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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第3章
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親友と宰相子息の騒動

前回の登場ではなんとなく不穏だったユリアナとクロードがメインの話。

私は動揺していた。

ゲーム本編では助ける以外での関わりがほぼゼロだったアリス・ヴィクトワールが、ユリアナを連れて私に話しかけてきたからだ。


「アリス様が貴女と話したいそうよ」

「…………へ?」

「その…ミーシャ・グレイスさんとずっと話をしてみたくて…私、アリス・ヴィクトワールと申します」

「ど、どうして…話をしたいと思ったんですか?」

現実ではゲーム内以上に関わりがなかったのに、何故話をしたいと思ってくれたのか、全く見当もつかない。アレキサンドラがセルレウスに私のことを言ったことでアリスまで伝わったのか、それとも単に愛妾であるという噂を聞いたからだろうか。

「私がここに戻る前から貴女のことは噂として聞いていて、この前久しぶりに宮廷に来たら、貴女がガルシア侯爵令嬢とフローレンス伯爵令嬢の嫌味に臆せず言い返していたのを見て勇敢な方だなと思ったんです」

「み、見てたんですね…お恥ずかしいところを…」

あの時はアレキサンドラやアメリ、マティルダのことでいっぱいいっぱいだったから、アリスがいるかもなんて考えてもいなかった。この世界で残してしまった黒歴史を、こんな良い風に捉えてくれるなんて、アリスは優しいのか天然なのか分からない。

「いえ!むしろ私は…最初に会った時の貴女はとても儚げな雰囲気だったので勝手ながら心配していたんですけど、勇敢な面もあると知って是非お友達になってみたいと思ったんです」

「ほ、本当に…!?」

今一瞬脳みそがクラッシュしかけた気がする。アリスがこんな私と仲良くなりたいと言ってくれて、天にも昇るような気分だ。

「良い機会じゃないの。ミーシャはただでさえ見てくれで男がホイホイ寄ってくる上にクソアm…アメリ様達のこともあって他の御令嬢や貴婦人方に避けられているみたいだから」

否定はできないが、ユリアナから割と酷いことを言われた気がする。

ユリアナは、宮廷一の美少女から美女と謳われているため、一見近寄りがたいが友人間ではかなり冗舌な上に毒舌だ。だが、ミーシャとして振る舞ってた頃はここまでではなかったはずだ。

ただ、ユリアナがこうやって気を遣ってくれなかったら、テンパってアリスに返事もできなかっただろう。ユリアナのそういうところが前世からずっと好きだ。

「その…私で良ければ是非友達になりたいです!!」

「っ…!!嬉しいです!私のことは是非アリスと呼んで下さい。貴方のことはなんと呼べば…?」

「みか……ミーシャと呼んで欲しいです!」

私は夢を見ているのだろうか。アリスと友だちになるなんていう、ゲームですら叶わなかったことが実現されたのだ。友達になれたらという願望が叶うのは夢のまた夢だと思っていたのに。

本当は"美加理"と呼ばれるのが本望だが、流石にそこまでの我儘は辞めておいた。

「あの、さっきまでユリアナさんと馬乗りに行ってたんですけど、ミーシャさんも行きませんか?」

「う、馬乗りしたことないですけどやってみたいです!」

「大丈夫です、私が教えますから!」

アリスは、馬乗りや水遊びをしたり、剣の練習をしたりと、この時代の貴族令嬢らしくない様々な遊びをしたがる元気で親しみやすい子だ。幽閉中の重暗い表情とのギャップはえげつない。

ゲーム本編では関わりが少ないながら、可愛らしい見た目も相まってサブキャラの中ではかなり人気のキャラである。ミーシャ・グレイス自身の年齢よりは一つ年下だが、私自身にとっては6歳も離れた年下特有の可愛さが倍になって伝わってくる。

「ミーシャに友達ができて良かったわ。私も訳あって宮廷に出られなかったからミーシャのこと心配してたのよ」

私に対してほっとしたように安心を見せるユリアナも、何やら事情がありそうだ。

「ユリアナも出られなかったんだ…そういえば最後に会ったのも王女殿下の誕生宴以来だったような…確かクロードさんが連れて帰ってたのは覚えてるんだけど…」

「サイネリア家のご子息とは恋仲と聞いてますが、今はクロードさんの実家に住んでいるのですか?」

その点については、確かに気になる。仮にも身体はゲームのヒロインである私のことはその辺の草の如くスルーしたクロードは、ユリアナを非常に愛しているようだった。私の前世の記憶が戻った時点では、二人はもう結婚していたのだろうか。

