表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
最終章
73/85

虚像からの救済


「ッ…………!?また……変わってる………」


真佑に気持ちを伝えようとした途中で、また目の前がブラックアウトした。

目を開けると、視界に広がっていたのは真っ白な雲と夕焼けのような空だった。


まるで、穢れも何もない天国のような美しい光景だ。


今の自分をまた確かめると、まだ真っ黒なブーツにグレーのミニスカートを履き、黒のオフショルを着ている。髪は、ブルーグレージュに染めたのままだ。

真佑といる間に見慣れたはずなのに、改めて確認するとやはり戸惑いを感じる姿だ。


私は、もう本当に死んでしまったのだと悟った。


意外にも、死んだことに対して取り乱すことも、悲しくなることもなかった。それらの行動が生まれる原因となる感情すら、失ってしまったのかもしれない。

否、案外そうではないかもしれない。なぜなら、今日交わしたあのミカエラとの契約の通りにならなかったことに対して、ちゃんと約束守れよという怒りと呆れを感じているのだから。


(………せめてアレキサンドラに…好きって一言ぐらい言わせて欲しかったな…)


ぼんやり天界の下の眺め、後悔と諦めを感じながら黄昏れる。アレキサンドラ達は、今どうしているのだろうか。悲しんでいても、すぐに立ち直ってくれれば、あの世界に思い残すことは恐らく無い。



「…何こんなところで黄昏ているの?貴女はまだここに来ちゃダメでしょ」


背後から凛とした女性の声が聞こえてきた。振り向くと、髪が長くていかにも育ちの良さそうな女性が腕を組んで立っていた。


「え……何?誰?」

「私は…」

「ちょっと桐乃ちゃん!!私たちのことは四人揃ってから言わないと説明がややこしくなるよ!!どうも!新たな"ミーシャ・グレイス"の転生者さん!!」

「あー…ど、どうも…同じ『花天』プレイヤーだそうで…」

「またミーシャの転生者が増えるの…?もうやだ…私にはグランディエだけが…」


またわらわらと仲間らしき人が三人追加された。明るく挨拶してくれた人は、割と親しみやすい雰囲気で、まるでサラのような人だ。

『花園の天使』をプレイしたとボソボソ喋っていた女性は、攻略キャラ全員のキーホルダーをカバンにいっぱいつけている。天国でもオタ活があるのかと、一瞬どうでも良いことを考えてしまった。

そして、傷だらけの腕で明るい雰囲気の人の後ろから覗き込んでいる女性は、グランディエのことが好きらしい。


「………あの、貴女達はどちら様ですか…?」

『私達は…14歳を迎える前に病気を抱えて倒れたミーシャ・グレイスの身体に転生して、それぞれ違った不幸な死を迎えてきたの。私は一番最初の転生者の八谷桐乃(はちやきりの)よ』

「え…全員同じタイミング?私も多分14歳になる前だった気がするけど…」

『そうみたいですね…病気がちなのはゲームで知ってましたけど…転生すると何故か何事もなかったかのように完治するんですよね…ちなみに私は二番目の南條千尋(なんじょうちひろ)です…』

『私は三番目の転生者の台堂仁奈(だいどうにな)。隣にいるのが、四番目の三枝木翡翠(さえきひすい)ちゃん。それで、不幸な死を迎えた私達はね…その原因である攻略対象を恨んだり、酷い時はあの世界の全てを憎む感情を持ったの。その感情の一部がそれぞれ私達から勝手に抜け出して…それで出来上がったのがミカエラだよ』

「ッ……!?ミカエラはただの集合体みたいなやつってこと…?」

「そ、そうなの…!私の時からだけど…ミカエラが私に話しかけてくるようになって…どうしても一緒になりたいならグランディエに迫れって…でも結局断られて危険人物扱いされたの…!!ああ…グランディエ…!!」

翡翠さんの話を聞いて、改めて私は思い返してみる。

ミカエラはいちいち苦しめることばかりしてきて、本当に悪魔みたいなやつだった。

そんなミカエラ自身が目の前にいる転生者達の負の感情のみでできているのなら、悪意の塊のような行動には全て辻褄が合う。


「ミカエラは…タイムリープの力でミーシャが14歳の時に時間を戻して誰かを転生させて、私達みたいに不幸な死を迎えた転生者の負の感情を集めて…いずれは"ミーシャ・グレイス"の身体を乗っ取ってあの世界に復讐するつもりなんだよ!」

