true end……?
「っ………!!あ、あれ……」
「美加理?大丈夫?ぼーっとしてたみたいだけど…」
「え、あ………ま、真佑…?」
世界が、すっかり変わっている。
私は、先程まで血を吐いていたはずだ。そのまま気を失うと同時に、もう死ぬのだと思っていた。
だが、目を開けると、先程いた時とは違う景色がそこにあった。
大学の最寄駅の周辺にある、何十階かはありそうないくつもビル。その中には、バラエティショップ、アニメ関係のグッズ売り場、本屋が入っているビルもある。その他には、落ち着いた佇まいの喫茶店とレストランが並んでいる。私が、大学もしくはバイト帰りによく遊びに行く所だ。
そして、隣には元彼の真佑がいる。
昨日、ライヤに転生してることが判明した上に、私を深く傷つけた人だ。そんな人が、今は私に対して心配そうな表情を見せていた。
「私…死んだはずじゃ…?それに…真佑が私を心配するなんて……」
「なに言ってるんだよ美加理…それに…か、彼氏なんだから…心配するのは当たり前だよ」
こんなにも優しい言葉をかけてくる真佑に対して、ライヤへの転生を知った時のことも相まって戸惑いを覚える。否、元々はこういう感じだったのに、何があってあんな悪魔みたいな奴になったのかと考えるのが正しいのだろう。
状況をなかなか整理できずにいると、私は自分の格好に気がついた。
「っ………!?あの服じゃない……」
さっきまで着ていた、淡いブルーのドレスでは無くなっている。
真っ黒なブーツとグレーのミニスカートを履き、黒いオフショルダーのカットソー。横の髪を組紐で結んでいたブルネットの髪は、ブルーグレージュに染めた髪を真っ直ぐに下ろしつつ、前髪は目にかからない程度にゆるく巻かれている。
他の人間に舐められないようにとは思いつつ、真佑には可愛く思われるために気合いを入れる時の格好だ。
色々計算はありつつもずっと気に入っていたはずの格好に、違和感を感じてしまう。淡い色の服は、今の自分には恐らく似合わない格好だと思っていたのに。
「…どうしたんだ?」
「………その、私の格好変じゃないよね…?」
「いや、そんなことないよ…!その……か、可愛い……と思う」
「…………あ、ありがとう」
付き合っていた頃は、真佑に可愛いって言われたら嬉しかったはずだ。シャイで口下手な人だからこそ、その滅多にない言葉をもらった時は、一日中幸せだった。
だが、同じ言葉を言って欲しい人は、もっと他にいる気がする。
おかしい。
私は、浮気をする前の優しかった頃の真佑と一緒に過ごすという、絶対に叶うはずのなかった世界に帰ってきた。心のどこかで願っていたことが叶ったのに、思い出せない人なんかを求めてしまっている。
そもそも、今いる世界はなんなのだろうか。
真佑と付き合い始めたばかりの過去に戻ってきたのだろうか。だが、行ったことのある場所にしては、見知らぬ建物が多すぎる。
「………美加理?さっきからぼーっとしてること多いけど…もしかして具合悪かった?」
「真佑、一個聞きたいんだけどさ…亜紗美って人…知ってる?」
「え?誰だそれ…そんな子聞いたことないよ」
真佑が最後に浮気し、私が死ぬ原因の一つになった人間の名前を出したが、真佑は全く知らない様子だった。
ならば、付き合い始めの過去に戻ったのかと思い辺りを見渡してみる。だが、たまたま街頭モニターに映っていた年月は、私が死んだ年の一年後になっていた。
となると、今の私達は大学3年生らしい。前世での因縁深い亜紗美の存在は、最初から無かったことになっているようだ。これは真佑が浮気しなかった時の世界線だろうか。
私が死んだ事実は何もかも消えたというより、そもそも真佑の浮気を知った時から全部夢だったような気がしてきて、頭が混乱してくる。
「それより今日は美加理が好きな乙女ゲーの漫画版の新作が発売されるんだよね?グレイ視点のやつだったっけ?お互いインターンシップの予定がひとまず決まったんだから、今日はゆっくりしようよ」
