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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第2章
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幕間:天界にて

美加理を異世界転生させた神ユピターと天界の人間サイドの話

○視点→??


天音美加理が送り込まれた世界━━乙女ゲーム『花園の天使』に酷似した世界では、ミーシャ・グレイスを苦しめてきたトニー・クローズが処罰された。同時に、元孤児として振る舞っていたグレイが、実家であるジルコニア公爵家に戻り、執事から次期当主となった。

今まで散々多くの女性を傷つけ、立場の低い者を虐げ、馬鹿にして過ごしてきたトニーは、グレイによってその恨みの分だけ拷問にかけられ、常人に戻ることは不可能だろう。あのグレイのことだから、強制的に正気のままでいさせられ、いっそ気が狂ってしまう方がマシだと考えるほどの拷問を行うのは、想像に容易い。


全てを見守っていたユピターもとい神様は、ほっとした様子で胸を撫で下ろしている。

今はというと、天音美加理の魂が中に入っているミーシャをアレキサンドラが宮廷に住まわせるため、連れて帰ろうとしているところだ。紆余曲折あったものの、ようやく天音美加理は"ミーシャ・グレイス"として幸せな結末を迎えることが出来る。


しかし、幸せな結末を迎えたと同時に、天音美加理の魂はこの天界に戻されることになっている。

それも神様が作った異世界転生の仕組みだから、仕方ないことだ。異世界転生は本来、本人の望みが叶ったら強制的に天界に還らされ、もう二度と転生できなくなる。大抵の人は、その条件を聞いたら断って結局普通に元々生きていた世界に転生し直すことを選ぶ。

それぐらい、異世界転生は常人にとって最終的には望まれない。条件を知った上でわざわざ異世界転生を望む私や美加理のような人間は、かなり特異な存在だと言える。


「ようやく終わりを迎えられそうですね」

「見ていたのか…"転生者その2"」

「その呼び方やめて下さいよ…私には千尋っていうれっきとした名前があるんですよ。ええ見てましたよずっと」

「少しは他の転生者と過ごせば良いものを…そうやって人との関わりを避けて怠惰に過ごしたせいで、今は天音美加理がいる世界が正されることなく混沌へ陥り、何度もループさせる羽目になったのだぞ」

今神様がチクチクと痛い所を刺しながら言った通り、私も天音美加理と同じ場所に転生していた。

神様が『花園の天使』の世界をループさせるようになったのは、私の前の"転生者その1"に当たる人が不幸な結末を迎えてしまったことで、世界が混沌とやらに陥ったことをきっかけだ。

『花園の天使』の世界を、混沌がなく秩序が保たれる形にすることを目的としていた神様は、目的が達成されるまで、15歳手前のミーシャが外で気を失う瞬間まで時間を戻し、そこから新たに転生者の魂をミーシャの中身に入れることを繰り返す…つもりだった。

「私のことを"転生者その2"なんて言ってましたけど、本当は一番最初の清花さんと私の間に()()()()いますよね?」

「あんな堕天使にまで堕ちた醜い魂など…存在を認識するに値しない。アレにやり直しの力を奪われたせいで、本来の目的よりも転生者がミーシャ・グレイスとして幸せな結末を迎えることを優先せねばならなくなったんだ」

「……転生者が幸せな結末を迎えられず、そのまま世界をやり直すたびに、堕天使の力が増していきますもんね」

「ああ…本当に最初から最後まで厄介な女だった」

ある転生者…本当の"転生者その2"が、ミーシャ・グレイスとして悪行の限りを尽くしたものの、『花園の天使』の世界自体は結果的に混沌もなく正されたため、本当の"その2"は地獄へ封印されて、もうループさせる必要もなく平和に落ち着くはずだった。

しかし、自分が処刑されたのに、あの世界にいる自分以外の人間は皆幸せに生きているのが相当気に食わなかったようで、封印される前に隙を見て逃げられた。その人は地獄から抜け出した影響で"堕天使"化し、一世界の時間を同じ起点までやり直す力を神様から奪ってしまった。


"転生者その2"…堕天使は、自身を処刑した『花園の天使』の世界への復讐を果たすことだ。

そのためには、他の転生者達がミーシャとして過ごして不幸な結末を迎える度に負の感情を得て、転生者自身の不幸な結末を条件に発動するやり直しの力を繰り返し、堕天使自身の力を増やす必要がある。

神様は『花園の天使』の世界を正すよりも、まずは転生者自身が幸せな結末を迎えることでやり直しの力の発動が無くなって負の感情を得られなくし、堕天使の目的を阻止することを優先する羽目になったというわけだ。


だが、その無限ループみたいなことは、今回の転生者である美加理でやっと終わりを迎えられるため、堕天使はこれで何もできなくなるだろう。


「さて、あと少ししたら美加理を迎えに行くとするか」

「ユピター様、大変恐ろしい事態が発生してしまいました」

「何だ?またあの悪魔が暴れ始めたか?」


神様が美加理の魂を迎えに行く準備をしようとしていると、天の使いが淡々としたトーンと顔つきにそぐわぬ報告をしに現れた。

神様も神様で、「どうした!?」と焦って聞くこともなければ、「何をやってんだ!!」と怒るでもない。天界はそういう人間しかいないのだと、こういうやり取りを見る度に思う。


「あの堕天使が…美加理のいる世界に降り立ち、接触したとのことです」

「何だと?何ということだ…今すぐ探し出せ」

「承知いたしました」


堕天使が美加理に接触したら、確実に何かやらかすに決まっている。また堕天使の目的が果たされかねない緊急事態が、起こってしまった。


前言撤回。『花園の天使』に酷似した世界の無限ループは、また続くことになりそうだ。


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