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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
最終章
75/85

記憶喪失の転生者

今回が最終回の後半です。



アレキサンドラ・サッピールス様へ


貴方がこの手紙を読んでいる頃には、私はもうここにいないと思います…なんてずっと真面目に書くのは疲れるので、いつもの感じで書きます。

結局、私は元気な姿を見せられなかった。約束守れなくてごめんなさい。そこだけはまず謝っておきます。

こんなことになったのは、単純に病気だけが理由ではないんです。私が貴方を愛した記憶を失ったきっかけでもある、ミカエラって名乗る堕天使のせいです。

また訳の分からないことを言ってるかもしれないですが、こればっかりは本当なんですよ。


まず、私が貴方を愛する記憶を無くした上に、純粋無垢な頃とは真逆な腹黒人間になったのは、そのミカエラに騙されたからです。

記憶が無かった頃の私は、良く言えば純粋で、悪く言えば幼くて騙されやすい人間だった。だからすぐにいつか貴方に捨てられるという有りもしない嘘を信じて怯えて、ミカエラと契約した。

前世の記憶と引き換えにこの世界で過ごした記憶、アレキサンドラ・サッピールスを愛する気持ちを捨てるっていう、ただ死ぬよりもずっと残酷なことを受け入れたんです。


その後は、まだ前世の記憶が戻ってないフリをしながら過ごすことにしていました。でも、アメリとマティルダにまた絡まれて嫌なことばかり言われてしまって、黙って耐えることができなかったんです。やられっぱなしでいるくらいならと思った私は、二人を成敗するために本性を露わにし、転生者であることをついでに明かすことで、貴方に完全に嫌われようとした。いつか捨てられる日が来るぐらいなら、もうさっさと嫌われてしまう方が良いと思っていたんです。

それなのに、貴方は転生者っていう事実を受け入れるだけじゃなく、あの場で仮にもガルシア侯爵の娘とその友人に逆らって騒ぎを起こした私を何故か気に入るし、本当に予想外のことばかりでした。


最初のうちは、貴方のことは恋愛対象として考えるどころか、関わるのも絶対ダメだと考えていました。

ただでさえ貴方は国王で、そんな立場の人と恋愛関係持ったら周りからよく思われない。貴方自身が元々女好きというわけじゃないからこそ、王妃であるリナリア様は哀れに思われる。そのことも相まって、出生も卑しくて怪しい転生者である私は、ただの愛妾以上に非難されてしまう。それに、貴方は他の人の何倍も優しいことで、その気が無くても誰かを変に期待させる所がある。

私みたいに裏切られたことのある人にとっては、それだけ優しい人に裏切られる日が来るかもしれないという不安は、一層大きくなった。

それらの要素もあって、最悪な未来が待っている可能性は高いと思っていました。


でも、貴方と過ごしていると楽しいんです。

変に気を遣って失敗しても怒らないでくれるし、何より心が落ち着く。不安を何もかも忘れてしまうぐらい。

それに、今まで私が知らなかった貴方の色んな一面を知ることができた。

私の過去の話も変な同情しないでちゃんと聞いてくれるだけじゃない。本当は気弱で臆病なのを隠すために性格擬態をしてきたと知っても、全部今まで頑張ってきたことだって受け入れてくれた。


そんな人、本当に貴方が初めてだった。


ライヤ・ラズライトに転生した真佑に今までの全てを否定されて傷つけられて、また苦しめられるって怯えていた時も、気味悪がったりせず、絶対に傷つけたりしないって言ってくれた。

あの時は今までの人生が救われたような気がして、本当に嬉しかった。貴方に捨てられるかもしれない未来とか、全部忘れてしまうくらい。


貴方がいつか私を捨てるなんて、普通に考えればありえないことなのに気づけなかった。そのくせ、万が一にも傷ついてしまう日が来ることを恐れていながら、優しくされる度に好きだって認めてしまいそうな自分を嫌いになることが何度もあった。

