私が代わりに
記憶がない頃の美加理(通称:"ミーシャ")視点です。
※R-15な描写あり
目の前に、私の愛する人がいる。
もう一人の私に身体を託してから、目覚めることはあっても、アレンには一度も会えなかった。
久々に会えたのが嬉しくて、ついアレンに抱き着いてしまう。もうそういう相手ではないが、まだアレンのことを純粋に兄のような存在として慕っていた頃を思い出して、懐かしさも感じる。
「ッ………!?ミーシャ…なのか…?」
「……私は…本当は自分をミーシャ・グレイスだと思い込んでただけの、全部の記憶が無かった頃の美加理。15歳になる前にアレンと出会った時から、ずっとそうだったの。だから…私はミーシャじゃない」
自分は、ミーシャ・グレイスとして完全に生まれ変わったのではない。その身体を乗っ取り、同時に記憶を無くしていた時の天音美加理だ。
この身体の中で目を覚ますのを繰り返すうちに、やっと全部思い出すことができた。
「俺と再会してからのミーシャは…ずっと美加理だったということか…?お前に変わる前の美加理も俺のことを……っ…!?」
好きなのかと聞こうとするアレンの口を、唇で塞いだ。
「……"美加理"が気づくまでは言わないで…今は少しでも良いから、アレンに触れていたい…」
今の"私"は、もう二度とアレンには会えないかもしれない。こうして触ることも、抱きしめてもらうことも叶わなくなる。
その辛さを紛らわせるように抱きつくと、アレンも抱きしめ返してくれた。
「……ここにお前を住まわせた日の夜、どんな人間になってしまっても嫌いにだけはならないで欲しいと言っていたな」
「うん…まるっきり変わっちゃってごめんなさい」
「謝らなくて良い。むしろ、多くの一面を見ることが出来て、一層愛おしいと思った。どんな性格だろうと、俺は美加理の全てを愛している」
涙が出てしまう程の嬉しい言葉を紡いだアレンは、優しく押し倒して唇を塞いだ。
「んっ……んぅッ…!ん、く……ふぅッ…」
数秒なんかでは済まされないくらいに、口の中まで貪られる。熱を持ったものが、舌や上顎を這い回っているうちに身体の奥が切なくなり、力が抜けていく感覚は久々で、アレンにされることを全部受け入れてしまうくらい心地良い。
長く交わっていた唇を離されると、服に手をかけられた。前のように、脱がせようとする手を止めようとは思わない。身体を見せるのはまだ慣れないが、隠そうとする前に手を退けられて、首や胸元に口付ける所は、前と変わっていなかった。
「はぁ…っ……ぁッ……!んんッ…アレン…っ…」
「もう俺の側から離れないでくれ…この頃は何処かに消えてしまいそうで…心配でたまらないんだ…だからこのままずっと…こうしていたい」
普段の余裕がほとんど感じられないアレンのサファイアの目は、熱を帯びた形で私を見つめている。前とは違って寂しげな表情までしているアレンが愛おしくて、つい頭を撫でてしまった。
「ッ………あまり煽るようなことをするな…っ…優しくできなくなる…」
「ひぁッ…!!ぁ、あぁッ…!だめ…っ…そこは……んッ…!!ッ〜〜〜…!!」
アレンからお返しとばかりに耳に口付けたり、舌を這わせられる。それさえも快感として受け取ってしまい、思わず何度もはしたない声とぐぐもった声が勝手に口から漏れている。
それでも、アレンは耳を苛めるのを止めないまま、耳元で「美加理」と呼んでくる。そのくすぐったさが初めて抱かれた時よりも快感が強くて、涙まで出そうになっていた。
「あ、アレンッ……その、名前呼ぶの…ちょっと待って…っ」
「耳が弱くて、名前を呼んだだけで可愛い反応を返すのも何も変わっていない…本当に美加理は可愛いな…」
また耳元で名前を呼ばれるだけでなく、頭を撫でて可愛いと言われ、これ以上声が出てしまうのが恥ずかしくて、もう手で口を抑えるしかできない。
「そうやって少し触れただけで泣きそうな顔をするぐらいなら、煽らない方が身のためだ…」
「はぁッ…ぁッ……アレン…優しくしなくても良いから……私のこと…愛して欲しい…っ…記憶が戻った後と…同じようにして…」
「ああ…美加理…辛い思いをさせた分、たくさん愛させてくれ…」
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私がアレンと最後に過ごした日から、随分時は経っている。
アレンの体温だけではなく、見られたくない程の恥ずかしい姿を見たがってもその後は何度も優しく口付けてくれる所は、ずっと変わらないままだった。
ミーシャ・グレイスの肉体の中で眠る前にミカエラが見せてきた、冷たい目をするアレンは存在しなかった。
今の私は、もう二度とアレンに触れることはできない。"美加理"が、アレンを好きだと自覚して認めるであろう日は近い。
そうなれば、『天音美加理』はもうすぐ死んで天界に還ることになる。"美加理"はもう二度と、どの世界にも転生できない。
私の心が弱かったから、ミカエラとあんな契約を交わして、こんなことになってしまった。そのせいで、"美加理"が自分の想いを認めないままでいると、人格が壊れる恐れが生じた。
アレンのことだけではない。美加理には、いずれサラやグレイ、柚莉奈といった他の大事な人のことを何もかも忘れてしまうという、死よりも辛い呪いにかかっている。
だからこそ、"美加理"には、早く気づいてもらわなければならない。
私はどうなっても良い。
たとえ存在ごと消えてしまっても構わない。
『天音美加理』の魂が救われるなら、何でもする。
それが、私の唯一出来る償いだから。
頭ではわかっていても、皆との別れが辛いと感じてしまう気持ちを慰めるために、眠るアレンの胸に抱きついた。




