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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第2章
23/37

脱出と、とある一家の異変

前半は引き続きセルレウスとライヤ側、最後はユリアナ?視点です

※女装、下ネタの要素が入っています


城門で警備をしている兵士の元に、娼婦に扮したセルレウスとライヤ、その二人の見張り役の騎士の一人が近づく。

部外者と判断した兵士達は、セルレウス達を警戒して刀を構えた。

「貴様ら何者だ?娼婦が今易々と外を出歩くなど格好の的だぞ」

「………私共は、さるお方からこの城に住まう方をお慰めしろと命令されてここに赴いた者です」

セルレウスは声を高めにし、上品に振る舞いながら挨拶と事情を話した。その後ろでライヤは、緊張で強張った顔つきをしつつも、セルレウスが少女らしく見える振る舞いができるのに対して密かに驚いていた。

「さるお方…?ああ、ラルフ様のことか。後ろの男はお前達の見張りだな?」

「はい、満足させるまで逃げることは許さないと言って…」

ラルフに脅され、アレキサンドラを満足させるまで逃げられない恐怖に怯えているとでも言いたげに、セルレウスは涙を流した。

その涙に真実味を持たせたのは、後ろでただ緊張しているだけのライヤの姿だった。警備の兵士達から見れば、ライヤには新人のうちから身分ある男の相手をすることへの緊張故に、涙すら出てこない素人感が漂っていたせいだ。

涙するセルレウスと、身体を強張らせるライヤにすっかり騙された兵士達は、城の中へ通すことを認めてしまった。

「お前達も大変だなぁ。そのお客さんは階段をずっと登った先にある。せいぜい頑張れよ」

「……はい、お気遣いありがとうございます」


美少女姿のセルレウスに涙目でお礼を言われた兵士達がその一瞬で心を奪われ、しばらく惚けていたのは言うまでもない。



     ーーーーーーーーーーーーー


「案外簡単な奴らだったね。涙一つで騙せるなんて…逆に手応えがないって感じ」

「というより…警備が甘いのでしょう」

「あの怖いラルフがいないからって手を抜いてるんでしょ、きっと」


無事城門を突破したが、セルレウスはつまらなさそうな顔していた。

色仕掛けに引っかかって間抜け面を晒す兵士達を眺めたいと内心思っていたため、城門の兵士があっさりと通してくれたのは、あまりに拍子抜けさせられる。おまけに、あの警戒心のなさはラルフへの忠誠が無いにしても兵士としてあるまじきものだと、セルレウスだけでなく、ライヤも呆れていた。


「それにしてもここは本当に薄暗くて気味の悪い…いかにも陰気臭いラルフが選びそうな所だよほんと」

「静かで目立たないようにしてるせいかもしれませんね」

ラルフが幽閉場所に選んだ城の陰鬱な雰囲気に嫌気が差しつつも、セルレウス達はなんとか長い階段を登って最上階まで辿り着いた。

曲がり角の向こうでは、別の屈強な兵士達が一つの部屋の前で待ち構えていた。

「……あの部屋でしょうか」

「やっぱりさっきの奴より手強いのがいるね。あの時点で怪しまれて斬られる可能性は十分にあり得る。もしそうなった時は兄様を助けるのは後にして、僕達だけで彼奴らを倒そう」

「はい、セルレウス様」

「見張り役の君はここで待ってて」

「はっ…どうかご無事で」


見張り役をアレキサンドラがいる部屋が見えるギリギリの階段付近で待たせ、セルレウスとライヤは部屋に向かう。

案の定、側から見れば娼婦二人が突然やって来た状況に、兵士の一人は構えるよりも先にずかずかと迫ってきた。

「おい、娼婦風情がこんな所で何をしている?誰が入れたかは知らんが、下らん商売をしたいのなら他を当たれ」

兵士の一人はあからさまに見下した態度を取りながらも、品定めするようにじろじろとセルレウス達を眺める。

心底気持ち悪いと思いながらも、セルレウスは冷静に事情を説明し始めた。

「この城の主人より、あの部屋でお待ちになっているお客様のお相手を頼まれたので…」

「本当に頼まれて来たのか?怪しいものだ。お前はともかく、後ろのはとても女とは思えない。背も女にしては妙に高すぎるし肩幅も広い…本当は男か、はたまた"男女"なんじゃないのか??」

