けられたスピーカーから聞こえる男の声に較が苦笑する。

「復讐なんて無意味だなんて奇麗事は、言わないよ。でもね、力で相手を屈服させるだけじゃ、自己満足だよ」(アラビア語)

『自己満足だろうが構わない! それで、救われる少女が居る。それで俺は、満足だ!』(アラビア語)

 自信たっぷりに男が断言する。

「自己満足に付き合う必要なんて無いね」(アラビア語)

 較がそういうと駆け出す。

『お前も下らぬ権力に尻尾を振り、弱者を踏みにじる屑か! 死ね!』(アラビア語)

 男の怒りの声と共に放たれるドラゴンブレス。

 鉄すら溶かす業火がダブダッタの庭を焼き尽くす。

『フェニックス』

 炎が不死鳥の形を取り、ドラゴンを襲う。

『馬鹿な!』(アラビア語)

 驚愕する男が見たのは、業火の中心に居ながら焼けど一つない較であった。

 そうしている間もドラゴンが吼え、自分にまとわりついた炎を弾き飛ばす。

「所詮は、戦闘経験が少ない低級ドラゴンだね。無駄に力を使う」

 較は、両手を揃えてドラゴンの前足に振り下ろす。

『オーディーングレートソード』

 足を断ち切られ、倒れるドラゴン。

『ナーガ』

 地面が立ち上がり、倒れたドラゴンの首に食い込む。

『立ち上がれ! 立ち上がるんだ!』(アラビア語)

 男の必死に声にドラゴンが応え、土の竜を砕き、立ち上がった。

 較が悠然と告げる。

「ドラゴンは、確かに最強種族かもしれない。でもね、戦いは、基礎能力だけで決まるものじゃない。特に戦いも知らない低級ドラゴンなんて、ドラゴンワールドさえ無効化すれば雑魚だよ」(アラビア語)

『まだだ! 俺がサポートする!』(アラビア語)

 男がそういうと、ドラゴンブレスで地面を削り土煙を作らせる。

「なるほど、煙幕って訳か、でもね、甘い『アポロンビーム』」

 上空に打ち出された熱線が上空から突破しようとしたドラゴンの翼に大穴を空ける。

「あちきね、戦闘中は、あまり視界に頼らないの。微量の気を放出して、その返りで周りの状況を見ているから、こんな手は、通用しないよ」(アラビア語)

 落下したドラゴンだが地上直前で落下速度をゼロにして、軟着陸をする。

「ドラゴンワールドって本当に便利だね」

 良美がしみじみと言うが、男にとっては、悪夢でしか無かった。

 絶対と思っていたドラゴンの力が通用しない。

 そんな悪夢が目の前に展開されているのだから。

『これならばどうだ!』(アラビア語)

 男の声と共に叩きつけられるドラゴンの尻尾をあっさりかわす較。

 しかしその瞬間、尻尾に仕込まれたミサイルが発射される。

「至近距離からのミサイル攻撃。回避は、難しいね。でも手が無いわけじゃない。『韋駄天』」

 肉体能力強化で、一気にミサイルの隙間を通り過ぎていく。

 ミサイルの爆風で更に加速して、一気にドラゴンの腹に手刀を食い込ませる。

『オーディーン』

 ドラゴンは、腹を切り裂かれ、大量の血が地面に毀れだす。

 そして、較は、長い詠唱を始める。

『白き風よ、敵の血を導きて、陣をひき、血を媒介に元の世界へ送り帰せ。白風返還血陣ハクフウヘンカンケツジン

 ドラゴンの血で描かれた魔法陣が光り輝き、ドラゴンを元の世界に送り帰す。

 残されたのは、ドラゴンに装備された機械と搭乗者の男だけだった。

 悔しそうに地面を叩く男。

「今度こそ、奴を殺せると思ったのに!」(アラビア語)

「さっきも言ったよ。殺しても自己満足でしかない。復讐をするならもっと徹底的にやらないとね」(アラビア語)

 そう告げた後、較は、男に耳打ちして、逃がす。



 数日後、ダブダッタに呼び出された較達。

「こないだは、助かった。今日は、存分に楽しんでいってくれ」(アラビア語)

