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捨て猫とアンパン

作者: 巫 夏希

 喫茶店を出ると雨が降っていた。


「……」

「すげえ雨だな。そこにある傘もってっていいよ」


 そう言われたので俺は傘を一本持っていった。

 雨は好きだ。一番好きなところといえば、雨の降ってから香るこのじめじめとした香りだ。なんとも言えないこの香りが俺は好きだった。

 ふと周りを見るとサラリーマンと思われる男がカバンを傘代わりにして走っていた。頑張ってるなあ、コンビニで傘でも買えばいいのに。


「にゃー」


 ふと、下を見ると小さなダンボール箱があった。


「……なんだ、猫か」


 なんだ、とは言ってはいけないのだろう。猫に失礼だ。

 たぶん捨てられたのだろうか。ダンボールはずぶ濡れになっていて、マジックで恐らく『捨て猫です。拾ってください』的なメッセージが見えなくなっているほどだ。

 ううむ。俺は猫は嫌いでもないから拾ってやってもいいんだが。

 生憎、俺の家はアパートで動物が禁止である。

 さて、どうしようか。


「……にゃー?」

「そんな悲しげな声で啼くなよ」


 俺のアパートが悪いんだ……! そう考えて俺はすこし小走りに家路に着いた。






 ……そんな非人道的行為が出来るだろうか? 少なくとも俺には出来なかった。


「……まだ、あの猫いるよな……?」


 時計を見るとあれから二分が経っていた。風邪をひいているか、大丈夫か。猫を見た。猫は弱っているらしい。これはまずい。


「ひとまず……」


 俺はジャンパーのポケットを探ってあるものを取り出した。

 先程コンビニで買った八十八円のこし餡のアンパンだ。

 一口大にちぎって、猫にあげる。猫は悲しそうに啼いていたが俺が食料を差し出しているのを見て少しだけ嬉しそうな声で啼いた。代弁するなら「早くその手にあるパンをよこせ!」と言う感じだろうか。


「……だいじょうぶ。やるから」

「にゃー!」


 猫はなんと飛びついてきた。

 うわっ。

 その急な行為に驚いてしまった俺は思わずパンを地面に落としてしまった。

 それを見て猫はすごいスピードでパンにかぶりついてきた。

 よっぽど腹が減っていたんだろうか。


「……寒いだろ。俺のジャンパーの中に入れよ」


 中の服が濡れてしまうが、この際どうでもいい。

 猫を誘うと意外にあっさりと入っていった。

 さて、この猫をどう言い訳しようか。

 俺は大家に何を言おうかふと空を見上げた。

 先程まで一メートル先が怪しいほどの恐ろしい霧雨は、もう止みつつあった。

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