「ああ…そのことですが、あの家からは出て行きました」

「なるほど、だから今日はここに……ってええっ!!??」

「出て行ったんですか!?」

ユリアナが何気なく言った言葉に、私とアリスは驚愕した。

クロードと同居していたこともだが、今日家出してしまったという事実に最も驚きを覚えた。

「ちょっ…な、なんで出て行ったの!?喧嘩したとか!?」

「喧嘩というか…私が色々嫌になって出て行ったのよ」

ユリアナの方がクロードに愛想を尽かしたような言い方に、私はゲームとの差異を感じて頭が混乱してくる。ゲーム内のユリアナはめちゃくちゃクロードのことが好きすぎて、クロードルートのバッドエンドでは嫉妬のあまり殺人までやらかしてしまうほどだったはずだ。

そんなユリアナに愛想を尽かされてしまうほどのことを、クロードはしてしまったとでも言うのか。

「あの…こんな言い方で良いのか分からないですけど…もしかしてクロードさんの方が何か…?」

「………反乱時の最中に幽閉されてしまったアレキサンドラ陛下が無事解放された時から、クロード様が突然おかしくなったんです。こんな私と結婚してくださったのは嬉しいことだけど、あの日からクロード様は色々度が過ぎてるというか…」

「度がすぎてる?」

「ええ…色々な服やアクセサリーを買う度に私を着せ替え人形のようにしてくるだけならまだしも、あの方は毎晩気絶するまで私を貪り…」

「あああああそうだね度が過ぎてると思いますね!!」

これ以上は、年下のアリスには聞かせられない内容だ。察してしまう言葉が出てくる前に、私は急いでアリスの耳を塞いだ。

「は、はい。服をアクセサリーも買っていただけるのは嬉しいですけど、何回もとなると少し金銭的に心配になりますよね…」

服のことしか聞こえていなかったようで良かった。アリスにはユリアナの最後ら辺の濃厚な話はなんとなくまだ早すぎる気がする。

それにしても、クロードLOVEなユリアナが降参してしまうほど本人が激しく愛しているのは驚きだ。フェリシアの誕生宴の日もクロードのことはちょっと怪しいと感じていたが、これは予想以上の展開だ。

「まあそういう訳だから、少しクロード様とは距離を置いておこうって考えたのよ。今までならお仕置きを恐れて考えもしなかったけど、ミーシャがアメリ様やマティルダ様に言い返したのを見て勇気づけられたの」

「あ、なんかありがとう。私は単にムカついたから言っただけなんだけど…」

アメリとマティルダに言い返したところばかり賞賛されてるような気がする。生意気だと悪く言われるよりはマシだが、黒歴史だと思ってた分ちょっと照れくさい。

「……となると、クロードさんは今ユリアナさんのこと血眼になって探してるのではないでしょうか?」

「今の話を聞いてると一方的に出て行きました感があるから…多分その可能性はあるかも」

「っ……ちょっと距離置きたいと思っただけなのに……」

ユリアナの顔が、どんどん青ざめていく。恐らく、耐えかねた所で冷静な判断もできないまま突拍子もなく出ていくしか出来なかったのだろう。

あのクロード大好きなユリアナをここまで青ざめさせるなんて、もうクロードが悪のようにしか思えなくなってくる。

「あ、あの…!アリス様!セルレウス殿下には申し訳ないことであるのは心得ておりますが、今日だけでも構わないので少しの間家に置いていただけ…」

「アリス様、うちのユリアナがご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。全く…突然家を飛び出したかと思えば男性が一人でもいる場所に身を置こうとは…悪いお嬢様ですね、ユリアナ」

「っ〜〜〜〜…!!く、クロード…様っ…どうして……?」


どこから来たのかわからないクロードが、突然ユリアナの背後からヌッと現れ、ユリアナと同じく私まで背筋が凍りつきそうになった。


ユリアナの肩を抱いて、目の奥が笑ってない笑顔を向けるクロードは、ゲーム内の優男インテリ眼鏡とは到底思えないようなドS系鬼畜眼鏡に見える。

「ユリアナ、帰りますよ。貴女に似合いそうな服を買ってきたので、機嫌を直してください」

「やっ……!!あ、あの…っ…私……まだ…」

このままだと、ユリアナが連れていかれる。家出したのにまた突然現れて連れていかれそうになるのは、クロードのことが好きだとか最早関係なく怖いはずだ。

「ちょっ…ちょっと待ってくださいよ!!」

「なんですか?お友達のミーシャさん??」

考えなしに呼び止めると、クロードが振り向き、笑顔ではあるが邪魔すんなと言わんばかりの鋭い目を向けてきた。仮にも乙女ゲームのヒロインに対してするような目じゃない。

クロードがそれぐらいユリアナを愛していることが伝わってくる。だが、いくらなんでもやり過ぎだ。愛していればそれが許されると思うのならお門違いだ。

「あの…親友のユリアナのことをそこまで愛して下さるのは嬉しいですけど、ユリアナの気持ちもちゃんと考えてますか?」

「何を仰るかと思えば…僕はユリアナが倒れた日に本音を聞いたことで、自分の気持ちに従うだけでなく深く愛したいと思ったんですよ」

「本音??何回も何回も服とかアクセサリー買ってはユリアナを着せ替え人形みたいに扱ったり、その着せ替えた服も全部脱がして気絶するまで激しく抱いて欲しいっていうのがユリアナの本音とでも言いたいんですか???」