 ダブダッタが上機嫌で告げる。

 その横には、あの少女が居た。

 あの事件で遅れ遅れになっていたが、今日が嫁入りの日だったのだ。

 この後に暗く、絶望に満ちた生活を思い、暗い顔をしていた。

「残念だけど、そうならないだろうけどね」(アラビア語)

 較がそう告げた時、一斉に扉が開く。

「ここは、もうお前の屋敷じゃない。全てこの雨林十斗の物だ」(アラビア語)

 戦闘の男性、世界的な事業家、雨林十斗が現れた。

「貴様、ここを何処だと思っている!」(アラビア語)

 ダブダッタがいきり立つが十斗があの時の契約書を見せて言う。

「もう、私の屋敷だ。お前があの時にサインした書類には、全ての財産と権限を俺に譲渡すると書かれてあったのだよ」(アラビア語)

 ダブダッタが較を睨む。

「貴様、図ったな!」(アラビア語)

 笑顔で答える較。

「当然じゃない。なんであんたみたいな少女の敵を護ると思ったの?」(アラビア語)

「違法だ! こんな契約は、無効にしてやる!」(アラビア語)

 無様に主張するダブダッタを見て、十斗が馬鹿笑いを上げる。

「馬鹿が、何でこんな日数かかったと思っているんだ。この書類を有効にする為だよ。諦めな、お前に味方する奴らには、既に手を打った。もうお前を救える奴なんて何処にも居ないさ」

 その言葉が示すように、使用人たちがダブダッタの傍から離れていく。

 最後に執事長が一通の速達を見せる。

「裁判所からの速達です。お渡しを忘れてすいませんでした」(アラビア語)

 その速達こそ、契約を無効にする最後の手段だった。

 そして、あの復讐を願っていた男が少女に寄り添う。

「この子は、私が貰い受ける。あいつがおくれなかった幸せな人生を与えてやる。そしてそれをどん底に落ちたお前にそれを見せ付けてやる」(アラビア語)

 崩れ落ちるダブダッタ。



 元ダブダッタの屋敷を出る較達。

「あの馬鹿な親とも離れて、あの子にとっては、幸せなのかもね」

 良美の言葉に較が頷く。

「あの人のことだから死んでもあの子を幸せにするだろうね」

「大きくなったあの少女に求婚されて困惑するって可能性もあるぞ」

 十斗の言葉に良美が笑う。

「ありえる!」

 朗らかな空気の中、較が言う。

「今回のあれってもしかして?」

「裏で動いているのは、十三だろうな」

 辛そうな顔をする十斗。

「袂を割ったって本当だったんだね」

 較の質問に十斗が言う。

「もう、復讐だけ動けなくなってしまったからな」

 較が振り返り言う。

「復讐って強い力になるのは、一時なんだよね。その後には、何も残らない。本当の力を生み出すのは、たった一つ、愛の力だね」

「言ってて恥ずかしくない?」

 良美が突っ込む。

「しかし、本当ですよ。復讐の元も愛ですからね」

 何時ものように突然現れるイートコ。

「次は、どこ?」

 鋭い視線で言う較にイートコが告げる。

「ロシア。その極寒の地で抗い続ける人が居ます。どうか彼を解放してあげてください」

「今回は、随分とストレートだね」

 良美の言葉にイートコが悲しそうな顔をする。

「あの人は、もう自分で止まる事が出来ないのです。全ては、愛ゆえに」

 そのまま消えるイートコであった。

「何時もながら大変そうだな?」

 十斗の言葉に較に白い光に帯びる右腕を見せる。

「仕方ないよ、世界を危険に晒し続ける贖いなんだから」

「この星一つ滅ぼすのも容易な力か。世界は、なんて脆いんだろうな?」

 十斗の質問に良美が言う。

「だから人の心が強いんだよ。脆い世界を壊さないように」

 遠い目をする十斗。

「そうだな。だから私は、明日に向かって歩む者の力になりたい」

 十斗と別れ、較と良美は、ロシアに向かうのであった。

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