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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第2章
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惹きつけられる瞳

ミーシャの目を見ると何が起こるか…という話。


「全く…兄さんはこんな遅くまで何やってんだか」

「送り主は書いてなかったけど、手紙を受け取った後にいつになく怒って出て行ったよね…一言も喋ってないのに反乱前にドルーゼに話しかけられてた時の何倍も怖かったよ」

ラルフとレイヴァンの処遇を終え、やっと落ち着いたと思いきや、兄のアレキサンドラが今日突然出かけたきり、夜になっても帰って来ない。兄を心配し、グランディエとセルレウスは本人が帰ってくるまで待ち続けている。

夜更けまで帰ってこない兄にやきもきしたり、外出する直前まで怒っていたことを思い出したりしていると、城の扉が開く音が鳴った。


「グランディエにセルレウス、待っていてくれたのか」

「兄さん!こんな時間までどこで……って君はあの時の…!?」

「グランディエ兄様、もしかしてこの子を知ってるの?」

やっと帰ってきたと思った兄が、見知らぬ小柄な少女を大事そうに抱き抱えている。

セルレウスは、兄が連れて来た少女を当然不審がった。一方で、グランディエはその少女のことは一度だけ話したことのある相手だったため、すぐに誰かを理解している様子だった。


「セルレウス、この令嬢は以前亡くなられたレオン・グレイスが残した養女ミーシャだ。引き取り手だったトニー・クローズから酷い虐待を受けていると聞いて居ても立っても居られなくてな」

「ああ、あの愚かな家の馬鹿息子のせいか…君、かなり酷い目に遭ったみたいだね。大丈夫?」

アレキサンドラの話を聞き、セルレウスはミーシャのことをよくよく見た後、虐待によって痩せてしまっていることに気づく。食事もろくに与えられてなかったであろうその姿は、幽閉時のアレキサンドラを思い出させられ、同情を覚えた。

だが、ミーシャはセルレウスに声をかけられても怯えたように口を小さく動かすしかできず、まともに声も出せない様子だ。

「……?どうしたの?」

「まだ侍女や私以外と話せる状態ではないから、そっとしておいてあげてくれ」

「あ、うん…分かった…ごめんね、変に声かけて」

会話はできないが意思表示する余裕は残っていたミーシャは、セルレウスの謝罪に対して頭を小さく下げた。

「それにしても兄さんは本当にそういう子ほっとけない質だよなぁ…まあでも、とりあえず君には久しぶりとだけ言っとくよ」

簡易的な挨拶で済ませようとしたグランディエだったが、ミーシャはグランディエを見るなり、以前会ったことを思い出して目を見開いていた。


「ッ…………!?ぁ……」


その一瞬で、グランディエはミーシャのブルーグレーの瞳に心を捕えられた。

胸の高鳴りが急激に早まり、熱が身体中を支配する。じわじわと、恐ろしくも心地良い程に脳が蕩ける感覚に堕とされていくのに、身を任せるしかできない。

グランディエにとってそれは、今まで生きてきた中で一度も感じたことがないものだった。これ以上はダメだと思いながらも、ミーシャから目を離すことができなくなっていた。


「……兄様?」

「っ……!!は………わ、悪い…ちょっとぼーっとしてた……っ」

セルレウスに声をかけられ、グランディエは現実に引き戻された。それでもなお、心配そうに見てくるミーシャに、グランディエは顔を赤らめたまま視線を逸らした。

「……すまないがミーシャを少し休ませてやりたい。お前たちと話をするのはまた明日だ。おやすみ、グランディエとセルレウス」

「あ、あぁ…おやすみ」

「おやすみなさい、兄様…」

グランディエの様子を少し不審に思いながらも、アレキサンドラは就寝の挨拶をし、ミーシャを連れて空き部屋がある方へ去っていった。


取り残された弟達は、帰る様子もなくしばらく立ち尽くしていた。アレキサンドラの姿が見えなくなったと同時に、セルレウスは沈黙を破るように残った兄に話しかけた。

「………兄様」

「な、なんだ?」

「僕、実は幽閉から助け出しに行った時…アレン兄様があの子の名前を呟いてたのを覚えてるんだ。多分…助けるって名目で愛人にでもする気なんじゃないかな…?」

「はぁ!?そんなのあの子が可哀想じゃないか!あのトニーの野郎の元で酷い目に遭ったばかりだってのに…っ!!」

取り残された弟達は、ミーシャについて話題にし始める。

セルレウスはミーシャの名を思い出し、なおかつ愛人の可能性があることに気づいても、比較的冷静だった。だが、グランディエは違った。

トニーの虐待がどのようなものかが容易に想像できるせいで、ミーシャがその直後に兄の愛人されることを哀れんでいるのは十分伝わってくる。だが、そこにはあまりにも必死さが帯びていた。それだけでなく、独占欲さえも感じ取れてしまうものだった。

セルレウスは、グランディエのそんな様子を見て怪しみ始めた。

「なんであの子をそんなに気にかけるの?兄様にはもうルイーズがいるんだから他の女性のことまで気にする必要ないでしょ?」

「……っ…そう、だよな。流石にちょっと可哀想だなと思ったからつい…」

ミーシャと対面してからのグランディエは、どこかおかしい。

女好きのフリをしていた頃や、ルイーズと結婚した時は常に飄々とした笑顔で、そこには熱の欠片も感じられないものだったのにと、セルレウスはますます怪しく思った。だが、これ以上聞くとまずいことになると予感し、話を切り替えようとした。

「そういえば、アリスは最近どうしてるの?反乱前からずっといつもの元気がない感じで気になっててさ…」

「ああ…ちょっと最近は病がちらしいけど、ルイーズが見てくれてるから大丈夫だよ。お前は何も気にすんな」

先ほどとは打って変わっていつもの飄々とした笑顔で説明し終えたグランディエは、逃げるようにその場を去っていった。


(……グランディエ兄様…もしかしてなんか隠してる…?)


誰も知らないところで、また別の波乱が起きる音がしていた。


ミーシャの目を見ても何も起こらないのは、女性、本気で好きな人がいるもしくは既に側にいるパートナーを大事に想っている男性です。

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