場が凍りついた。セルレウスはまだ余裕で誤魔化せているが、後ろにいたライヤは骨格と身長で怪しまれてしまった。

「……女性に向かってそんな失礼なことを仰るなんて、貴方余程女性と縁がなかったらしいですね」

「なんだとぉ!?!?娼婦の分際で偉そうに!!!」

冷笑混じりの顔で、セルレウスは男を嘲る娼婦を演じる。兵士は図星とばかりに怒り狂いだし、セルレウスに刀を向けた。しかし、セルレウスは表情一つ変えない。

騒ぎを聞きつけた他の兵士が、「どうした!?」とセルレウス達の元に向かって来た。このままでは、他の階にいる兵士達が一気にやって来てしまう。


そんな危機が迫っていた時、怒り狂う兵士の頬に優しく触れた者がいた。


「っ………!?な、なんだ急に…!?」

「……困惑させて申し訳ございません、何せまだ水揚げしたばかりの新参者ですので」

男と怪しまれていたライヤが、耳元で精一杯女声を使い、自分は新入りの娼婦だと説明する。それも、新人とは思えない色気を醸す演技で。

ベールの下から見える顔立ちがあまりに整っているせいもあり、その演技に騙されて怒りをコロリと忘れた兵士は、顔を真っ赤にして腰を抜かす。それに追い打ちをかけるよう、ライヤはまた耳元に顔を近づけてきた。

「えっ……えっ……!?ま、まさかあの部屋の相手が初客……っ!?」

「はい、ですから…床入りが終わった後は私のことを十分にお叱り下さいませ」

トドメを刺すように、しおらしく色気を含んだ声のまま、後で相手をしてやるという意図を伝えると、兵士は娼婦への侮蔑をすっかり忘れ、鼻の下を伸ばしていた。

「っ〜〜〜〜〜〜!!!お、おおっ…!そ、そこまで言うなら早く相手をして来い!!俺のことは忘れるなよ!!」

「おい!!なんで通すんだ……」

「ありがとうございます、お優しい方」

「っ……はひぃ…!」

最初の恥じらいはどこへやら、ライヤは完全に女性になりきっていた。それにすっかり騙された兵士たちは、早くアレキサンドラの相手が終わらないかと待ち侘びることとなった。


こうして、セルレウスとライヤは無事、なんとか部屋に通された。


部屋には、ベッドで虚な表情で横たわるアレキサンドラがいる。セルレウスは兄のそんな惨状を見て、顔を真っ青にさせた。

「……っ…アレキサンドラ様」

しかし、まだドアの外で兵士が待ち構えていることを思い出し、娼婦の演技を続けた。

「ぅ………んんっ……誰……だ………?」

アレキサンドラの虚な目がセルレウス達を捉えるが、まだ何者であるかははっきりと認識できていない。余程ラルフから酷い扱いを受けたのだろうと、セルレウスは胸を痛めながら小声で声をかけた。

「兄様…僕です、セルレウスです」

「陛下、お気を確かに…もう大丈夫ですよ」

ライヤも続けてアレキサンドラに声をかける。実質初対面で、まだ騎士候補故に正式な挨拶以外では会うことが少ない相手だが、礼儀などは気にしていられない状況だ。

「っ…………セル……レウス……か……?」

アレキサンドラは、正体を先に伝えられたことで、目の前にいる明るい茶髪の娼婦はセルレウスだと認識した。

「俺を……助けに来てくれたのか…?隣にもう一人…いるようだが…………"ミーシャ"…か……?」

だが、ほとんど会ったことのないライヤのことは、かの想い人だと認識してしまっている。髪色も服装もほとんど本人とは違うにも関わらず、アレキサンドラはかなり意識が朦朧としているらしい。

大事な王妃や娘、息子、兄弟でもなく、全く別の女性の名を口にしたアレキサンドラに、セルレウスは困惑した。

「えっ……?に、兄様…何言ってるの…?」

「陛下、私は騎士候補のライヤ・ラズライトでございます。このような姿でお初にお目にかかることは大変心苦しいですが…」

「……………っ…あぁ…お前は確か……前騎士団長の家の……」

ライヤがベールを上げて名乗ったことで、アレキサンドラはやっと目の前の黒髪ロングの女性はミーシャではないと認識できた。

「っ……そうだ、兄様。今からやることなんだけど……」


ようやくアレキサンドラの意識がはっきりとし始めた所で、セルレウスは脱出計画を話し始めた。



      ーーーーーーーーーー


一方、アレキサンドラの相手をしていると思い込んでいるセルレウスとライヤが来るのを待っている兵士達は、いつまで経っても出てこないことに苛立っていた。

「〜〜〜〜ったく…!!いつになったらあの女共は来るんだ!!」

「お前どんだけ夢中になってんだ…あの黒髪の女は初めてらしいんだから時間かかるに決まってるだろ」

「チッ…!!あぁああくそっ!!こうなったら見張りとして…あの女の痴態をじっくり眺めてやるしかねぇな」

「……ははっ…お前にそんな良い趣味持ってるとは思わなかったぞ。見張りなら文句言われねぇだろ(笑)」

悪趣味な目的を共有し合い、下卑た笑いを飛ばす兵士達は、ニヤニヤと笑いながらアレキサンドラ達のいる部屋に入った。


「おい、いつまでかかってんだぁ?さっさと終わらせて俺の相手をし……ぐぉあああ!?!?」

「えっ!?!?」


真っ先に入って来た兵士は、ドアのかげに隠れていたライヤに顎から拳をお見舞いされ、部屋の外まで吹っ飛んだ。

仲間がいきなり黒髪の女性に吹っ飛ばされたのを見たもう1人の兵士は、やっぱり男ではないかと憤るよりも、目の前で起きたことに戸惑う気ができなかった。

「い、今何が起きて……ぐぇっ!!!」

ライヤが戸惑っていた兵士も殴ろうとした所、背後から顔の見えない影がその兵士を背中を棒でど突いた。

「っ…!?だ、誰!?」

セルレウスの怪しむ声に反応するように、影は身につけていたマスクとフードを外す。すると、一つに結ばれた薄紫の長い髪と、黄色と赤紫のオッドアイを隠すかのように眼鏡をかけた青年の姿が露わになった。

