終わりへの始まり
グランディエ&セルレウスと話した後のミーシャ視点
※かなりR-15なシーンあります
アレンの弟であるグランディエ様と二度目の再会をし、セルレウス様との初対面を終えると、アレンに空き部屋まで案内された。
元々迎えるつもりだったのか、中は綺麗に片付けられていた。
「ところで…サラはどこに住むの?」
「サラにも別で部屋を用意しておいたから安心してくれ。グレイス家に残された者達にも、宮廷がジルコニア家内で新たな職を与えることになった。何も心配することはない」
「良かった…あ、でもグレイはもう一緒にはいられない?」
父が大事にしていたように、自分もグレイス家の使用人達のことを家族同然と思っていたため、その話を聞いて安心した。
しかし、その後にグレイのことが気にかかった。ここに来る前に判明した、グレイがジルコニア公爵の息子という事実だ。
「…グレイはトニー・クローズの悪事を暴くために、クローズ家へ見張りに来ていた兵士を通じてジルコニア公爵家専属の騎士団から協力を得ることと引き換えに、実家の跡を継ぐことになっている。辛いだろうが、グレイはもうミーシャの執事ではないんだ」
「そっか…グレイは私がトニーと離れられるように頑張ってくれてたんだ…なのにまともにお礼も言えなかった…」
「二度と会えなくなるわけではないから大丈夫だ。それに、レオンとトニーの領地を引き取る上で、ミーシャの後見として支えるとのことだ。だから会った時には気軽に話しかけてやれば良い」
本当は、これからグレイが側に居なくなるのはとても寂しいと思っている。アレンが今近くにいてくれなかったら、泣いてしまいそうだった。
私にとっての本当の救世主は、私の代わりにトニーに怒って悪魔と疑われた"美加理"ではなく、辛い時にこうして側にいてくれるアレンだ。
「……アレン」
「ん?どうした?」
「幽閉されてる時…酷いことされなかった?」
アレンのことで一番気になっていたのは、幽閉中のことだった。
カンナから話を少し聞いていたとはいえ、それ以上に辛い目に遭っていたではないかと、ずっと心配だった。
「さっきの私と同じだったってカンナが言ってたから…どんな状態かはなんとなく分かるけど…」
「……ラルフから平手打ちを受けたり、不慣れな給仕を付けられて何日も空腹に悩まされたことと…あとはあのトニー・クローズに私のそんな酷い有様を嘲笑われたぐらいだな。それでもミーシャが今まで受けてきた仕打ちの方が余程…………?」
「痛くなかった…?大丈夫?」
自分もトニーに平手打ちをされたことがあったから、余計に心配になる。
酷い仕打ちを受けた挙句に嘲笑われたことを思うと、アレンを抱き締めたくなる。せめて慰めを伝えたくて、抱き抱えられたままアレンの頭を撫でた。
「……っ…何も心配することはない。どこかの仔猫に引っ掻かれた時に比べれば少しも痛くもなかったから安心なさい」
やっぱり引っ掻いたことはまだ根に持たれていたらしい。笑ってるのが逆に怖い。
「そ、それは……ごめんなさい。あれは本当にびっくりしちゃって…」
「私が嫌いだったわけではないのか?」
「怖かっただけ…嫌いだからとかじゃない…」
アレンは反省して弁解しようとする私をベッドに座らせると、優しく手を握った。
「ひゃっ……!?」
「ところで、俺の求愛に対する返事を全く聞けていないんだが…結局のところ、どう思っているのか教えてくれないか?」
「あっ…えっと…そ、その……わ、私は…」
そういえばまだ返事を一切していなかったことを思い出し、焦ってしまう。
勿論アレンのことは好きだが、どう言えばいいのか分からない。頭の中がぐるぐると回っているが、アレンへの気持ちにはちゃんと応えたい。私は、詰まらせながらも一生懸命言葉を紡ごうとした。
「……最初は私一人を愛してくれる人が良かったから…アレンの正体を知った時はショックだった。アレンは国王で、既に王妃としてリナリア様がいて…自分のこととは知らなかったけど…前から大事な人いたんだ…って」
「ずっと騙し続けて…知らぬうちに取り返しのつかない直前までなってしまったことは本当に悪かった。今もクローズ家から助け出すという名目でミーシャを俺の側に置こうとしていること自体、本当は許されないことだ」
今の私には、アレンが何を言いたいのかが分かる。
アレンが人助けという理由で私をトニーから救い出したとしても、私は"国王の愛人"などと注目の的にされてしまう。
これからは、別の恐ろしい世界が私を待っているのは確実だ。
そのリスクを背負ってでも"国王アレキサンドラ"の側で生きたいのかを、アレンは聞きたいのだろう。
「……っ…それでも…私はアレンのことを愛してる…!この先、どれだけ辛い目に遭っても構わない…だから…その…代わりにそれで苦しんだ分だけ、私のことを…あ、愛して…下さい…っ」
