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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第3章
40/55

忘れ去られていたこと

途中から、別の視点が入ります

アレキサンドラの娘フェリシアちゃんが5歳を迎える祝いの宴では、ユリアナとクロードが知らぬ間にくっついてたり、フェリシアちゃんに話しかけられると思ったらルイス・ガルシア侯爵に邪魔されるという衝撃に出会した。

そのガルシア侯爵にセクハラされていたところを、金髪で深い緑色の目をした美青年が制止した。

私は、ここでは会ったことがないその青年を知っている。


「な、なんだね君は…!!今良いところで……!?あ、貴方様が何故…?」

「一応、俺はまだここに来たばかりで慣れないその子のことを兄さんに頼まれてるんだよね。お前みたいに妙なことしてくる奴がいたらすぐ止めろって」

「………グランディエ殿下…?」


この青年グランディエは、アレキサンドラの弟かつ、ゲーム内では攻略対象の一人だからだ。この助けてもらう展開も、グランディエとの出会いとほぼ同じだ。

アレキサンドラの愛人になってバッドエンドの危険が身近にあった中で、今からの交流が不可能と思われた攻略対象の一人が助けてくれたのは、かなり幸運なことだ。


ある事実がなければの話だが。


「陛下がわざわざ一人の令嬢のためにそんなこと仰るはずがあるまい。貴方は相変わらず嘘ばかりですねぇ、グランディエ殿下。第一、貴方にはあの謀叛人の…失礼、元ヴィクトワール公爵の義妹ルイーズ様がいるというのに何故…」

ガルシア侯爵の言うように、グランディエはもう結婚している。孤児出身かつ皆から差別される東洋人との混血であるミーシャ・グレイスとは比べ物にならない、元々前ヴィクトワール公爵の親戚筋である高貴な生まれのルイーズと。

そんな人が、何故わざわざ嘘をついてまで私

を助けに来たのだろう。グランディエと会ったのは、アレキサンドラに拾われてきた時だけだったはずだ。

「……今はそんなこと関係ねぇよ。嫌がってる子がいるから助けに行ったってだけだ」

「っ…き、急用を思い出してしまいましたので…今日のところは失礼致します!!」

グランディエの見据える目に怯んだのか、ガルシア侯爵はそそくさと離れて出て行った。

何はともあれ、助けてくれたグランディエには感謝しかない。

「あ、あの…グランディエ殿下、ありがとうございました!その…なんとお礼を言えば…」

「いや、そんなの良いよ!……こうやって会えただけで十分だから…」

「??えっと……」

「っ…何でもないよ、じゃあ俺もう行くから…」

さっきまでは毅然とした態度だったグランディエが、今は言葉が詰まり詰まりでなんだかおかしい。その上、グランディエはルイーズと結婚しているのに、私に会いたかったような口ぶりをしていた。何気に顔もちょっとだけ赤かった気もする。

これらのことが起きた時点で、グランディエに攻略対象としてのチャンスがまだ残っていたのなら舞い上がるほどの展開だ。

だが、私には既婚者を狙う趣味はないし、略奪できても今以上に地獄が待ち受けているだろう。ルイーズについても、今は謀叛人扱いされているラルフ・ヴィクトワールの義理の妹だろうと、元々の格が違いすぎる。

そんな高貴で上品な人からグランディエを略奪したら、私はディアナ王国の全員から顰蹙を買い、アレキサンドラと結ばれた後に待ち受けるバッドエンドの方がいっそ敵が少ない分マシだと思う仕打ちを受けるだろう。

ここで、やっと見つけたフラグはバキッとへし折られた。それに、よく考えたら既婚者云々以前の問題がグランディエにはあった。


グランディエは、兄のアレキサンドラに似て人当たりが良いため、初見では一番攻略しやすそうだと思わされたが、実は一番腹黒で計算高いタイプだ。ゲーム『花園の天使』内での攻略は、かなりめんどくさかった記憶がある。

攻略のめんどくささと共に、自分はグランディエ関係で忘れちゃいけないことを思い出した。


(そうだ!!グランディエとルイーズと言えば…あの子がまだここにいない!!ルイーズはいるのに…まさかまだ…!?)


グランディエの攻略には必須な存在だったルイーズの妹"アリス"が、私がグランディエを攻略しなかったことで、まだ邸に幽閉されたままだ。グランディエには色々問題があると思う一つの理由は、そのアリスの幽閉にある。

グランディエルートは、本人が婚約者であるルイーズと結婚することを踏まえ、ヴィクトワール公爵の広大な財産が全部ちゃんと相続されて欲しいという理由で婚約者の妹アリスを幽閉する…という最悪なエピソードがある。

もしまだグランディエの身勝手な理由でアリスがいまだに幽閉されているのなら、すぐにでも助けた方が良い。だが、見ず知らずの私が直接助けに行っても、アリスにとっては助かったことよりも「あんた誰?」と困惑させてしまう。大前提として、一人であのヴィクトワール公爵家に忍び込むなんて無謀なことはできない上に、グランディエ関係の知り合いが誰一人としていない。