それだけじゃない。貴方を好きになったら私は死ぬことになっているのを無意識に感じて、必死で自分の気持ちに蓋をしてきた。

そうやって気持ちを押さえつけることに限界が来た私は、少しでも貴方と一緒にいたいがために、ミカエラの持ちかけた最後の契約を受け入れようかと思ったんです。


前世のことも全部含めた今までの記憶を全部消す代わりに、血を吐くといった病気のこともなかったことにして、元々の寿命まで生き延びることができる。

そうでなければ、貴方を好きだと認める代わりに、その瞬間から寿命は残り一日になる。

そのどちらか一つを、選ぶようにと。


私が最初にミカエラと契約した瞬間を思い出した時に、向こうから提案されました。本当にミカエラは悪魔みたいな契約持ちかけてきますよね。まあ、騙されて最初の契約を普通に受け入れた私も私ですが。

私は、契約で前者の方を選ぼうとしていたんです。

全ての記憶が消えても死なずに済んで、貴方や他の大事な人たちといられるならって思ってた。


最後にフェリシア様と会った日、貴方にまた助けられるまでは。

意識が朦朧としている中で、私はようやく自分がどれだけ愚かな人間かを改めて思い知った。

アレンを好きだってことを忘れたくて記憶を消したのに、今度は一緒にいたくて記憶を消そうとする。

この先もこういうことを繰り返して、何度も辛い想いをすることになるかもしれない。そのせいで、貴方や他の誰かを傷つける可能性もある。

こんな繰り返しは終わらせなければいけないし、私も大事な人たちを忘れるのはもう嫌だった。


だから私は、アレンを好きだって認めた。否、認めるなんて偉そうには言えない。

私は、アレキサンドラ・サッピールスを愛している。何があっても、この命が尽きるとになっても、アレキサンドラをずっと愛し続ける。


記憶喪失中の私も、今の私も、そうはっきりとミカエラに言って、悪魔みたいな契約を跳ね除けていれば、死の危機に陥らずに済んだかもしれない。

でも、もうそのことについて後悔はしていない。むしろ、ミカエラが契約を持ちかけてくれたからこそ、前世の記憶がある状態の私が真佑に裏切られて絶望したままで終わらなくて済んだ。

ユリアナ・アイリスに転生した大事な親友の柚莉奈に再び会うこともなかった。アリスの時のように、この世界で信頼できる友達を初めて作ることも、絶対にできなかった。

貴女の娘や、サラ、グレイのように、大事な存在だと言ってくれる人にも出会うことはなかった。


何より、アレンに愛されることすら永遠に叶わなかった。どんな自分でも真っ直ぐに受け入れてくれることが、どれだけ幸せかも知らないままだった。


だからこそ、ミカエラという存在を否定しないで欲しい。

優しい皆と出会えて、私が本当の自分を受け入れられたきっかけでもあるから。


アレン、私はこの世界からいなくなる。

でもさよならだけは絶対に言わない。本来行くべきだった場所に、還るだけですから。


私がいなくなっても、サラやグレイ、私が大事にしてきた人達のことは見捨てないで下さい。

ユリアナが転生者の蓮見柚莉奈だということは、本人が良いって言うまで、秘密にしておいて下さい。

この先、カルミアという女性がやってくることが万が一あったとしても、彼女の言葉は何でもかんでも聞かないように。特に薬系は本当に危ないので、いくら魅力的なやつでも、現実から逃げ出したくなったとしても、絶対に手を出しちゃダメです。

最後はなんだか言いつけみたくなってしまいましたが、それだけ私は貴方と親友、家族、宮廷の人達を心配しています。特に、宮廷の人間に関しては最初は心底どうでも良いと思ってたのに、こうして心配するようになったのは自分でも驚いてます。


そろそろ長くなってきたので、ここで終わらせます。

また会うっていう約束は守れなかったけど、その代わりに今度は私が、アレンがこっちに来てくれるのを待っています。


天音美加理が記憶喪失の転生者としてこの世界にいたことを、どうか忘れないでください。



ミーシャ・グレイス━━天音美加理より



end


美加理の手紙が締めになりますが、美加理の話本編は後日譚が出たら本当に終わりです。その後は番外編をたまに上げつつ、元彼の真佑視点をメインでやります。

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