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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第4章
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懐かしき光景

「気分転換には丁度良かっただろう?」

「は、はい…!さっき食べたのもすごく美味しかったです!」

 ライヤに宮廷から連れられ、ディアナ王国の首都イオスの町を歩き回ることになった。あの真面目なライヤから、こんな提案をされた時は、内心驚愕した。

 ゲーム内でもライヤと一緒に宮廷を抜け出し、こうして町を歩くことはあったが、それはミーシャの方から誘って成り立つものだ。それに対して、ライヤは渋々ついて行くものの、途中で迷子になったミーシャを焦った様子で助け、思わず抱き締めてしまうシーンは最高である。

 だからこそ、ライヤがあんな提案をするのは、予想外だった。

 それでも元庶民の私からすれば、たくさんの人が賑わう親しみやすい場所の方が落ち着く。


(あれ……そういえば…前にこういう所に誰かと行ったような……)


 一瞬、私の脳内にある記憶が過ぎる。

 今目の前にいるライヤではなく、他の人と何年か前に行ったことを。

 それは、まだ私が前世の記憶を取り戻していない頃だった。サラがグレイ、もしくは生前のレオンさんと一緒に行ったのだろうか。


(いやいや、今はライヤと一緒にいるんだから…他のことは考えるのやめよう)


 頭を何とか切り替え、今目の前にいるライヤとの時間を楽しむことにする。


「あの…ラズライト様」

「…ライヤで良い。俺に呼び捨てを許したのだから君にもそうして欲しい」

「その、ライヤ様がいつも宮廷にいらっしゃらないのは何故でしょうか?」

「……陛下はこんな未熟者な俺にも良くして下さるが、それでもどうしても華やかな場が苦手で…あの方には大変申し訳ないとは分かっていながら、理由を付けてはこの町に隠れて過ごしていたんだ。ただ…最後にはアーサーに見つかって連れ戻されてしまうんだが…」

 ライヤを見かけなかったのは、町にいたからなのかと、納得がいった。宮廷のパリピ空間が苦手なのは知っていたが、恐らく私の思っていた以上にあの空間が苦手なんだろう。

「私も…実は宮廷の華やかな感じが苦手で…でも出ないと陛下の周りの人間に白い目で見られるから出ざるを得ないというか…」

 最初の頃は、本当にそう思っていた。

 所詮ただの愛妾なのに、何故毎回呼ばれるのか。その上、出ても出なくても結局周りの人間が白い目で見られるのは、愛妾だからとはいえ正直理不尽だった。

「…意外だな。陛下の愛人となる女性は皆華やかな場を好むものだとばかり思っていたんだが…」

「宮廷に入る前はほとんど実家から出ない状態だったので、慣れてなかったんです。でも…最近はちょっと慣れてきたんですよ。周りの人達も段々打ち解けてくれるようになったし…」

 ユリアナ以外にも友達が出来て、想定外のことで私に興味を持つ人達が現れ、ここでの生活は意外にも飽きないことが多かった。

「そうか…なら俺もミーシャを見習って少しは宮廷に顔を出すか。折角王女殿下の護衛候補にも選ばれていることだから…あまり気は進まないが…」

 記憶が戻った直後に比べれば、他の人達と何のいがみ合いもない交流をするのも自然とできるようになっており、段々と面倒な宴も悪くないと思えるようになった。


 こんな性格擬態ばかりしてきた私が、擬態する意識なしに平和に過ごせていることは、予想外だった。


「そういえばアーサー様とよく一緒に行動しているのを見かけますけど、いつから一緒にいるようになったのですか?」

「アーサーとは…10歳で騎士見習いとして騎士団に所属した時からの友人だ。俺より一つ年上で、人と話すのが苦手な俺をいつも話の輪の中に入れてくれたんだ」

「そういう友達って良いですね」

「そうだな…父が元騎士団長だったことで周りからは身内贔屓だとか、所詮は親の七光りだと言われる中、あいつだけはそんなことを気にせずに話しかけてくれた…だから俺は、アーサーには感謝している。たまに隙を見てサボる所は少し改めて欲しいが…」