「ちょっ…ミーシャ!?貴女何を言って…!?私そこまでは言ってないわよ…!!」

もうアリスの耳を塞いで聴かせないようにする余裕なんてない。ユリアナが否定しようとしても顔を真っ赤にしているせいで、私が今言ったハッタリが、全部本当のことだとモロバレした。

「そんなことを貴族令嬢が言うものではありませんよ。貴女は僕がユリアナに対して酷い仕打ちを与えてるとでも言いたいのでしょうけど、僕は決してそんなつもりはありませんし、ユリアナも最後には僕を受け入れ…」

「はぁああ…それがユリアナにとってはしんどいって言ってるんですよ。いくらユリアナが貴方を愛していても、一方的に独り善がりな行為をされ続けたら限界迎えますから!」

「そんなことをユリアナが思うわけないでしょう。僕たちはお互い愛し合っていて…」

「良いから黙ってユリアナの本音聞けって言ってるんですよ。独り善がりクソ眼鏡」

「ッ!?なっ……く、クソ…!?」

前世の親友が、クロードのバッドエンドは無理やりヒロインとヤる…なんていう嘘みたいな話をしていたことを、今思い出した。そして、今クロードと話をして、ゲームのバッドエンドの行動が自分の中で腑に落ちた。


物腰柔らかく知的なキャラのクロードがそんな行動をする原因は、人に対して愛情さえあれば良いという思いから独善的な行動を決行してしまう所だ。


「貴方は正直言って、さっきからなんでユリアナが家を出て行ったのかについて一ミリも考えてないとしか思えません。ユリアナもただ出かけたいとか私たちに会いたいとかだったら、ちゃんと貴方に伝えますよ。クロード様には直接言えないから、黙って家を出るって形で意思表示するしかなかった…そうでしょ?ユリアナ?」

「っ………クロード様…私はそうするしか出来なかったんです……だって…貴方に愛してもらえること自体、有り得ないと思ってたから…ずっと何も言えなかったっ……もしその場で嫌だって言ったら…クロード様に嫌われると思って……っ」

「………僕に嫌われるなんてこと、考えていたんですか…?」

ユリアナが涙ながらに溢した本音を聞いたことで、クロードはようやく我に帰ったようだ。

ずっと抱えていたことを口にしたユリアナは、限界を迎えて涙をボロボロと流し始めた。ずっと見ていたアリスは、肩を震わせて泣いているユリアナの背を撫でながら、クロードに向き直った。

「……クロードさん。ユリアナさんのことを本当に愛しているのなら、今だけじゃなくてこれからも話をちゃんと聞いてあげて下さい。本音を話すと貴方に嫌われてしまうかもしれないと、まだ恐れているようですので…」

つい感情的に詰めてしまった私と違って、アリスは冷静にクロードを諭した。落ち着いた態度は、やはりラルフがいる公爵家で育っただけあるなと感心させられる。

「ユリアナ…ごめん、ずっと貴女の話を聞かずにいて…僕もユリアナがすぐ側にいないと不安で堪らなかったんです…」

「っ………!!クロード…様………ぐすっ…ぅ…っ」

アリスの言葉を聞いたクロードは、泣き続けるユリアナを優しく抱きしめ、今までのことを謝罪をした。

ちゃんと話を聞いてもらえた上に、クロードも愛していたが故に不安だったことを知ったユリアナは、不安が解けたことで、クロードに抱きしめられたまま泣くしか出来なくなっていた。

「……ユリアナ、一緒に帰りましょう」

「うぅ…っ………ぅ……はい…クロード様…」

落ち着きを見せ始めたユリアナは、クロードに連れられる形ではなく、自ら一緒にサイネリア家まで向かって行った。


「……アリスさん。これ、よく考えたらただ痴話喧嘩に巻き込まれてただけじゃないですか?」

「それでも解決はしたので、良かったと思いますよ」


残された私とアリスは、ユリアナがいない状態で約束していた馬乗りに行った。しかし、たまたま同じように馬乗りに行っていたアレキサンドラとセルレウスに遭遇したことで、お互いの相手に回収されてしまった。

アリスもアリスで、セルレウスには内緒で馬乗りをしていたらしい。私は今回のことで、色々秘密にしておくと碌なことにならないと学んだ。


だからこそ、秘密を抱え込みまくっている私は、後々碌なことにならない状況に直面するだろうと、なんとなく予感した。


しばらくは残酷もしくは胸糞な描写ゼロの休息ターンが続きます

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