二度と消えない痛み
2話目から残酷かつ胸糞な描写、トラウマをフラッシュバックさせるシーンがありますので、ご注意下さい
昨日はお父様の葬儀が終わってすぐに、トニーが家に来てしまった。
「俺は優しいから休憩させてやる」と言っておきながら、結局は偉そうにサラ達に命令をし、挙句には家に泊まっていた。
絶望の中で迎えた今日はというと、トニーが夜に話があると言って、私を呼び付けた。
サラ達は追い払われてしまったため、トニーと二人きりになった私は、向かい合わせで席に着いた。トニーは足を組み、私をじろじろと舐め回すように見てくる。
「………あ、あの…」
「おどおどするな鬱陶しい!!」
「ひっ……ご、ごめんなさい…っ…」
以前と変わらず…いや、むしろクローズ伯爵という安定した地位に就いたこともあり、元々粗暴だったのに加えて、高圧的で横暴な振る舞いが目立つ。
三白眼なせいで意地悪そうに見える目つきは一層悪くなっており、前々からうっすらとあったそばかすは濃くなっている。おまけに、特徴的な赤毛も、今では血の色かと思うぐらいだ。
トニーのことが怖くてたまらず、我慢しようとすればするほど目に涙が溜まっていく。
「……っ…ふん!!相変わらず男を誘う目をするんだな」
「そ、そんなことしてな……」
「その目であのアレキサンドラのことも誘惑したんだろう?あの男がお前の家に何度も来ているのを見た者が何人もいるからな!!言い逃れなどできないぞ!!」
アレンが私の家に来ていた事実は、トニーが何と言おうと否定はできない状況なのは分かっている。だが、アレンを誘惑したつもりは一ミリもない。そもそも誘惑の仕方すら分からないのに、そんなことしようと思えるわけがない。
記憶にある限り、昔から意味の分からないことばかり言う所は何も変わっていない。トニーは、本当におかしい人だ。
「まあ良い。叔父上が亡くなられた今、この慈悲深く優しいトニー・クローズはお前をこのまま身寄りのないまま放っておくことはしない。アレキサンドラが幽閉されている今のうちにお前との結婚を進めておいてやる!!候補に上がっている次弟のグランディエ様が王になった暁にはすぐ結婚するぞ!!」
「……ッ!?や、やだっ…そんなこと…」
「言っておくがお前に拒否権はない。明日にでもお前をクローズ家に迎えるつもりだ。主人となる俺には何を言っても無駄だということをはっきりと覚えておけ!!」
私の言葉を無視して言いたいことを一方的に全部言い切ったトニーは、引き取る準備をするからと言って、さっさと帰っていった。
「……お嬢様!!大丈夫ですか!?」
トニーがいなくなったのを見計らって出てきたサラは、私の背中を優しくさすってくれる。そのおかげで、少しは落ち着くことができる気がしてきた。
「……大丈夫、まだ何もされてないから…」
「…あのクソガキだけは絶対に処す……!!」
「グレイ、抑えて!あの人に聞こえるから…!」
後から出てきたグレイは、完全に怒り心頭状態だ。トニーが来てからずっと機嫌が悪く、サラに小声で止められている今も、何やらブツブツと呟いている。
「どの汚ねぇ面下げて来やがったあのガキ…!てめぇなんかが天使のように純粋無垢なお嬢様と釣り合うわけねぇだろ…!頭イカれてんのか…??あの皮○○○野郎が…!!」
なんかグレイからとてつもなく汚い言葉が聞こえた気がする。
「もう、グレイ!!お嬢様の前で何てこと言うんですか!!あの男を今すぐ血が昇り切るまで宙吊りにしてそのまま硬い壁に全力で何度もぶつけたい気持ちは分かりますけど、お嬢様にそんな物騒な言葉を聞かせてはダメです!!」
「いや俺もそこまでは思ってないけど…ごめん、昨日からお嬢様やサラ達のこと馬鹿にされてばっかりだからつい…」
サラが何言ってるのかはよく分からないけど、サラもグレイも、私や他の使用人達のために怒ってくれている。
この人たちがここの家にいてくれて良かったと改めて思う。
「サラ、グレイ…ありがとう。私は大丈夫だから…ゆっくり休んで」
明日になった頃には、この家から離れることになる。もしかしたら、サラやグレイ達全員の侍女や使用人達と引き離されてしまうかもしれない。
