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[The magic bibles]  作者: マポリー
第一章
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第六話「恐怖からの逃亡」

 数瞬後に爆音が轟き、咄嗟に腕で庇う。


 その後腕を降ろし、そちらを見る。……予想通り、そこには二人の人影が倒れていた。一人は大柄な男、もう一人は少年……


 よたよたと駆け寄り、レオンのすぐ手前で転んだ。四つんばいのまま、冷たい地面に倒れている親友を見る。


「レオン……俺達ここから逃げるって言ったよなあ? 死んだら何もできないぞ?」


 レオンの目を見る。光が無くて、冷たくて、それでいて深くて……


「うわぁぁぁぁ!!」


 俺が……俺が弱いから……!


 そうだ。アイツをやろう。レオンを死に追い詰めたアイツを。


 そこに転がっている衛兵を睨み付け、立ち上がり剣を取る。


 縦に持ち、振り下ろした。衛兵の脇腹にそれが突き刺さり、血が溢れだす。


 もっとぉ、もっとだ……


 柄を回して傷口を広げた。辺りに血と肉片が飛散する。


 まだだ……コイツは徹底的に……


 と、いきなり肩を捕まれた。


「邪魔をするな!!」


 振り返りながら剣を凪ぐ。これでまたこの衛兵を……


 ――囚人。俺が今斬ったのは囚人だった。血が辺りに飛んで、糸が切れたようにその囚人が崩れ落ちる。


 違う、俺が斬らなければいけないのは衛兵。囚人は仲間……




 俺は、仲間を斬った……?


 嘘だ……斬らなきゃ……衛兵を斬らなきゃ……


「うわぁぁぁぁ!!」


 すぐに近くの衛兵に向かって走りだす。その衛兵は避ける暇もなく俺が持つ刃の獲物となった。


 もっと……もっと斬らなきゃ……


 もっと…………斬らなきゃ? 衛兵にも命があるのに?




 ――違う。憎むべきは衛兵じゃない。憎むべきなのは帝国だ。衛兵個人は憎むべきじゃない。


「ごめん……でも、ありがとう」


 俺は今斬った衛兵にそう言い残すと、部屋から伸びる通路へと走りだした。


 そうだ、殺された仲間の為にも帝国を潰さなければ。そうしないとレオンも衛兵も報われない。


 通路に入る頃には数人の衛兵が俺を追ってきていた。俺が狂気の殺人鬼だと知って尚も、任務を続行するらしい。俺にはその任務を完遂させる義理なんて無い。あくまでそれとこれとは別だ。ただ、今となっては衛兵を斬ることはできないだろう。


 奥に扉が見えてくる。あの地図がダミーでないことに少しほっとした。


 扉のすぐ前まで来た。すぐにドアノブがあるであろう位置に手を持っていく。


 無い。反対か。


 ここにも無い。……無い?


 素早く扉を見回す。




 無い。無いのだ。ドアノブが。


 すぐ後ろで足音が聞こえている。あと数秒で俺の背中に……


 パニックになって扉にタックルする。勿論開かない。押したり持ち上げたりしてみたが動く気配すらない。


 自棄になって扉を叩く。


 元から成功する自信なんて無かった。でも弱い自分が嫌だった。だから弱気な心を押さえつけて……


 ――君の願いはなんだ?――


 ――ハッと顔を上げると周りの動きは止まっていた。そう、さっき階段の前で聞いたあの声。しかし、今回は先程と少し違う。


「俺の……願い?」


 ……俺だけは動ける。振り返って、通路の何もない天井を見上げた。


 ――そう、願い。君が今どうしたいか、君は今どうするべきか――


「俺は……」


 剣をゆっくりと引き抜く。とても真っ直ぐで、純粋に輝いていて……


「……俺は、生きたい。まだやらなきゃいけないことは山ほどあるんだ」


 ――そうか……――


 声が一瞬の間をあけて、また喋りだした。


 ――剣の柄の先端に宝玉が埋め込まれているだろう?――


 柄の先を見ると、声が言った通り紅い宝玉が埋め込まれていた。


 ――それは魔力を増幅させる石でな。その扉は魔力で封じられていて……――


「魔力……って?」


 ――要するに力だ。腕力ではない、霊的なもの……とでも言おうか。その石を伝って君の魔力を扉に流し込めば、そこから出られる――


「流し込むって一体どうやって……」


 ――では、健闘を祈る――


 またしても、俺が問う前に声は消えてしまった。


 周りは既に元の様に時を刻んでいる。止まっている暇はない。


 手に持った剣の柄を扉に押しあてた。そのまま押してみる。


 ……駄目だ。腕力じゃないって声も言ってたじゃないか。


 剣を持った右手の二の腕を左手に持たせ、力を込める。


 今度は、扉が少し揺らいだ。込める力を大きくするにつれて、扉の揺らぎも大きくなる。


 これでやっと……




 ……いや、そんな上手くいくはずは無い。扉の揺らぎは一定の大きさで止まってしまった。


 もっと力を込めろ……。そんな気持ちだけが空回りする。


 後方で剣を振り上げる風切り音が聞こえた。数瞬後には俺の無防備な背中に斬撃が叩き込まれる……


 嫌だ、嫌だ嫌だ!! 早く、早く……


「早く!!」


 ――瞬間、扉が消えた。無意識に体重をかけていたらしく、前方につんのめる。


 まだ……追ってくる。


 いつの間にか俺は走り出していた。


 どれだけ走ったか、追ってきているかなんて分からない。止まったら後ろから追ってきた衛兵に剣を突き付けられる気がして止まれない。


 ……そうして走っている内に、俺は気を失った。


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