「貴女が今の後悔の念を抱いたままここにいたら、ミカエルはその感情を集めると同時に人の身体を乗っ取ることができてしまうの…!だから…貴女は早くアレキサンドラの元に帰りなさい!」


桐乃さんと仁奈さんは、鬼気迫るように早く現世に帰れと言ってきた。しかし、もう私はそんなことができない。

もうミーシャ・グレイスという肉体の中にある心は、私のせいでぐちゃぐちゃになってしまっている。仮にあの場所に戻ったところで、自分を保つこともできないだろう。


そう思い、私は首を横に振った。


「私は…帰っても無理だよ。記憶喪失になったせいで人格も分かれた上にそれもぐちゃぐちゃになってて…あの身体に戻った所で、アレキサンドラにはもうまともに好きだとすら言えないだろうから…」


それでも、アレキサンドラは本気で心配してくれていた。私が真佑に襲われて、トラウマが蘇った時にも、優しく寄り添ってくれた。

好きだと言ってくれたのは、何にも代え難い事実だ。それを思い出に生き、辛いと考えさえしなければ、これ以上ミカエラに負の感情を利用されることはない。



《………美加理》


私とは少し違っていても、絶対に同じだと分かる声とともに、姿が現れる。


「ッ……!?えっ…!?"ミーシャ"…?」


その姿は、どこからどう見てもミーシャ・グレイスそのものだ。ただ、それは見た目だけで、中身は紛れもなく記憶喪失中の私だ。


《……"美加理"が倒れる直前に、私の心を代わりに消したから…『天音美加理』の魂はぐちゃぐちゃになってない。だから、みんなの言う通りに…》

「自分を身代わりに…?なんでそこまで自己犠牲なことばっかりするの!?そんなことしたら…私が折角思い出せた"ミーシャ"としての思い出も…全部無かったことになるかもしれないのに…!!忘れるのは嫌だって言ってたくせに辛くないの!?」

誰かに忘れられること、誰かを忘れることの悲しさを十分思い知ったからこそ、"ミーシャ"がどれだけ辛い思いをしているのかを、容易に想像できてしまう。

自分が代わりになれば良いというその自己犠牲には、腹立たしさすら覚えた。しかし、立場が逆なら私も同じことをしてしまうかもしれない。

それを改めて"ミーシャ"によって可視化させられていることで、余計にそう感じる。

私だって、"ミーシャ"に辛い思いをして欲しくないのだ。

《………たしかに辛かった。ミカエラにバッドエンドの光景を見せられた時もだけど…それでアレンに見捨てられるかもって考えるよりも、アレンが"美加理"と過ごすうちに私との思い出を忘れていくように見えて…寂しいって思ってた…》

「ッ……じゃあなんで…!!」

《今のアレンを見てきて分かったの。私と過ごして楽しかったことや悲しかったことの記憶が"美加理"の中から消えたとしても…アレンの『天音美加理』を愛する気持ちは変わらなかった。本当に大事なものは、絶対に消えてなくならないってことを知ったの。だから…私の心を消したことは後悔していない》

"ミーシャ"に言われたことは、私が倒れる前に気づいていたことだ。

本当に大事な想いだけは、一時的に忘れても絶対に消えて無くなることはないと。

しかし、どうしても"ミーシャ"だけがもう二度とアレンの元に行けないことが気がかりで、自分だけ戻る気になれない。

「………っ…でも…そっちはもう二度と好きだって伝えられな…」

《"美加理"はまだ一回も伝えられてない…アレンに好きだって…!!》

「…………っ!!」


そうだ。私はまだアレキサンドラに何も伝えていない。

自分が本当はどう思っているのかを。


《"美加理"、早くアレンに好きだって伝えてあげて。私はここで待ってるから、大丈夫》


優しげな表情の"ミーシャ"に、抱き締められる。

"ミーシャ"のその姿は、まるで天使か聖女のようだった。

抱き締められた瞬間、身体が重くなり、眠気が急に襲いかかって来た。



「っ……!ミーシャ……」



ありがとう



そう告げる前に、私は再び意識を落とした。


明日の投稿は休みです。その代わり、明後日以降に最終回まで2本立てで投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