「えっ、グレイ視点!?」
「う、うん…前々から美加理が何回もグレイ視点が発売されるって言ってたよ…?前のライヤ視点のやつも早く教えてくれて、凄く面白かったからグレイのも買おうかなって…」
私が好きな乙女ゲーといえば、『花園の天使』だけだ。他は王道ものばかりで嫌いな分、この作品は鬱要素やダークな面があって好きだった。
私が死んだ後の未来では、コミカライズまでされているのか。しかも、それぞれの攻略キャラに合わせて話の内容も変えているらしい。それを聞くと、漫画を読んでみたくてたまらなくなる。グレイ視点のを買ったら、ライヤの分もすぐに読みたい。
そう考えていると、思い出せないと悩んでいたことがどうでも良くなってきた。チラッと聞こえたインターンシップとかいう就活関連のワードも。
「そうだね!早く行こう!!」
亜紗美が最初から存在していないのなら、真佑のことはなにも気にしなくて良い。それより、ゲームのコミカライズがどんな風になっているのかがとても気になる。
ゲーム内だけでは分からなかった攻略キャラの過去がしっかり描かれるのかもしれないとわくわくしながら、私は真佑と共に目的のアニメ専門店に入った。
店の中では、『花園の天使』のポップアップや宣伝ポスターが貼られている。アニメ化決定のロゴも入っていて、相当人気が出ているらしい。
私が知らない間に『花天』はここまで発展していたのだと感動を覚えた。
「おっ、ライヤのキーホルダーある!!相変わらず無表情で可愛いなあ…俺これ買おう!」
真佑は漫画よりも先に、ライヤのミニキャラキーホルダーを見つけて喜んでいる。大人しく見えるが、好きなもののことになるといつもよりテンションが上がる真佑を見ていると、本当にライヤが好きなんだなとほっこりする。
その一方で、私はキョロキョロしながら目的の漫画を探していた。
「………!!お、あった」
時間もかからぬうちに、「『花園の天使』コミカライズ第2弾!!」と描かれた宣伝ポスターを見つけた。ポスターの中心には、本性を出す時の悪い顔をしているグレイがいた。
そこに向かって進んでいき、私はその下にある漫画……ではなくそのもっと奥にある同人誌コーナーに目がいってしまった。
『花天』のヒロインであるミーシャ・グレイスと、本来ならその隣にいるはずのない、アレキサンドラ・サッピールスの組み合わせだ。
成人向けかと思い、すぐに見なかったことにしようとした。だが、よくよく見てみると、その本はちゃんと全年齢向けかつ恋愛モノの話を描いているようだ。恐らく、アレキサンドラ推しが書いたと思われる。
その本の表紙にいる二人を見た瞬間、何かを思い出しそうになり、頭がズキっと痛む。
「美加理、どうかしたの?って同人誌…?しかも相手はイケメンで人気はあるけど一部では嫌われてる王様じゃん………あっ、ごめん…!美加理は好きだったんだよね…」
「…………っ……好き……だよ……」
好きだ。
そう思うのは、あくまで推しに対する感情としてだ。
表では皆に優しい国王として振る舞っているが、本当に愛せる人は誰もいないまま結末を迎えるアレキサンドラのことを、どんな形でも良いから救いたい。
ただの妄想だとしても、そんなことを何度も考えていた。
だが、今は表紙のアレキサンドラが触れているミーシャに対して、複雑な気持ちを抱いてしまう。
それだけではない。
この空間に、アレキサンドラがいない。今の私にとっては、架空のキャラでしかない。
それを実感した途端、寂しさのあまり涙が溢れ落ちた。
胸が苦しい。
アレキサンドラに、好きだと言いたい。
自分を臆病だと思っている私に優しく寄り添ってくれた、アレンに会いたい。
私が今いるべき場所は、もうここではない。
「っ………ごめん…真佑。私はアレキサンドラが……アレンのことが……っ」




