最後の会話になろうと
服や髪型を仕上げられ、私はリナリア様の元に向かう。
その通り道に、柚莉奈とアリスが楽しげに談笑しているところに遭遇した。
「っ……ユリアナ、アリス!!」
記憶を失うか死ぬ前に会わなければならない人達の筆頭と言っても過言ではない。
向かう最中だろうと構わず、真っ先に声をかけた。
「ッ……!!ミーシャさんお久しぶりです!最近体調を崩したと聞いて本当に心配で…」
「本当にもう…心配かけるんじゃないわよミーシャ。具合は大丈夫なの?」
純粋に心配してくれるアリスと、呆れながらもなんだかんだで体調を気遣ってくれる柚莉奈。
この後に自分が記憶を失おうが死のうが、どちらを選んでもこの優しい人達を傷つけることになるのだと思うと、胸が締め付けられる。
「大丈夫、今日はなんとか。そうでなかったらリナリア様に呼ばれても無理ですと言うので」
「いやそういうのは無理とか言っちゃダメでしょ」
早速柚莉奈の的確なツッコミを喰らってしまった。ユリアナ時代なら、ツッコミではなく説教を喰らっていただろう。柚莉奈がいなければ、ここまで砕けた会話は出来なかったと思う。
「ミーシャさんは本当に面白い人ですね。そういう所大好きです」
「へ?」
急に推しに大好きと言われて、目の前で花が飛び散った気分になると同時に、戸惑ってしまう。
「私…ミーシャさんが宮廷でアメリ様とマティルダ様の嫌味に立ち向かったと聞いた時、こんな勇敢な人がいるんだって思って憧れていたんです。けど話してみると優しいだけでなくて面白い人で…ますますミーシャさんのことを好きになりました!なのでこれからも友達でいて下さい、ミーシャさん」
アリスはなんと良い子なのだろう。こんな私と友達でいたいと言ってくれるとは。感動のあまり、涙が出そうになる。
「アリス様〜〜〜!!良い子すぎます〜〜!!頭撫で撫でしても良いですか〜〜!?」
「ひゃあ!?み、ミーシャさんくすぐったいですっ…!!」
貴族令嬢という身分や身分差は頭から抜け落ち、私はアリスを抱きしめた。そのまま撫で回そうとしたが、直前に柚莉奈に後ろから掴まれ、引き剥がされた。
「こら!アリス様が困ってるでしょ!!公共の場では弁えなさい!全く…ほんとアンタは相変わらずね…」
「いやぁ〜それほどでも」
「だから褒めてない!!まあ…その感じならだいぶ調子良さそうね」
またツッコミを入れながらも。柚莉奈は私の頭をぽんぽんと撫でた。
ユリアナの正体が柚莉奈だと知らなかったら、記憶を失うか死ぬことがここまで辛くなかっただろうか。否、ユリアナだと思い込んだままでも、同じように辛い。
アリスのことも、折角友達になれたのに、そのことすら忘れてしまうほど悲しいものはない。
ましてや、永遠の別れになってしまえば、その悲しみはより深くなる。
特に柚莉奈には、二度も幼馴染との別れを味わせることになるため、余計に迷ってしまう。皆と一緒にいるために記憶を無くすか、思い出を全て覚えていられる代わりに一日後に死ぬかどうかを。
「アリス様、セルレウス様が今すぐ来て欲しいと…」
従者らしき人が、アリスを呼びに来たようだ。セルレウスとは、仲良くやれているだろうか。
アレキサンドラの愛妾となった私に剣を向けたあのセルレウスのことなので、少なくとも浮気等の心配はいらないだろう。ダメな兄たちを見て反面教師にする。
「は、はい!ではミーシャさん、ユリアナさん。またお会いしましょう」
「は〜い、また明日〜!」
アリスが去っていくと、私は柚莉奈に話さなければならないことがあることを思い出す。
「………あのさ、柚莉奈。実はライヤのことなんだけど…」
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私は柚莉奈に、ライヤが実は真佑が転生していたことと、真佑ににされたことを全部話した。
「ッ………嘘でしょ?あの元彼がライヤ・ラズライトに転生したの!?しかも性格が悪化してるとか…」
昨日のことを全て聞いた柚莉奈は、かなりショックを受けたようだ。
「ね、信じられないでしょ?」
「あんのクソ野郎…!!美加理をどんだけ傷つけたら気が済むのっ…!?それにあのなよっちい女顔野郎の分際で最強騎士のライヤに転生するなんて烏滸がましすぎる…!!」
「そうだよねぇ…乗っ取られたライヤがマジで可哀想すぎる。グレイとアレキサンドラが助けてくれたから良かったけども」
それにしても、急に真佑の性格が変わったのが今でも不思議だ。前世で私が死ぬ前は最低野郎だったなりに、良識ぐらいはちゃんとあったはずだ。否、本人の性格から考えても、真佑が無理矢理身体の関係を持つために襲うという行動を取ったのは、かなり不自然だった。
性格が変わったのではなく、本当に悪魔に取り憑かれていたのだとしたら、真佑自身も望んでいなかったのではないのだろうか。
改めてあの時の出来事について考えてはみたものの、今では正直関わりたくない気持ちの方が強い。悪魔とかのせいではなく、単に真佑の本性が露わになっただけというのが真実だった場合、これ以上関わる方が危険だ。
だからこそ、真佑はもう気にする必要もない人間としよう。
「美加理…大丈夫?」
「えっ?」
「その…真佑のせいでトラウマ抉られたりしたんじゃないかって思って…」
「確かに…そうはなりかけたよ。でも、アレキサンドラが側にいて…話をちゃんと聞いてくれたおかげで少しはトラウマの傷も和らいで安心できたと思う」
もしあの日アレキサンドラがグレイと一緒に来てくれなかったら、私はあの悪魔に取り憑かれたような真佑に犯されていた。トラウマを抉られるだけでなく、自尊心や今までの努力を踏み躙られる毎日を送る可能性もあった。
泣く姿を見せた時にアレキサンドラに突き放されていたら、この世に絶望し、ミカエラに縋りついてでも今すぐ死にたいと願っただろう。
アレキサンドラは、いつも一番辛い時に側にいてくれる。
(そういえば…前にも同じことを考えてたな…どんな性格の時でも私はやっぱり……)
「ていうか…リナリア様のところに行かなくて良いの?」
ぼんやり考えていた思考の続きが浮かぶ直前で、柚莉奈にリナリア様のことを言われて、中断することになった。それと同時に、用事に遅れるかもしれないことに気づき、心底焦りを覚えた。
「あぁっ、忘れてた!!!じゃあ柚莉奈!また明日!!!」
友人と駄弁ってて遅刻しましたと言った暁には、常にリナリア様の隣にいるドルーゼにぶち殺されるかもしれない。もっと柚莉奈と話していたかったが、急いでリナリア様の元に向かうことにした。
「ったく…ここではユリアナって呼びなさいよね。美加理…今度こそ幸せになってね」




