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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第2章
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それぞれの思惑

前半がグランディエ、後半はその弟サイドの話

ミーシャがクローズ家に引き取られた数日後のことだった。

国王アレキサンドラを幽閉したラルフは、首都イオスを越えて国境付近の市ベリルに向かって行った。


ベリルには、前王亡き後にアレキサンドラと王位を争った次弟が継いだルベウス家の生き残りである息子がいる。反乱軍はその人物を王位として担ぎ上げようとしていることが、ラルフの行動で明白となった。

その知らせを受けた主なきヴィクトワール公爵邸では、動揺が走っていた。家の中でも一番にサッピールス家絶対主義だったラルフが、よりによって敵の息子を担ぎ上げるというのは、裏切り以外の何者でもないからだ。

しかし、主の代わりに留守を頼まれているグランディエは一人、兄を助けに行くでもラルフに加担するでもなく、その騒ぎの傍観に徹していた。


(ラルフも思い切ったことするよなぁ。よりによって兄さんの敵を選ぶなんて。下手したらギロチン送り確定だよ)


前王アウィンとルベウス家前当主の妹の嫁ぎ先であるヴィクトワール家は、どちらかを支持すること自体、特段問題はない。ただ、今は国王の弟グランディエが、ヴィクトワール家の娘ルイーズと婚約している。

グランディエが一緒に兄へ反旗を翻さず、ルベウス家を支持することがなければ、ラルフは完全な裏切り者として処刑される。同時に、ルイーズとの婚約自体も破棄される話だ。


グランディエ本人はというと、国王と敵派閥の娘との契約結婚を濁らせるために利用をされた恨みはあるが、反旗を翻したいほどではない。苦手意識を持つラルフと共に危険な道を進んで沈む方を、一番に避けたいと考えている。

むしろ、ルイーズと結婚してこのまま傍観を続ければ、ラルフがどうなろうと残された公爵領は自分達夫婦のものにできる。グランディエにとっては、それが重要だった。

特にヴィクトワール公爵領にこだわりがあったわけではない。単に広大な土地を手に入れて統治することで、今までずっと得られなかった周りの評価が欲しい。優秀で完璧な兄の陰に埋もれて見つけられなかったことで膨大化した承認欲求が満たされれば、反乱のことなど正直どうでも良い。

グランディエは、絶対に傍観から動くつもりは無かった。


「兄上…何故裏切りなんか……」

兄の裏切りに対して沈んだ表情を浮かべるルイーズに、グランディエは爽やかな笑顔を作って話しかけた。

「ルイーズ、君が義兄上に従うというのなら、俺も受け入れて着いて行くよ」

無論、グランディエもルイーズがラルフに着いて行くことがないと分かってて言っただけのことだ。

ルイーズが今まで堅物の古風な考え方の兄に縛られてきた恨みを持っているのは、あまり打ち解けていない頃でもグランディエは察知できていた。

「……着いて行くつもりはありません。今まで私のしたいことを全て兄に否定されてきた恨みは根深いものですので」

「それなら…義兄上が俺との結婚を進めたのは相当嫌だったんじゃない?今なら婚約破棄もできる。俺は別に構わないよ」

「………貴方まで嫌う理由はありませんから」

「んーー…まあ、ね。俺もルイーズのことは嫌いじゃないし…お互い他に好きな人もいない。だからこの婚約は、ある意味利害一致のものなんじゃないかな?」

「……どういうことですか?」


ルイーズとは、お互い好きな人もいない上に、特に憎み合う関係でもない。そして、ラルフや国王の周りにいる大人達に振り回された被害者同士でもある。

グランディエは、ラルフがたまたま持っていた広大な土地が欲しいため、ラルフが勝っても負けても、ルイーズとの結婚に不利益はないと思っている。だが、目的の達成には最大の邪魔者がいて、それは何とか排除しなければならない。


「……そういえば君の実の妹ってさ、あの義兄上にしては珍しく厳しくせずに自由にさせてたよね?俺の弟が一時期熱を上げてたのを思い出したんだけど、もしその二人が結婚したらどう思う?」

「………?アリスのことですか?別にあの子も以前は慕っていたと聞いた方ですし、好きな人同士なら一層素晴らしいことだと思いま…」

「違う違う。君は別に好きでもなければ嫌いでもない人と結婚させられるっていうのに、妹は愛し合っていたであろう人と結婚するかもしれないってことだよ。あの義兄上のことだから、アリスの結婚も自由にさせるんじゃないかな」

