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記憶喪失の転生者  作者: 川咲鋏
第1章
17/33

未熟な果実

少しだけ性的な描写あり

宮廷でグランディエ様と話して以来、一ヶ月経った。

うだるような暑さが続く中、ある悩みが頭の中を支配しているせいで、憂鬱な気分は治まることはない。

アレンは、国王アレキサンドラかもしれない。そんな疑いを抱いたのは、前王の次男かつ王弟グランディエ様が、アレンのことを兄とでも言うような口ぶりをしていたからだ。


「……お嬢様、アレン様から何度も手紙が届いてるのに返事も出さないのは流石に無礼になりますよ」

サラが持ってきた手紙の数々は、全部アレンからだ。

しばらく会えなくてすまなかった、本当はもっと会いたいなどと、ご機嫌伺いのようなことが綴られている。しかし、一度疑いを持ってしまったせいで、アレンのことを完全に信用することができなくなっている。

その上、こういう手紙が毎日来始めたのは、私とグランディエ様が話した日の次の日だ。私に疑われていると察知して、こんなご機嫌伺いのようなことをしているのだろう。

今まで会えない日が続いていても、手紙の頻度は一ヶ月に数回ぐらいだったこともあり、自分の中でその可能性が否定できなくなっていた。

「……無礼になるのはそれぐらい気を遣わなきゃいけない相手だから?」

「そういうことではありません…最近お元気がないお嬢様のことを知って気にかけてくださってるんですよ。その気持ちにお応えしないのは…」

「じゃあなんで今までは数回ぐらいしか手紙出さなかったり、私のことを避けてたの?忙しかったのは分かるけど…それで突然何回も手紙出されたらもうご機嫌伺いか何か誤魔化してるようにしか思えない」

「ッ……!!それは…」

やっぱりサラもご機嫌伺いや誤魔化しの可能性を否定できず、言葉を続けられない様子だ。ますますアレンは、私に隠し事をしているんだと思えてくる。


(正直、機嫌伺いなら別に良い…本当に正体を隠して私に接していたのなら…)


もし、本当は国王アレキサンドラであることを隠していることを悟られないように誤魔化しながらご機嫌伺いをしているのなら、軽蔑するかもしれない。


『貴女は、自分が慕ってやまない人はこの腐った貴族社会にいるとは思えないような、裏表がなく美しいばかりだと夢想する哀れな少女に過ぎない。良い加減、その人のためにも夢を見続けるのはお止めなさい』


酷いとばかり思っていたドルーゼさんの言葉が、頭に浮かんで離れなくなる。今の自分にとっては、全てが的を得ているように思える。

アレンに対して、勝手に美しいばかりだと期待して夢を見ていたことを、もう否定できなくなっていた。



     ーーーーーーーーーー


「ミーシャはまだ引き篭もっているのか?」

「はい…完全ではありませんが、貴方の正体に勘付いている様子で…」

「しばらく会えない間にグランディエが余計なことを言ったと聞いているが…私が悪いとはいえ、それでここまで無視されるとは思わなかったな…サラ、弁解のためにあの娘に会わせてくれないか?」

「……旦那様が絶対に通すなと…」

「…………そうか。ならお前が目を離した隙に侵入されたということにしてくれ」

「そ、そんなこと言われましても…っ」


アレンが来ている。しかもわざわざ人気の少ない夜に。

サラを困らせないで欲しい。ただでさえ最近病気がちなお父様に心配かけたくないし、今は会いたくないから帰って欲しい。

上の階から覗いてるため、二人の様子が全部見える。これ以上ここにいたら、アレンに気づかれる。

足音を立てないように、部屋に戻ることにした。


(………こんなことになる前だったら、来てくれて嬉しいって思えたのに…)


出会ったばかりの頃とは違って、ただ遊んでくれるだけではなくなってしまったけど、一緒にいるだけで楽しかった。


(あの人が本当に普通の貴族の人だったら…前と同じように会ってくれたのかな…)


アレンが普通の貴族だったらと願うのは、国王アレキサンドラだと疑っているせいかもしれない。グランディエ様から話を聞いたとアレン自身が言っていたのを見ると、手紙が増えたのはやっぱり何か隠そうとしているのだと悟ってしまう。