せめてゲームでアリス救出に協力してくれたグランディエの弟セルレウスに頼めれば…とは思ったが、あのキャラは兄たちと違って最初は冷たい態度のため、初対面で頼むのは難しそうだ。


「お父ちゃま〜、ミーシャと話せなかった〜」

「それは残念だな…きっと仲良くなれるからまた会えたら話しかけてやりなさい」

「は〜い」

どうしたもんかと悩んでいる所に、フェリシアちゃんとアレキサンドラの会話が聞こえてきた。さっきはごめんと心の中でフェリシアちゃんに謝る中、アレキサンドラを見た途端にあることが思い浮かんだ。


(グランディエ達の兄のアレキサンドラなら聞いてくれるかもしれない…)




      ーーーーーーーーーー


宴は終わりを迎え、私も部屋に戻った。


色々なことがあって疲れている暇は、私にはない。


どさくさに紛れて部屋にいるアレキサンドラに、急いで話さなければならないことがあるのだ。


「……あの…ちょっと話があって…」

「ん?どうしたんだ改まって…ガルシア侯爵のことなら厳重に注意を…」

「その、ルイーズ様の妹のアリス様のことで相談が…」

「?ミーシャは何故アリスのことを知ってるんだ?」

やっぱりその辺は怪しまれるだろうとは思っていた。"ミーシャ"の状態でも会ったことは滅多にない相手だ。

「ゆ、ユリアナから聞いたの!最近のアリス様は元気がなくて見かけることも少ないって言ってたから私も心配で…」

ゲーム内の親友あるあるの情報通キャラであるユリアナから聞いたということにしよう。勿論本当は本人からもそんな話を聞いたことはないが、アリスが本当は元気で快活なキャラだということは知っている。

そんな人が今は元気がない様子であることを伝えれば、アレキサンドラも心配するだろう。なんせ二人は血は繋がっていなくても従兄弟同士なのだから。

「そうだったのか…あのアリスに元気がないのは心配だ。一番仲の良かったセルレウスに様子を見に行かせれば元気になるだろうか…それにしてもミーシャは優しいのだな。見ず知らずの令嬢をそんなに心配するとは…」

「その…年も近いらしいからいずれ仲良くできたら良いなと思って…」

「……ミーシャがそう願うのなら、尚更すぐにでもセルレウスに頼むとしよう」


これで私に出来ることはほとんどやったと思う。セルレウスが助けに行ってくれれば、アリスは無事救出されるだろう。

だが、アリスとはこれを機に仲良くなるイベントは起こらないと思う。グランディエルートで助けに行った時も、結局はグランディエの改心のきっかけに過ぎず、ミーシャの友達はユリアナとその他大人しめの子ぐらいのままだ。

遠回しに助けて欲しいと伝えただけで仲良くなれるなんて、そんな奇跡みたいなことはめったに起きない。どれだけ友達になりたくても、この手しか打てない状況では不可能だ。


今はただ、アリスが助かってくれれば良い。


私はそう思っていた。


「……あ、あの…」

「なんだ?まだ何か俺に話したいのか…?」

「その…ありがとう、突然のことなのに話を聞いてくれて…」

「ミーシャ…」

こんな突然切り出した話を聞いてくれたことに対する礼だけはと思い、"ミーシャ"の演技抜きでそれを伝えた。

だが、アレキサンドラの表情は曇っているように見え、どこか寂しそうだ。"ミーシャ"じゃないと違和感を持ってる感じがないため、何故なのかわかることが出来ない。

「………最近はあまり"アレン"と呼んでくれなくなったな」

「え?」

「何でもない…ただ…今だけはこうさせて欲しい…」

アレキサンドラにしては珍しく、大人の余裕を感じさせない声色だった。黙って後ろから抱きしめられ、押し倒されると覚悟はしたが、そんな様子は見られない。

顔は見えないが、子供のように甘えているようにも感じられるアレキサンドラに対して、不覚にも可愛いと思ってしまった。


(っ……だめだ…!カッコいいとかじゃなくて可愛いとまで思ったら確実に堕ちるって痛いほど思い知ってるのに…っ)


前世の元彼真佑との経験から考えて、これ以上アレキサンドラへの思い入れを深くなれば、行ってはいけない所に進んでしまう。そうなれば、その後ミカエラの方法で死ぬかバッドエンドに進んだ時により辛くなるだけだ。