「……遅れて申し訳ございません、国王陛下、並びにセルレウス王弟殿下。私はクロード・サイネリアでございます。騎士団が戦っているうちに忍び込んでお助けに参りました」

「クロード…礼は後でしておこう」

「ここの兵士達は皆騎士団によって倒されましたので安全です。今のうちに逃げましょう」

「ああ。セルレウスにライヤ、お前達も行くぞ」

「はい!!兄様!」

「はっ!!」

逃げ道を知っているクロードを先頭に、アレキサンドラとセルレウス、ライヤは城の裏口に繋がる階段を使って走って行く。


「……ところでライヤ、ちょっと聞きたいんだけど…」

「はい、何でしょうか?」

「さっきの兵士を骨抜きにしたやつ、僕の想像以上に上手だったけど…アレはどこで覚えて来たの?」

「っ………姉がよく男性を口説く時にあのような振る舞いをしていたので…」

「………それ以上は聞かないでおくよ」


走りながら聞いて損した話だと思ったセルレウスは、これ以上聞くのはやめることにした。

走っていくうちに、アレキサンドラ一行は城の外に出られた。


エルドリック率いる騎士団と合流すると、辺りは城の中にいたであろう兵士を含め、血を流して倒れている者がたくさん転がっていた。

「アレキサンドラ様にセルレウス様!!ご無事で何よりです!!!」

「エルドリックに騎士団の者も…本当にご苦労だった。元いた城まで戻ろう」

「はっ!!皆の者、陛下と王弟殿下をお守りするぞ!!!」

「陛下、王弟殿下。こちらにお乗り下さい!!」

アレキサンドラとセルレウスが目立たない地味な辻馬車に乗り込み、城へ向かって行った。

時間を置いて移動することを決めたライヤとクロードの元に、1人の従者が深刻な表情で走って来た。

「クロード様…!!アイリス家から緊急で手紙が…」

「っ……!!すぐに見せてくれ…!」

世継ぎ誕生の宴以来、懇意にしているユリアナの出身であるアイリス家から、緊急だという手紙を寄越されたことで、クロードは嫌な予感が過った。


ユリアナの身に何かあったのではないかと。


その手紙の内容を見たクロードは、顔を真っ青をさせ、必死の形相で馬に乗り上げた。

「っ……!?クロード様!?どちらに向かわれるのですか!?」

「アイリス家に行かせてくれ!!ユリアナが危篤だと聞いて放っておくなどできない!!」


クロードは従者に伝えるだけ伝えて馬に鞭を打ち、ユリアナの家に急いで行ってしまった。


「クロード様!!!!………行ってしまわれたな。あの穏やかで落ち着いていらっしゃるクロード様らしくない行動だ」

「余程…あの方はユリアナ様に心を奪われたのでしょう」


クロードのことをよく知っている従者は勿論のこと、あまり交流を持ってなかったライヤでさえ、先ほどの行動はクロードらしからぬものだった。

自身に課された仕事よりも、一人の女性を優先するクロードの姿は、誰も想像できないものだった。



      ーーーーーーーーー


ここは一体、どこなのだろうか。


私は、さっき死んだはずなのに。

ベッドで寝ているが、身体中が熱くて、頭が痛くてぼーっとする。息もまともにし辛くて、見守っている人に話しかけることも出来ない。


「ユリアナ様!!もうすぐクロード様がいらっしゃいますよ!」

「……っ…クロード…様………?」

「先ほど、伝達の者が言ってました。ユリアナ様のために急いで馬を走らせて向かっていると…」

私のことをユリアナと呼ぶ侍女らしき人が、クロードという人が急いで来てくれることを伝えてきた。

これで元気になればと思っているのだろうか。私の反応が侍女の想像より薄かったのか、また心配そうな表情を見せている。



ユリアナ、クロード。



この二つの名前を聞き、私はこの世界が何なのか、少しだけ分かってくる。信じがたいことが、今起こっていることも。


「………そんな…こと………あの人が……」



"私のためにしてくれるわけがない"



その一言は、直接言葉としては発せられなかった。意識はまた朦朧とし始め、息をするのも精一杯という様子になっていく。


(クロードが……()()()じゃなくて…ユリアナのために動くなんて…………)



"絶対あるわけがない"



そう思った瞬間、突然深い眠りに落とされ、魘されていたのが嘘のように静かになった。


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