神の企み
途中から、天界での視点になります
ドンドンッ!!
嵐が過ぎ去ったと同時に、ドアを勢いよく叩く音がした。
「……こんな時に誰?」
蹲るカンナを足蹴にしながら、カルミアがうるさそうにしながらドアを開ける。
すると、誰かが勢いよく入ってきた。
「ミーシャは…!?ミーシャ・グレイスと名乗る女性はここに来ていないか!?」
汗をかき、息を切らしながらそう呼びかけたのは、ずっと探していたライヤだった。
「っ!ライヤ様!!」
「はぁっ…はぁ…ッ……ミーシャ………良かった…無事で……」
「っ…!?」
私がここにいることに安心したライヤは、恋人にするみたいに抱き締めてきた。
ライヤルートのシナリオ通りの展開が来るにはまだ仲は深まっていないはずなのにと驚くよりも、なぜか懐かしい感じを覚えた。
(なんか…私が一回迷子になって心配してきた時の真佑に似てるような……いや、そんなわけない…ライヤと真佑は別人なのに…それに恋人でもないのにいきなり抱き着くなんて…真佑もライヤもしないはずで……)
反射的に、身体が熱くなってしまう。
それは、恋人みたいに抱きしめてきたライヤに対するものなのか。それとも、そのライヤに似た雰囲気を感じた真佑のことを思い出したからだろうか。
ライヤはともかくとして、真佑のことはもう忘れると決めたはずなのに。
「あのっ……ら、ライヤ様…!?」
「あっ…!!す、すまない…貴女がミーシャを保護してくれたのか?俺の不注意で迷惑をかけて本当にすまなかった…」
私から身体を離したライヤは、カルミアに向き直り、頭を下げた。
「本当にこの子を大事に想ってるのなら、絶対に離さないようにしなきゃダメよ」
「っ……あ、あぁ…肝に銘じておく」
「それと、この子まだ少し顔色が悪いからすぐにでも休ませてあげて」
「分かった…ミーシャ、今から宮廷の医師の所へ向かうから、俺から離れないようにしてくれ。俺も目を離さないよう気をつけるつもりだ」
「は、はい…」
あれだけ迷惑をかけたのに、まだ私のことを心配してくれている。ゲーム内と同じように無愛想に見えてちょっと怖い時もあるが、ライヤはやはり優しい人だ。
「え、えっと…助けていただき、本当にありがとうございました…」
私はライヤと一緒に頭を下げて、カルミアの家を後にする。カルミアは私に手を振って別れの挨拶を返した後、カンナをゴミみたいにポイって追い出しているのを振り向いて確認できた。
帰り道に後ろから狂ったように喚く声が聞こえたが、知らんぷりしておいた。
「ミーシャ、倒れてしまうほど具合が悪かったというのに連れ出して本当に悪かった…」
ライヤのいつもの仏頂面が、申し訳なさそうに少しだけ眉が下がった顔になっている。本当に心配をかけてしまったことに、私は心底反省する。
「だ、大丈夫です!気にしないでください!ああなるなんて思ってもいなかったので…私こそライヤ様にこのことを伝え忘れて申し訳ないです…!」
「一刻も早く医師に見せなければ…急いで宮廷に戻ろう」
「は、はい…」
どうせ医師に見せた所で、治るわけがない。
そう思っていることを悟られないようにしながら、ライヤに連れられて宮廷に戻った。
ーーーーーーーーーー
美加理がアレキサンドラと離れることを決め、ライヤと交流を深めていく『花園の天使』の世界を、神様は相変わらず表情無いままで冷たく見つめている。
アレキサンドラと離れたいのは、果たして本当に美加理の本心なのだろうか。
「これ…どうするんですか?このままだと美加理はライヤとくっつきますよ。まあ、美加理にとって幸せならそれで良いんでしょうけど…」
「………私はあくまで、まずあの堕天使の企みを止め、繰り返しの力を取り戻したいだけだ。それさえなければ、天音美加理がどうなろうが別にどうなろうと構わない」