かと言って腕の中から抜け出すこともできない私は、アレキサンドラを猫が大型犬と思いながら頭を撫で続けた。




      ーーーーーーーーー


同じ頃、夫グランディエがヴィクトワール公爵領を仮で継いでる状態の中、ルイーズは林檎一個と鍵を手に持ったまま家の物置部屋に向かっていた。


「アリス、今日は申し訳ないけどこれだけね」


埃っぽい物置部屋の扉の鍵を開き、ルイーズは持っていた林檎を部屋の中に放り投げた。

ごろごろと転がる林檎は、すぐさま中にいた人の痩せた手で捕えられた。

アリスと呼ばれた娘は、ハニーブロンドの髪が埃まみれになっていることにも気づかず、虚ろだがどこか必死な目で林檎に食らいついていた。

あまりに素早く林檎を捕まえ、歯を立てて齧り付く妹の無様な姿に、ルイーズはピンクレッドの瞳に軽蔑を滲ませて溜息を吐いた。

「はぁ…相変わらず令嬢らしくなくせっかちなこと。義兄上が私の代わりに貴女を甘やかしたせいね」

「ッ……お姉様…っ…申し訳…ございません…」

アリスは姉に謝りながらも、どうしても空腹に耐えられず林檎に齧り続けてしまう。そんな姿に、ルイーズの軽蔑は怒りへと変わっていく。

「何故謝るの?食事のマナーがなってないこと?それとも…義兄上に理不尽なことまで厳しくされた私への憐れみ??」

「ち、違っ…」

「憐れみなんかいらないのよ!!義兄上のせいで令嬢として得られるはずだった娯楽を奪われた私は…代わりに全てを許された貴女のことが憎かった…!!今までずっと…貴女に気を遣われるぐらいなら、甘やかされて我儘に育ったことで見下される方が余程マシだって思ってたのよ!!」


ルイーズの中でアリスだけでなく、義兄ラルフへの憎しみが徐々に甦り始める。

血は繋がっていなくても自身をグランディエの相手として相応しい淑女として育ててくれた感謝はあれど、貴族令嬢としての娯楽は何も与えてくれなかった義理の兄。自身とは反対に、貴族令嬢の娯楽だけでなく結婚の自由まで与えられていながら、思い上がらず姉に対等に接してきた妹。

そんな環境の中、失敗せず立派な淑女として申し分なく成長してしまったことも相まって、ルイーズは理不尽にも映る義兄に感謝しなければならない状況に立たされた。その上、厳しくされる自身を見下すこともなく優しいアリスに対して、憎しみを抱くことすら禁じられたもようにも感じていた。

そんなルイーズの憎しみは、義兄の反乱の最中にグランディエによって突然甦らされたものだ。それは最早、一度目覚めると止まらなくなる。

「………っ…ごめんなさい……お姉様…ごめんなさい…っ…」

「ッ〜〜だから謝らないで!!貴女がそうやって申し訳なさそうにするのを見る度に私がどれだけ惨めになるか…!!」

涙を流して謝るしか出来ないアリスに対し、ルイーズまた怒りが湧き上がる。しかし、それと同時に優しい妹に憤る自分は最低だと頭では分かってしまうせいで、怒りを思うようにぶつけられず目に涙を滲ませていた。

これ以上アリスの元にいたくないルイーズは、離れる理由を作るために息を吐き、心を静めた。

「っ……もうすぐグランディエ様がお帰りになるからもう戻るわ。言っておくけど、あの方が良いと言うまではここに居てもらうから…」

まだ泣き続けるアリスを一人置いたまま、ルイーズは物置部屋の扉を閉めた。


アリスを物置部屋に監禁しているのは、あくまで企みを持つグランディエの命令のため、ルイーズが勝手に解放することはできない。だが、アリスの顔を見ていたくない本人にとってはその方が都合が良く、命令に歯向かうつもりはない。

お互い愛情は無いが、周囲の圧の中で生きた者同士で気が合うだけだったグランディエとは、今はアリスのことで利害一致の関係となっている。良く言えば安定、悪く言えばなんの刺激もない日々に不満はない。

そんな日々を共にしていたグランディエが、今日は珍しく嬉々として宴に出ていった。それに対し、ルイーズはある違和感を抱いていた。

ここ最近、国王アレキサンドラがどこぞの貴族令嬢を愛人として宮廷に連れてきたという噂が出始めている。普段は宮廷の様子には無関心なグランディエが、その噂にだけは敏感に反応していたのだ。

兄のゴシップには黙っていられないだけのようにも見えるが、その噂がある宮廷に嬉々として向かったのはどうもおかしいと、ルイーズは思っていた。


(それにしても国王の愛人だなんて汚らわしいこと…グランディエ様はそんな方をわざわざ見に行ったのかしら…内面は冷静な人だと思ってたのに…)


唯一の理解者だと思っていたグランディエの軽率とも取れる行動に、ルイーズは失望を覚えそうになる。同時に、ある懸念を抱きつつあった。


(………まさかあの方が国王の愛人に興味を持った…なんてことはないわよね…?)


一番あって欲しくない不安を感じながらも、ルイーズはただ夫の帰りを待つしかなかった。


しかし、ルイーズを追い詰めるかのように、その翌朝にアリスが物置部屋からいなくなっていたことを、グランディエと共に知らされた。


ルイーズとアリスは、ヴィクトワール公爵の父方の親戚の子で、その家は公爵家ではありませんが、それでも由緒ある高位貴族の血筋です。どちらにせよ、ミーシャが敵対するのは身の程知らずな相手です。

※あくまで、現実的な意味で

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