「あ、あはは…でも私も見てて良い人そうだと思いましたよ」

 ライヤとアーサーの関係は、まさに前世の頃の私と柚莉奈のようだった。ライヤと同じように、柚莉奈がいなければ、私はもっと孤独で辛い日々を送っていたかもしれない。

 ライヤ達には、どっちかに一生を共にする相手が出来ても、ずっと友人でいて欲しい。

「ミーシャ、もう少し見て回るか?」

「……っ…!はい!」

「満足したらいつでも言ってくれ」


 話していて気づいたことがある。

 ライヤの受け答えは常に丁寧で、私のペースを考えてくれる。

 アレキサンドラの場合は、私のペースを考慮しないわけではないが、ライヤとはどこか違う。ライヤは私が話したい時以外はそっとしておいてくれるけど、アレキサンドラはいつでも話題を振ってくるタイプだ。

 真佑以外の男性に興味を持たなかった時は、そういうタイプは苦手だった。しかし、そのタイプに当てはまるアレキサンドラと話すのは案外楽しかった。

 だからあの人とは、もっと話したいことがたくさん増えた。転生前のことも、今のことも。


 そうぼんやり考えていると、人の声のざわつきの中で、ある声が耳に入ってきた。


「東方の国で作られた貴重な組(・)紐(・)、今なら安いよー!!」

「ッ……!?組…紐………?」


 店主らしき中年の女性の声。

 『組紐』という単語。

 その組紐は、東方にある一国で作られた貴重な品。

 それら三つの情報を得た瞬間、脳内にある記憶がはっきりとした形で流れてきた。


 この身体が15歳の頃の夏の日、私は祭りをやっていると聞き、サラやグレイと一緒に街中に行った。 そこで、偶然出会ったアレキサンドラと一緒に回ることになり、前世では見慣れない食べ物を一緒に食べたり、様々な雑貨を見て楽しんだ。時には、見惚れていた雑貨をアレキサンドラが買おうかと提案していたが、流石にそれはと遠慮していた。

 最終的には、アレキサンドラに青と紫、所々金色の混じった星空のような色合いの組紐を買ってもらった。前世の記憶が戻ってから見た時は、単に綺麗な組紐だと思っていた。しかし、普段使いではなく、宴などの特別な日にだけ使うほど、無意識のうちに大事にしていた。


 祭りのあの日、アレキサンドラと何を話していたかの詳細は、まだ思い出せない。しかし、アレキサンドラと話して楽しかった気持ちだけは、はっきりと感じ取れる。


 あの時間は、本当に幸せでいっぱいだったことも。


(愛妾辞めるって言ったから…もう普通に話すことすら出来ないのかな……)


 アレキサンドラとは、もう二度と話すことも叶わないかもしれない。

 そう考えた途端、胸が苦しくなった。


「…ぅ……ぐ……げほっ…!!げほっ…!!ぅえ…っ…」

 まずい。

 こんな街中で血を吐いてしまった。ライヤに見られたら、変な心配をかけてしまう。

 今のことを見られていないかと、ライヤの姿を確認した。


「………あれ?いない…!?」


 考え事をしているうちに、はぐれてしまったのだろうか。血を吐いてしまった時にライヤルートのシナリオが実行されるとは、勘弁して欲しいというか空気を読んで欲しい。

 街中のことはよく知らないため、どこに行けば良いのかさっぱり分からない。


「ぅぅ…ッ……なんか…頭…ぐらぐらする……」


 今まで何回も血を吐いてしまったからなのか、頭がぐらっとして、目眩がしてくる。


 目の前が歪む。


 気持ち悪くて、目を開けていたくない。



 ドンッ…


「ッ……す、すみません……」


 よろけた拍子に、誰かとぶつかってしまった。だが、目の前がぐらぐらしてしまい、ぶつかったのが誰なのかが認識できない。


「……お嬢さん大丈夫?私のところで休んでいくと良いわ」


 ぶつかられたのに、身体を支えてくれるとはなんて優しい人だ。この世の中にこんな優しい人がいたこと自体、信じられない。

 そう思いながら、私は助けてくれた人の腕の中で目を閉じた。


ライヤは騎士としての仕事は出来るし、剣術を筆頭に戦闘面においては天才だし良い男だけど、その他がポンコツな武闘派。なので勉強関係は…お察し下さい笑

ちなみに、親友のアーサーは突出するものは無くともマルチ型なので、勉強も優秀なタイプです。

ちなみにアレキサンドラと祭りに行った日については、第1章の10話辺りで読み返せます。

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