「っ…………!!アリスが…また自由に……?」

心の奥底にあるであろう憎しみを引き出した途端、ルイーズの目にはじわりと怒りが宿るのを、グランディエは見逃さなかった。


自分だけ厳しくされたというのに、妹のアリスは自由を許され、可愛がられてきた。

昔はまだ、明るくて懐いてくれる妹だからと思い、可愛がることはできた。だが、兄が妹に対して恋愛結婚を許したと聞いた二年前から、妹に対して段々と疎ましさが芽生えた。

何とか妹を避けて、疎ましいと思わないようにしてきたが、グランディエに一度引き出された憎しみは、知らぬ間に増大していた。


そんな様子のルイーズを見たグランディエは、想定内に事が運んで満足そうな表情を浮かべた。


義妹アリスの存在は、ラルフが負けて爵位を奪われた際に引き継ぐ土地問題において、非常に邪魔になり得る。グランディエの弟と結婚するとなれば、尚更のことだ。

そこで最悪ラルフが負けてアレキサンドラの王位が無事となった場合、あの公平を求める男のことだから、弟同士で土地も分割させられてしまう。

グランディエにとって、義妹と自身の弟との結婚は一番避けたいことだった。


(まあ、今はしばらく様子見だな)


邪魔なアリスについては、ラルフの勝敗が決まってから色々と考えれば良い。

せめて、自身にとって不利益のないよう立ち回ろうと、グランディエは思っていた。


(そういえば…ついこの前亡くなったレオンの弟クローズ家のドラ息子が俺を王にしようなんてバカなこと望んでたっぽいけど…国王なんて面倒臭いことやるわけねぇだろ。情報が足りないにも程がある…やっぱり馬鹿な奴だな)



      ーーーーーーーーーー


一方、同様に主のいない幽閉先の城外では、不審な人物達を見かけたという情報が入り、兵士達による警戒が厳重となっていた。

そのため、アレキサンドラを助けようとする者達は誰も近づくことのできない状況である。


「………こんな時にルイーズの婚約者であるグランディエ兄様がいてくれれば…捕えられた人質のフリをした僕たちの見張りという名目で城に入らせて貰えるのに…!こんな時に何を傍観しているんだあのバカは!!」

その様子を森林の物陰にある小屋の中から伺い、悔しそうな表情を浮かべている蒼銀色のおかっぱ髪の少年が、兄であるグランディエに対して恨み言を小声で吐き捨てた。

「落ち着いて下さい、セルレウス様。グランディエ様も同じように救出の機会を待っているはず…」

「そうですとも!!グランディエ様はアレキサンドラ様や貴方様に負けないぐらいの思慮深さをお持ちですから!!希望をお捨てになるのはまだ早いです!!」

「エルドリックうるさい!聞こえるかもしれないでしょ!!」

少し寝癖のある青みがかった黒髪の青年が静かに銀髪の少年セルレウスを宥める一方で、武装した屈強な坊主の男性は、隠密に相応しくないハキハキとした声でセルレウスを元気付けようとした。

だが、坊主の男性エルドリック・マーティンの大きい声は、セルレウスの耳に障ってしまったらしい。セルレウスは、エメラルド色の瞳で睨みつけながら、エルドリックを咎めた。

だが、エルドリック本人はそれに対してダメージは無く、全く凹むことを知らない様子だった。

「深い森の中なのでご心配ありません!!それよりもライヤ!お前は逆にいつも以上に元気が無いぞ!!はっはっは!!」

「団長…アレキサンドラ様を救出しようという今は元気に声を出すべき状況ではないと思いますが……」

エルドリック率いる騎士団に所属する黒髪の青年ライヤ・ラズライトは、やたらと目の輝いた笑顔で注意をする上司のエルドリックに呆れるでも辟易するでもなく、真面目に真っ当な言葉を返した。

二人のやり取りを呆れた目で見つつ、セルレウスは警戒が解けそうにない城の様子を伺っていた。

「……まだ警戒は強いみたいだ。もうグランディエ兄様に頼らず僕達だけでどうにかするしかないよ。ラルフがルベウス家側を完全に説得し切るのは時間の問題だ。当主本人の意思は無視されるだろうけど…」

「ですがセルレウス様。警戒を突破するにしても、この大人数で行けばその前に体勢を整えられてこちらが危機に陥る可能性があります」

ライヤの言う大人数も、セルレウス側については城を警戒しているであろう兵士の数に比べれば少数に等しい。無闇に突破しようとすれば動きを察知され、城の中の兵士達が一気に攻め込んでくる可能性は大きいため、確実に負ける上に最悪の場合はセルレウスまでアレキサンドラと共に幽閉されてしまう。

そして、屈強なエルドリックがいなければ、万が一隙を突かれた時に対処できないという不安もあり、ライヤは考えが八方塞がり状態に陥っていた。


「……ライヤ、"僕達"にこの脳筋バカとその部下達も入れるなんてほんと単純だね。まだ眠気が取れてないんじゃない?」

「ぅっ……す、すみません…今日は髪を整える余裕がなく…」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど…」