たった一人であのクローズ家に行くのは嫌だ。
お互い成長してしまったから、トニーが昔にしてきた恐ろしいことを、最後までする可能性もある。
トニーにまた酷いことをされるのは嫌だ。明日なんか、来ないで欲しい。
一人ベッドの中で不安が湧いては辛い記憶が甦ってしまい、私は一晩中恐怖で涙を流し続けた。
ーーーーーーーーーー
翌日…
私がどれだけ迎えが来ないで欲しいと願っても、神様は聞いてくれるわけがなかった。夜は兵士たちがいるからという理由で、クローズ家に行く時間は夕刻まで早まってしまった。
サラとグレイと共に嫌々で行った出発の準備が終わり、時間通りに外に出ると、既にトニーが不機嫌そうに貧乏ゆすりをしながら立っていた。
「この俺を待たせるな!!準備ぐらいさっさとしろ!!」
「ご、ごめんなさい……っ」
「ったく…お前の下僕のサラとグレイだけでも連れて行くことを許してやったんだ。これ以上俺をイラつかせることをするな!!」
「は、はいっ…ごめんなさい…」
サラとグレイ二人を連れて行くことは、なんとか許してもらえた。しかし、この様子ではあまり一緒にいさせてはくれないだろう。
「……誰が下僕だよこのクソガキ」
「何か言ったかグレイ??」
「いいえ、恐らく空耳でしょう」
「ふん、お前はただでさえ老人のように白い髪だけでなく目の切り傷が見ていて不気味だというのに…いいか?下僕の分際で俺に何か言おうものなら遠慮なく追い出してやるからな!野蛮な兵士どもがうろつく前にさっさと行くぞ!」
急かされて、私達はトニーが用意した馬車に乗り込んだ。
その馬車はガタガタと音がうるさく鳴るばかりで、乗り心地が悪い。そういう馬車に乗り慣れていないせいで、気持ち悪くてぐったりしそうになる。吐くほどではないが、心の中の鬱屈とした気持ちを強めるばかりだ。
唯一の救いは、トニーが同乗していないことだけだった。
「……お嬢様、あの方に何かされたらすぐに言って下さい」
「……………うん」
「絶対私より先にグレイに言ってはダメですよ。クローズ伯爵を殺しにかかると思いますので」
「…分かった。私のせいでグレイが罰を受けるのは嫌だし…」
『アレキサンドラ様はもう終わりかもしれない…弟のグランディエ様が王になるのは時間の問題だろうね』
『いや、ヴィクトワール公爵はディアナ王国の国境付近のベリルに逃げた元国王のレイヴァンを王にする…という噂もあるらしいよ』
『俺としてはアレキサンドラが王じゃなくなるならなんでも良い!そもそも端正な顔立ちをしているからって調子に乗るからこうなるんだ!当然の結果だな!!』
『そうだな…美形贔屓の女共が嘆くのが楽しみだ…ククッ』
クローズ家に向かう途中で、何度もアレンへの中傷が聞こえてきて、胸が痛くなった。
(アレン…ヴィクトワール公爵や反乱軍の人達に酷いことされてないと良いけど…傷つけたこと謝れないまま会えなくなってしまったら…)
アレンに襲われそうになったことを恨む気持ちは、ある意味トニーのおかげで霞んで、いつの間にか消えていた。
今では、傷つけてしまったことを謝りたい。たった一度でもいいから、アレンに会いたい。
馬車に揺らされ、様々に聴こえてくる中傷を耳にしながら、私はそのことばかり考えていた。
ーーーーーーーーーー
アレンが憂鬱な気持ちは勿論変わることはなく、クローズ家に着いてしまった。
クローズ家の門前では、侍女や従者が出迎えにきていた。しかし、あからさまに歓迎せず睨みつけるか、ニヤニヤ笑っている人が様々にいる。
こんな所でこれから生活するのかと思うと、憂鬱な気持ちは強まっていく。
「お待ちしておりました。随分と遅かったですねぇ」
「っ……少々道が混んでおりましたので」
「私共は暇じゃ無いんです。さっさと荷物を運んでください」
「分かりました、すぐお運びいたします」
遅いだの早くしろだの苛ついた態度で言われても、サラとグレイはすぐに荷物を運び、黙々と移動させる。今は立場の問題があるとはいえ、基本的にこういう人達に言い返しても無駄だと判断したのかもしれない。
私は、荷物を運ぶ二人に、そのままついて行こうとした。
ドンッ!!
