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万能薬を持つ医者

万能薬の代償、貴方は、何処まで認められますか?

「ドイツのウインナーって美味しいね」

 良美がそういって本場のウインナーに齧り付く。

 暫く、そうやってウインナーを食べた後、良美が疑問を口にする。

「それで、どうしてあたし達は、ドイツに来てたるの?」

 較が大きくため息を吐く。

「そういう質問は、移動途中にしない?」

「移動中は、寝てたから。それでどうしてなの?」

 気にもしてない良美に諦めて較が言う。

「前回の電話の発進先がこの近くなんだよ」

「ふーん、イートコがこの近くに居るって事だよね? それで、さっきから雑誌や新聞を見ているのは、何で?」

 良美の質問に較が新聞を見せながら言う。

「イートコが関わっている騒動が無いかと思ってね」

 その中から一冊の三流紙に目を付ける較。

「こんな所が怪しいね。どんな病気でも治してしまう魔法の薬を持つ医者が居るってさ」

「そんなの良くある法螺じゃないの?」

 良美の言葉に較が頷く。

「その可能性も高いけど、問題は、この医者が、高い金を取っていないこと。時には、ホームレスにもその薬を分け与えている」

「パフォーマンスって可能性もあるじゃん」

 良美の突っ込みに較が苦笑する。

「それも否定しないけど、ヒントが少ないからそこから調べていくよ」

 問題の医者の所に向かう較達であった。



 高級車が並ぶ道を歩いていくと、その先には、あった小さな診療所があった。

「ここが、問題の診療所みたいだね」

 較が調べた住所を確認していると、診療所のドアが開き、いかにも金持ちって人間が出てくる。

「馬鹿にしおって、このペテン師が!」(ドイツ語)

 怒り顔で出て行く金持ち。

 そんな光景が暫く続いた後、見るからに金がなさそうな女性が涙ながら出てくる。

「先生、このご恩は、絶対に忘れません!」(ドイツ語)

 眉を寄せる較。

「まるで貧乏人だけを見る名医って感じだね」

「そんなのが実在するのか?」

 良美の疑問に較が腕を組む。

「難しいと思うけど、実際に会ってから考えてみよう」

 そして、扉を開けるとそこには、多くの患者と相対していた目の下に隈を作った医者が居た。

「貴方達も噂を聞いて来た金持ちかい! 先生は、普通じゃ治らない患者しかみないよ!」(ドイツ語)

 看護婦らしいおばさんの言葉に、較が答える。

「あちき達は、その先生と話をする為に来ました。出来たら話をさせてくれませんか?」(ドイツ語)

「また、雑誌の取材かい? 困るんだよね、あれの所為で勘違いした金持ちが一杯きてるんだよ!」(ドイツ語)

 看護婦の言葉に較は、困った顔をして言う。

「取材じゃないです。ただ、イートコって奴と会った事が無いか、聞きたくて」(ドイツ語)

 その一言に医者が振り返る。

「あの人の事を知っているのか?」(ドイツ語)

 較が頷く。

「その人とどんな話をしたか知りたくて来ました」(ドイツ語)

 医者は、少し迷った後に告げた。

「患者の治療がある、夕食の時間にまた来てくれ」(ドイツ語)

 較が頷き、診療所を出て行く。



 夕食の時間、さすがにその時間になると患者は、居なかった。

「日本語で話した方が良いかい?」(ドイツ語)

 医者の言葉に較が頷く。

「そうしていただけると助かります」(ドイツ語)