堕天使ミカエラの企みを止めたいと言う神様こそ、自分の目的のためなら、人の気持ちなど考えることなく手段を選ばない。そういう身勝手な冷酷さはミカエラとほとんど変わらないではないかと言いたくなる。
「だからこそ、堕天使の企みを止めるためにはこのまま放置は出来ない。アレを使い、美加理の本心を確かめるつもりだ」
神様は、美加理に対して何か試そうとしているらしい。アレキサンドラかライヤのどちらを選ぶのか、それを確かめるためだろう。ミカエラの企みを止めるのに、吉と出るか凶と出るかと言う所だと思われる。
「ていうか…その言い方はないでしょう。相手は人なんですよ?」
「私にとっては人も動物も無機物も大差ないものだ。それに…お前もアレが前いた世界で何をしたか分かるだろう?呼ばれても仕方ない存在だと思わないか?」
「っ……」
神様の言葉に、私は何も言えなくなる。"アレ"と呼ばれる人が生前何をしでかしたのかを、私は知っているからだ。
それは天界にとって、完全なる罪人に値するほどである。私からするとそこまで悪いことをしたと思わないが、人によっては許しがたい所業をしたと感じるものだ。
(美加理を試すためなら…神様は本当に手段を問わないんだな…)
「隙ができたら、『花園の天使』の世界に送り込むとするか。だがその前に…」
神様が目を向けた方向には、黒いモヤが渦巻くものがある。
天界にあんなものあったかと、戸惑う間もなくそれは悪魔のような姿に変わっていく。
その姿は、ミカエラ以上に黒々としており、詳細はわからない。だが、深淵のような黒から覗くその目は憎しみを突き刺すようで、睨みつけているのが嫌と言うほど伝わってきて恐ろしく感じる。
《……なんか用かよ、クソ神》
「ユピターと呼べ、愚か者。それより、私がアレを送り込んだら…お前はその者に対して死ぬまで好きにして構わない。今までは多くの行動を制限していたが、今日でそれも自由にする。それと、私の力を少しだけ与えてやる」
《あ?力だぁ?》
「内容は自ずと分かる。だが、使えるのは一回だけだ。くれぐれも使い方を誤るな」
《チッ…!いちいちうるせぇんだよ…!俺は自分の好きなタイミングでやる。アンタの望まないやり方になろうが、絶対文句言うんじゃねぇぞ》
終始態度の悪い悪魔とやらは、神様から貰ったであろう力を、礼も言わずに受け取る。
この悪魔は、神様の一部の力を一体何に使うつもりなのか。ミカエラのように世界を滅ぼすまではしなさそうだが、絶対に良からぬことに使うのは間違いない。
「あ、そう言えばユピター様」
「なんだ?転生者その2…」
「千尋です。今から送り込まれる人って美加理や蓮見柚莉奈と違って死ぬ予定は別に無かったですよね?どうやってこの天界まで連れて来たんですか?」
「……少しばかり、人間界のカラクリなるものを弄らせてもらった。そこからは運の悪い偶然として…だな」
「っ……これ以上は聞かないでおきます」
今から『花園の天使』の世界に送り込まれる人も、神に仕組まれた不運な事故で天界に来てしまったのだろう。しかし、それにしては転生したいと嘆くどころか、もう目覚めたく無いとばかりに、神様が起こさない限りずっと天界で眠っている。
それはさておき、美加理が本心から幸せにならないと、どっちを選んでもミカエラの思い通りになってしまう。
神様が送り込もうとしている人、その人に対して何らかの拘束をしようとしている悪魔が、美加理の選択に対して、どのような結果をもたらすのか。
それも神のみぞ知るのであれば、ミカエラの行動をとっくの昔に止められたはずなので、誰にも想像出来ない話なのだろう。
次回は、衝撃の展開がやってきます。