自分でも言ってて恥ずかしくなり、目が潤んでしまう。顔だけじゃなく、全身が熱い。
トニーが今まで言っていた、"男を誘惑する"涙で潤んだブルーグレーの瞳で、アレンを見つめてしまっているかもしれない。
それでも良い。アレンが相手なら、どうなろうと受け入れる覚悟はある。
「ッ………ミーシャ、いつの間にこんなに美しく成長していたのか?ここまで成長するところを見れなかったのが惜しいくらいだ…」
アレンに熱を含んだ眼差しで見つめられ、身体中が熱くなっていく。恥ずかしくてたまらず、アレンの胸元に顔を埋めた。
「ミーシャ…愛してる」
胸元に埋めていた顔を両手で上げられると、アレンに押し倒され、柔らかい唇で塞がれた。ゆっくり味わうように唇を食まれ、理性を保って優しくしてくれているのが伝わる。
口付けされながら頭を撫でられ、背筋をくすぐられる感覚に反射的にびくっと身体を揺らした。それでもやめてくれないアレンから少し顔を離そうとしても、やはり軽い力では全然敵わなかった。
「はぁっ…アレン…頭撫でられると…身体が変になりそうッ…」
「今まで恐ろしい思いをさせた分、こうして愛でさせてくれ…」
心の底から好きな人にそんなことを言われると、何も抵抗できなくなってしまう。安心させるようにまた頭を撫でながらアレンは私の身体に覆い被さり、深く口づけた。
そのまま服に手をかけられそうになり、反射的にアレンの手を掴んで離そうとした。案の定、びくともしないまま容易く脱がされていった。
前も同じようなことはあったが、今は何も隠せるものがなくなってしまった。身体を隠そうとする手も、今度は逆に掴まれて剥がされた。
「っ……あんまり見ないで…」
「ミーシャ、俺を受け入れてくれ…ずっと欲しくてたまらなかった…」
アレンの服を脱ぐ姿も、服の下の身体つきの美しさにも、つい見惚れてしまう。
ずっと怖いと思ってきた行為を今から受け入れるのだと思うと、緊張でいっぱいになる。直に肌が触れるだけでビクッと震えようと、アレンは構わず首から胸元にまで口付けを落としていく。
「っ…!ぁ、あッ……んぅッ…!!あっ、あの…アレン…!」
「……!まだ…怖かったか?」
その先が怖い気持ちは、まだ残っている。だが、私にはまだそれと同等に恐れていることがあった。
「 っ……そういうのじゃなくて…その、言いたいことがあって…」
「なんだ?」
「もし私が突然今とは違う別人みたいになったとしても…嫌いにならないで…」
トニーに襲われそうになった時、取り憑いた悪魔として助けてくれた、前世の私である"美加理"のことがいまだに気にかかる。
今日現れた悪魔みたいな子は、私の前世の姿である美加理の魂なんじゃないかと思っている。あの時はトニーに避けてもらえる形になったとはいえ、今度は良い方向に働くとは限らない。そんなことのせいで、またアレンを傷つけるだけでなく、嫌われてしまうのだけは辛い。
アレンにとっては突然何を言ってるのか分からないかもしれないが、嫌わないで欲しいことだけは、どうしても伝えたかった。
「ッ……そんな悲しいことを言うな…俺は何があろうと、お前を嫌うことだけはしないと約束する。だから…泣きそうな顔をしないでくれ…ミーシャ」
「んッ……アレン、もっと頭撫でて…?」
「……ああ…それで不安が無くなるのならいくらでも撫でてやる」
私の我儘に答えるように頭を撫でながら、アレンは瞼にも口付けを落とした。
たった一つの不安も、この人は全部消し去ってくれる。アレンのそういうところが好きだと改めて実感させられる。
これ以上不安になる間も与えないとばかりに、アレンの愛撫は増していった。アレンのそれは、優しくて心地良いものだった。
触れられることさえも恐ろしいと思っていたはずが、泣きたくなるぐらいの幸せに満たされていた。
私は、アレンに全てを捧げた。
痛みよりも、アレンとこのまま繋がっていたい気持ちのが強かった。むしろ、ずっと大きい手で優しく触れられていたい。
アレンに抱かれながら、私は心の底からそう思っていた。
ーーーーーーーーーーーー
《………本当にこれから幸せになれると思ってんの?》
あの聞き覚えのある声が、また聞こえてきた。
目を開けると、辺り一面が真っ暗だ。
私はアレンに抱かれた後に眠ったはずだ。もしかしてここは夢の中なのかと思っていると、あの悪魔みたいな姿をした女の子が現れた。
「ッ………!?今日の朝に見た子…?本当に誰なの…?もしかして…前世の私だった"美加理"?」
《だから違うって。じゃあもう…ミカエラって呼んで。幸せなところ申し訳ないけどさぁ、もうその幸せは続かないよ。長くても一年ぐらい》
「なんで…そう思うの…?」