「これでも学生の時は、日本文化を研究していてね。ブラックジャックに感動してこっちの道に入ったんだよ」

 医者の言葉に良美が首を傾げる。

「ブラックジャックって横文字の小説があるの?」

 較が首を横に振る。

「手塚治の代表作の一つ、凄腕の名医、ブラックジャックが活躍する漫画だよ」

 医者、ドクターミハイルが頷く。

「日本の漫画は、世界に誇れる文化だ」

「その割には、随分と良心的な治療をしているみたいですが?」

 較の指摘に苦笑するミハイル。

「良心的? 残念だが、僕に比べればお金で治療するブラックジャックの方が何倍も良心的ですよ」

 それを聞いて、較は、ある可能性に気付いた。

「もしかして、万能薬の正体って魂の妙薬ですか?」

 ミハイルが驚く。

「知ってるのか? そうだな、君たちは、イートコさんの知り合いなんだから知っててもおかしくないか。そう、僕は、患者の親族の魂を薬に変えてるんだよ。最低な医者だよ」

「ヤヤ、魂の妙薬って何だ?」

 良美の質問に較が答える。

「霊薬の中でもトップクラスの効果がある薬。人がかかる病の殆どを治せる筈だよ。ただし、重病を治そうとすればするほど大量の魂、人の寿命が必要だって話だよ」

 ミハイルが頷く。

「不治の病となれば、提供者の半分以上の寿命を削る事になる。僕は、医療行為と言いながら、人の命を縮めているんだよ」

 重い空気の中、較が質問を再開する。

「魂の妙薬の作り方をイートコから教わった時の事を詳しく教えてください」

 ミハイルが診療所を見て言う。

「当時から、こんな小さな診療所でも格安だからそこそこの患者が居たよ。その中に、完全に手遅れの子供が一人居た。大きな病院に行っても延命が精々って感じだった。心臓の病で、心臓移植でもしなければ助からないが、とてもじゃないが、移植に適した心臓が見つかるまでその子供の命がもちそうも無かった。その子の親が必死に願うんだ、自分達の心臓を使っても良いから子供を救ってくれと。しかし、例え親子でも大人の心臓では、子供は、救えない。悩んでいる僕のところにイートコが現れて、魂の妙薬の事を教えてくれた。患者やその家族に全て伝えるって条件で作り方を教わった。そして、その母親は、自ら進んで自分の魂を差し出し、子供は、助かったよ」

「良かったじゃん」

 良美の言葉にミハイルが怒鳴る。

「何が良かったものか! その母親は、一ヶ月もしないうちに死んだ。完全に魂の妙薬の所為だ!」

「魂の妙薬、効果が高い分、その代償の大きさで有名だよ。裏でも代償の危険性から禁断の薬扱いされてる」

 較の解説にミハイルが頷く。

「正に禁断の果実だった。もう使うまいと思っていたが、噂を聞きつけた多くの患者が、魂の妙薬を求めた。例え自分が死ぬ事になっても大切の誰かを救いたいと訴えてくるんだ!」

 震える手を見て較が言う。

「一度、禁断の果実を食べた者は、二度と楽園には、戻れないって奴ですよ」

 ミハイルが天を仰ぎ告げる。

「正にその通りだよ。僕は、過ちを犯した。その罪を償い続けなければいけない。医者でありながら人の命を奪った罪を」

「ありがとうございました」

 その言い残し、較達は、診療所を出るのであった。

「かなり重い話だったね」

 良美の言葉に較が言う。

「目の下の隈みた? 多分、毎晩死んだ人の事が夢に出てろくに眠れても居ないよ」

 良美がため息を吐く。

「死なせたくない人が居て、その為に魂を消費して命を救った。それを手助けした医者が罪悪感を持つ、嫌な展開だね」

 頭をかく較。

「あちき達は、人の事をいえないよ。自分達の魂を削ってホワイトファングを撃ってるんだから」

「そうだったね」

 軽い口調の良美に較が目を吊り上げる。

「実感が足りない! あちきよりヨシの方が命の危険が高いんだからね!」

「それでも撃たなければいけないときは、撃つしかないだろ?」

 良美の言葉に較が渋々頷く。

「ミハイルさんも同じなんだよ。自分の行為が誰かの命を縮める事になると判っていても、目の前の命を救うため仕方なく魂の妙薬を使ってしまう」

「やりきれない話だな」

 良美の言葉に較が頷く。



 翌日、較は、ホテルで新しいイートコの情報を調べていると、良美が駆け込んで来た。

「ヤヤ、ミハイルさんの診療所が、取り壊されそうになってる!」

 較は、即座に立ち上がり、駆け出すのであった。



 診療所にパワーシャベルがその牙を剥こうとしていた。

「止めろ! 先生に何をするんだ!」(ドイツ語)

 患者と元患者達が診療所を守る様に立ち塞がるが、金持ちに雇われたあらくれもの達が言う。

「邪魔だ、どきやがれ! この生意気な医者の診療所を壊してやるんだよ。そうすれば、大人しく万能薬を差し出すことだろうよ!」(ドイツ語)

 周りの人間に危害が及ぶことなど無視してパワーシャベルが進む。

「先生、逃げてください!」(ドイツ語)