セルレウスの嫌味も、ライヤは寝癖のことと勘違いした上に、それを本気で受け止めてしまう。あまりに素直な反応で、セルレウスは思わず呆れたように拍子抜けした。

「ま、まあ良いや。とにかくまずは変装した僕とライヤで潜入することからだ。君はちょっと抜けてるところはあるけど騎士としての実力は確かだ。だから僕のボディーガードを頼むよ」

「セルレウス様の頼みとあればお聞きしますが…団長の方がその役目は相応しいのでは…?」

「エルドリックはディアナ王国の騎士団長として顔は知られている。それにその無駄に仕上がった肉体は変装では隠しきれない。けど君は騎士候補故にこちら側にいる騎士団以外ではそこまで顔は知られていないし、簡単な変装で誤魔化すことも可能だ。だから頼むよ、ライヤ」

「……承知致しました」

王の弟であるセルレウスにどうしてもと頼まれてしまえば、根が素直な質のライヤに断ることなど不可能だ。自信はないながらも、セルレウスの頼みとあらばとライヤは了承した。


「じゃあライヤ達、あそこの小屋で作戦を考えるついでに着替えるから来て」


小屋の側にある物置に向かったセルレウスとライヤは、アレキサンドラ救出のための作戦を本格的に立てながら、変装用の衣装に着替え始めた。



     ーーーーーーーーーー


「セルレウス様…本当にこれで行くんですか…?」

「何言ってんのライヤ。なりふり構ってられない状況なんだから仕方ないでしょ」


用意されていた変装姿に、ライヤは顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向くが、セルレウスは堂々と振る舞っている。


「だからって……セルレウス様はともかく俺の"女装"は流石にバレますよ!!!」

「それ僕が普段から女の子みたいに可愛いって意味で言ってるの?まあ、事実だけどね」

「とてもお美しいですよセルレウス様!!ライヤも本物の女子であれば俺も惚れそうだ!!」

「本当にやめて下さい団長……」

「すげぇ美人に化けたなぁ、ライヤ!はははっ!」

「アーサー笑うな!!」


セルレウスは、元々骨格があまり男性的ではないこともあり、首から腕にかけて白い長袖で、胸元から下は緑色のドレスを着こなしている。首元で切り揃えられた特徴的な銀髪を茶髪のセミロングで隠したことで、誰が見ても元が男とは全く分からないぐらいの、可愛らしい美少女へと姿を変えていた。

ライヤは、自身の青紫の目と同じ色を基調としたドレスを身に纏い、地毛と同じで青みがかった黒髪ロングのカツラを付けている。流石に顔は化粧だけでは男の骨格を隠せなかったため、黒いベールを被ることとなった。

筋肉づいた身体が見えないよう、広がる長袖とブーツで腕と脚を隠したことで、側から見れば背の高いミステリアスな美女そのものである。その証拠に、揶揄っているだけのエルドリックや友人のアーサーとは違い、ライヤと同じ騎士候補達はその女装姿に見惚れていた。


「今から僕とライヤは、"アレキサンドラ様の慰めの相手としてラルフに送り込まれた娼婦"だ。この騎士団の中から僕達の見張り役を一人入れて城に侵入し、兄様を救出するという手立てだ」

「なるほど、つまり私が囮としてアレキサンドラ様のお相手をしている間にセルレウス様達で城の兵士を叩きのめすという…?」

「そう、君が兄様とお楽しみの間に僕は平凡な兵士と虚しく戯れて…って違う!!フリに決まってるだろ!!それにそんなことはこの僕が許さないから!!」

「す、すみません…!見当違いなことを考えて……」

最悪かつ恥ずかしい勘違いを、よりによって女装姿でしてしまったライヤは、そんな覚悟を決めていたことすら不敬だとばかりに縮こまった。小屋の中で微妙な空気が流れる中、セルレウスは咳払いをして切り替えた。

「………ごほん。それで、エルドリック達は見張りの兵士の警戒が緩んだ時に急いで突破し、僕達の援護をしてくれ」

「はい!!騎士団長の名において、この命をかけてでもセルレウス殿下と国王陛下をお守りいたします!!勿論、ライヤも万が一の際には俺を頼れ!!」

「は、はい…!!団長!!」

騎士団長のエルドリックの言葉に、ライヤだけでなく騎士団の士気も徐々に上がっていく。

「皆の者、アレキサンドラ兄様の救出に向かうぞ!!」

セルレウスを筆頭に、ライヤとエルドリック達は小屋を抜け、アレキサンドラのいる城に向かい始めた。


次回もセルレウスと騎士団サイドの話です。

ライヤ・ラズライトは今後の重要な人物となりますので、頭の片隅に置いておいてください。


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