私がそう聞くと、悪魔みたいな子もといミカエラは、意地悪な顔をする。
《ほんっと反吐が出るくらい純粋な女。そこまで分かんないなら教えてあげる。今は本当にアンタを愛していても、いずれあの男は純粋無垢なだけのアンタのことを都合の良い性欲解消の玩具にする。アンタが欲しがる幸せなんて続くわけないんだよ》
「ッ………!?」
ミカエラがそう言って見せてきたのは、私にとっては辛すぎる光景だった。
さっきとは打って変わって、冷たい目で私のことを抱くと、泣いている私を見ても声すらかけないで帰ってしまうアレンの姿だった。
《あーあ、ほんと可哀想。アンタみたいな純粋な女はこうやって都合よく利用されて搾取されるんだよ。転生前のアンタの幼少期みたいに》
ミカエラから聞かされた最後の一言に、私は何かを思い出しかける。
「転生前って……まさか私が"美加理"って呼ばれてた時の…こと…?」
"美加理"と呼ばれていた時の楽しかったことや辛かったこと。時には強い憎しみを覚えたことを、何度か思い出すことはあった。
しかし、自分は最初から"ミーシャ・グレイス"という一人の人間のはずだから、その記憶は遠い前世に起きたことだと思っていた。
《アンタは死んだ後、神様の力で転生という形で"ミーシャ・グレイス"の身体に乗り移った。
アンタが転生前に神様の手で今までの記憶を無くしたから、それまでの本物の"ミーシャ・グレイス"の記憶まで無くなっちゃったけど。
要するにアンタは本物の"ミーシャ・グレイス"じゃない。
アンタは…"天音美加理"》
「私は…"天音美加理"………………ッ!?」
その名前を呟いた途端、転生前のことが一気に頭の中に流れ始める。
楽しかったことよりも、辛かったことが。
小学生の頃、人見知りで話すことが苦手だったにも関わらず、空気の読めないことをしたせいで、同じクラスメイトに煙たがられ、女子からは軽い嫌がらせを何度もされたこと。
中学に上がってやっと解放されたと思ったら、友達だと思ってた男子から手を出されそうになったこと。
そのせいで他人を信じられなくなった私は、性格を偽るようになり、それは友達や好きな人、家族にまで及んだこと。
心から信じられると思っていた彼氏の真佑に、裏切られたこと。
頭の中にある記憶が流れ終えると、今度は天音美加理が見ているテレビ画面の映像が現れた。そこでは、次々と恐ろしい光景が映し出される。
"ミーシャ"が、アレンに犯された絶望により、何者かに渡された毒薬を飲み干して死ぬ場面から始まった。その後、アレンや親友のユリアナ、"攻略対象"に当たる人達が皆謎の薬で狂っていく絵が現れ、モノローグと共に画面が真っ暗になった。
非常に残酷かつ見ていたくない狂気じみた光景は、紛れもなく前世でプレイしていた『花園の天使』という乙女ゲームで展開される、ストーリー全体におけるバッドエンドだ。
ミカエラがさっき見せてきたものは、全部将来的に起こり得るものだ。
今は幸せでも、そのうちアレンから冷たく突き放されるかもしれない。
そんなのは嫌だ。だけど、アレンのことを嫌いになりたくない。
いっそ、今知ったことを全部忘れられれば良いのに
そう思った途端、ミカエラが口の端を吊り上げ、悪魔のように耳元で囁いてきた。
《そんなに辛いなら…アンタの心と記憶を前世の"天音美加理"のものに戻してあげる。その代わり、"ミーシャ・グレイス"として生きた記憶を全部消して、アレキサンドラのことを信じて疑わなかった時までのアンタの心は魂の中で眠ってもらう。
もう二度と、思い出すことなんてできないように…ね》
「………そんなことできるの?」
《できるよ。人の心と記憶の操作なんて容易いし。で?どうする??》
ミカエラに究極の選択を迫られ、涙が零れ落ちるのを感じる。
辛い思いをしないで済むために、アレンとの記憶を捨てるべきなのだろうか。
「ッ…………わ…たし…は………」
ーーーーーーーーーー
「ッ〜〜〜〜!?!?はぁっ…はぁ……」
突然長い眠りから目が覚めた気分で、目覚めたのに頭がとてもぼんやりする。
(…………ここはどこ?長い間…ずっと眠ってた気がする…)
私は、浮気という形で裏切ってきた真佑に突き飛ばされて死んだはずだ。
しかし、そこからここに至るまで自分が何をしていたのかさっぱり分からない。
ぼんやりする頭で、辺りを見渡してみる。
現代的とは言えない部屋の作りに違和感を抱きつつ、もっとちゃんと確かめようと、隣に目を向けてみた。
すると、この世のものとは思えない程の美しい蒼銀の髪を持つ寝顔の綺麗な男性が、隣で眠っているのを発見した。
「……………誰?この人…」
第二章.end
ここでやっと時間軸がプロローグに戻ります。
というわけで、次回から第三章に入ります。