 看護婦の言葉にミハイルが首を横に振る。

「ここで死ぬのだったら、それが天命さ」(ドイツ語)

「そんな天命は、認めない!」

 そんな日本語と共に、パワーシャベルのアームが止まる。

 驚愕の声が上がる中、ミハイルが外を見ると較がアームを止めていた。

「ガキ、邪魔するな!」(ドイツ語)

 パワーシャベルを押し込まれるが、較は、逆にパワーシャベルを持ち上げて、投げ飛ばしてしまう。

 周りから歓声があがる中、患者の一人、痩せた少年が倒れた。

「拙い、そのこは!」(ドイツ語)

 ミハイルが、少年に駆け寄り、診察をして悔しそうに言う。

「このままじゃ駄目だ! 早く、あの薬を使わなければ!」(ドイツ語)

「しかし、その子には、あの薬の代償になる様な人が……」(ドイツ語)

 事情をしる看護婦が言葉に詰まる。

「誰か、彼に少しでも魂を分けてくれないか!」(ドイツ語)

 ミハイルの必死の訴えから視線を逸らす人々。

 そんな中、誰とも無く一つの呟きがもれた。

「それだったら、自分の魂を使えばいいじゃないか?」(ドイツ語)

 言った本人も、周りの人間も単なる言い掛かりでしかないと思った。

 しかし、それを聞いたミハイルだけは、違う反応を示した。

「そうか、僕は、何を悩んでいたんだ。最初からこうしておけばよかったのだ」(ドイツ語)

 そして、ミハイルは、自らの胸に十字の傷を作り、魂の妙薬を作る小瓶を押し当てようとした。

「止めてください! 先生は、もっと沢山の命を救わなければいけないんです!」(ドイツ語)

 看護婦だけでなく、周りの患者達も必死に止める。

 しかし、ミハイルが首を横に振る。

「今回の事で判っただろう。患者を救っていたのは、自分の魂を削って与えてきた人々だと。僕は、その助けをしてきただけなんだ。僕は、初めて自分の力でこの少年の命を救える」(ドイツ語)

 作った魂の妙薬を与え、回復していく少年を見て安堵の表情をするミハイル。

 少年をベッドに寝かせるとミハイルは、患者達に告げた。

「最後の治療だ。この命が尽きるまで、一人でも多くの人を治療しよう」(ドイツ語)

 多くの人が拒み、止めようとした、しかしミハイルは、その意志を曲げようとしなかった。

 そして、重病に冒されていたが、母親しかいない乳飲み子をその母の手の中で治療しきった後、ミハイルは、永眠につく。

 その死に顔は、安らかなものであった。



「結局さ、何が正しかったんだろうね?」

 ウインナーを食べながらの良美の呟きに較が手に持っていた資料をしまって、天を仰ぐ。

「あちきには、全然判らないよ。もし判る者が居たとしたら、それは、神様だけかもね」

 そんな中、イートコが姿を現す。

「そろそろ分身が出てくる頃だと思ったよ」

 イートコは、一枚の写真を差し出す。

「そこに写っている子供が、ミハイルさんが最初に命を救った子供です」

 医者の勉強を一生懸命する少年の写真だった。

「ミハイルさんの医術で人を救いたいって思いは、引き継がれていくと思います」

 イートコの言葉に較が頷く。

「それだけは、信じたいね。それで、いま何処に居るの?」

 イートコが戸惑う。

「答えると思っているのですか?」

 較が頷く。

「だって、あちきに来て欲しいんでしょ? あんたがばら撒いた種をちゃんと芽吹かせる為にあちきを利用している。違うの?」

「だから、前回の此処から電話してきたんだ!」

 良美がようやく気付く中、イートコが神妙な顔つきになる。

「そこまで判っていましたか。そうです、中途半端にしか、干渉できない私の代わりに、決着をつけてもらう為に貴方達を利用していました」

「何か裏がある事くらい気付いてたよ。キーワードは、縁。貴方は、自分では、出来ない強い縁をあちきに作らせようとしている」

 較の指摘にイートコが頷く。

「その通りです。次の場所は、カンボジアです」

 それだけを言い残すと消えていくイートコ。

「行くのか?」

 良美の言葉に較がたずね返す。

「利用されているとしても一度関わった以上、ほっておくわけには、行かないでしょ?」

「当然だな。相手の目論見なんて噛み砕いてやろう!」

 良美の言葉に較が頷き、カンボジアに向かうのであった。

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