「痛っ…!!うぅ…」
「あらあらごめんなさいねぇ!つい手が滑ってしまいましたわぁ」
強い力で押されて倒れ込んでしまった私に、トニーの家の侍女は謝る言葉とは反対にニヤニヤ笑っている。サラやグレイがやられなくて良かったが、私の転んだ音をグレイが聞いていたようで、侍女を強く睨みつけていた。
「おいてめぇ…!!お嬢様に何しやが…」
「グレイ早く運んで!お嬢様、立てますか?」
「う、うん…」
私のせいで、二人の手を煩わせたらいけない。グレイがクローズ家の無礼な態度に怒ったせいで追い出されてしまえば、私だけでなくサラまで恐ろしい思いをさせてしまうかもしれない。
サラだけは、側に守ってくれる人がいて欲しい。
自分のせいで大事な人が不幸になるのは嫌だ。
トニーとは、結婚の日が近づくまでなるべく近寄らなければ良い。その頃には、私も諦めがつくことができる。
そうして自分の心に嘘でも吐いていないと、この地獄みたいな場所に耐えられる気がしなかった。
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トニーの直属の侍女であるカンナという女性に案内された部屋は、ベッド一つと窓、机が置いてあるだけで、必要最低限の生活しかできないものだった。部屋に着いたら、カンナは役目を果たしたとばかりに、さっさと別の場所に移動して行った。
だが、その部屋には何故かベッドに座っているトニーがいる。サラと合流する前に早くどこかに行って欲しい。そう願っていると、トニーが獰猛な獣のような目で私を見てきて、背筋が一気に凍りつくのを感じた。
「こっちに来い」
「………っ!?やっ……やだッ!!何するんですか…んんっ…!?んぐッ!!!」
いきなりトニーに腕を引っ張られ、ベッドに突き飛ばされる。そして、口に布を巻きつけられ、ろくに喋れないようにされた。
「静かにしろ!!お前が誘惑するような目で見るのが悪いんだ!!」
「っ……!?んぅううッ…!!」
またトニーは、変なことを言い出した。
誘惑など一度もしていない。むしろ、そんなことをトニーにしたくもない。
「婚姻が成立するまで処女は奪わないでおいてやる。その代わりお前のその混血の身体がどうなったか見せてもらう」
「んぅっ…!?んん〜〜〜〜!!!」
手枷をつけられると、ビリッ!!と激しく音を立てながら衣服を破かれる。
自分の身体が次々に露わになっていくを隠したいのに、隠すこともできない。
「はぁっ…その目だけじゃなくて…身体つきまでいやらしいとはなぁ…胸も前より大きくさせて…やはりアレキサンドラを誑かしたんだな…!!」
トニーは私を罵りながら、興奮した様子で胸を強く揉み始めた。関わるのも嫌な人に触られたくない場所を触られるのが気持ち悪い。口を塞がれて呼吸が上手くできないのもあって視界が歪み出した。
「んぅううッ…!!んーーッ…!!」
「アレキサンドラは随分大事にしていたみたいだな。美形だからと調子に乗っていたあの男よりも先にミーシャの処女を奪えるなんて…最高の気分だ…!!」
「ッ〜〜〜〜〜!!んんん〜〜〜!!」
嫌だ。この人に処女を奪われるのだけは絶対に嫌だ。
トニーに触られているのも嫌で嫌でたまらず、とにかく逃げようと私はずっと精一杯身を捩らせ続ける。しかし、トニーに馬乗りにされて、全く身動きが取れなくなってしまった。
「暴れるなと言ってるだろ!!大人しくしてろ!!」
首をべろっと舐められて、不快感で涙が滲む。触られたり舐められるうちに、感じたくないものを感じてしまう。
死んでも、くすぐったいなどと思いたくない。ゾワゾワした気持ち悪い感触が、次々に刻まれていく。
「はぁっ…はぁっ…この吸い付くような肌っ…俺はずっとこれを味わいたかったっ…はぁっ…」
「ッ………ぅ……ぐ…んん〜〜っ…!!」
(早く…っ…早く終わって…っ…!!"また"こんなことされるのはいやぁっ…!)
この感覚、何か知ってる気がする。
懐かしいというより、奥の奥まで封じ込めたい忌まわしいもの。思い出そうとすると、今まで以上に頭が強く痛む。それが何かを思い出す間も与えられないまま、私はトニーに辱められるしかない。
早く終わって欲しい。処女は奪わないとは言っていたトニーの気が変わりませんようにと、ただ神様に祈り続けていた。
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トニーに身体を一方的に弄ばれ続けていた最中、混血の身体はいやらしいと罵られながら、舐め回すように見られ続けた。苛めるというよりも貪られて、アレンにどこを触られたのかと確かめるように、下半身まで触られた。
朝を迎えてようやく解放された時には、身体も心もボロボロで、何も考えられなくなっていた。神様に一番願ったことだけはどうにか叶えてもらえたが、次はどうなるか分からない。
何も纏わない身体に薄いシーツをかけられてボーッとするしかできない私に、トニーが話しかけてきた。
「……ミーシャ。このことを誰かに話したらお前の命はないと思え」
「ッ……………」
そんな風に脅されたところで、もう恐怖心は生まれない。いっそ、そのせいで死んでしまいたいくらいだ。
「……はは、大丈夫だ。お前が俺に従順に身体を差し出し続ければ何もしない。サラとグレイだけじゃなくて、グレイス家に置いて来た下僕共の平和な生活も保証する。分かったなら返事をしろ」
「ッ…………はい…」
バタンッ…
トニーが去って行っても、私は体を動かす力なんて残ってなかった。
その後サラが大急ぎで部屋に入り、泣きながら身体を拭いてくれたけど、心配しないでと言う気も起きなかった。
代わりにサラに言えたことは、ただ一つだけだった。
「…グレイや皆には絶対言わないで」
次回は宮廷サイドの話となります