せめてアレンが本当に国王アレキサンドラであったのなら、王妃リナリア様を放置して自由に過ごしてばかりでない人であって欲しい。

いくら疑いを持っていても、アレンのことを本気で嫌いになるなんてできない。だからこそ、隠し事を話されても軽蔑しないでいられるようにと、私はそんなことを願っていた。


「ミーシャ…」

「ッ……!?」


アレンがドア越しに話しかけてきた。サラに無理を言って通してもらったのだろうか。先程までは、アレンが来たら大声で叫んで誰かに助けてもらおうと思ってた。


けれど、少し余裕ができた今は、話だけでも聞こうとは思える。



ガチャッ…


「………アレン?」

「少し話をさせてもらえないか?」

「……分かった…私もアレンに聞きたいことあるから」

正体を疑っている今でも、前と同じように話してしまう。どうしても高貴な身分の人として話す気にはなれない。

「………グランディエ様が、貴方は兄だって言ってたのを聞いてからずっと疑ってたんだけど…アレンはやっぱりこの国の…?」


まず一番に聞きたかったことを尋ねると、アレンは静かに頷いた。


「………ああ。私はミーシャの思っている通り、この国の王だ」


その言葉と共に、アレンは黒髪に手を伸ばす。その髪が外れると、その下からは蒼銀色の髪が露わになった。

以前宮廷内の肖像画で見たことのあった前王アウィンと同じ特徴を持つ、現国王アレキサンドラ・サッピールスが、私の目の前にいた。

グランディエ様と話したことや、少し距離を置いた上でアレンと話したおかげか、重大な隠し事をされていたことへの怒りは湧かずに済んでいる。

今の私に取って重要なのは、なぜ正体を隠してきたのか。それと、本当にリナリア様を放置するような悪い人なのかの二つだ。


「本当の姿を明かさなかったのは悪いと思っていた。ただの貴族として接すれば、ミーシャがいまだに私を狙う他の女性達に僻まれずに済むと…」

「……いつ自分が国王だって言うつもりだったの…?」

「ミーシャが理解できる年頃になった暁には、と思っていた。だが…言おうと思った時にドルーゼとラルフの確執と、グランディエの婚約など、問題を対処しているうちにこうなってしまったんだ。本当に、黙っていてすまなかった…」

アレンは、本当に忙しくて言う暇がなかったようだ。しかし、私はそんなことを責めたいわけではない。

むしろ、宴の時から引っかかっている、リナリア様への態度のことだ。

「………そのことについては分かったよ。私が聞きたいのは、私に会っていた時もリナリア王妃のことを顧みなかったかについてなの」

「ミーシャ?何を言ってるんだ…?娘のフェリシア達がいるというのに放置などするわけがないだろう」

ちゃんとフェリシア王女や王子のことは愛していても、リナリア様自身を放置していたように見えた誤解は、まだ解けてない。

「……本当にリナリア王妃を愛しているの?まさか他に好きな人がいるから、その人に会うために最近は私まで避けてた…とかじゃないよね?」

せめて、リナリア様だけを愛しているのなら、宴の日に放置しているように見えていた原因は、アレンが変装してまで会っていた私にあると思えば良いだけのことだ。

それなら私は、アレンが国王であることを完全に受け入れることができる。

私と会わなくなった理由は、単に私を子供ではなく一人の淑女として扱うようになったからであって欲しい。そうであれば、兄のような存在にずっと甘えないようにという試練だと受け入れられるから。

私の質問攻めに対し、しばらく黙っていたアレンが、ゆっくりと口を開いた。



「リナリアのことは…契約結婚で結ばれた関係に過ぎない。それに…リナリアに出会う前から、一度だけ出会ったある少女のことを思って過ごしてきた。今は行方を知らないから諦めているが、ミーシャに会う時と同じように、自分の身分を隠してその子に会おうと思っていた」

「ッ…………」


目の前が真っ暗になり、言葉が出てこない。


アレンは契約結婚に過ぎないから、リナリア様を愛していなかった。

美しいばかりだと勝手に夢想していたアレンの実像には、冷たいものが存在してしまっていた。

それだけではない。リナリア様や私と会う前から、他に愛している人がいる。その人には私と同じように、身分まで隠して会っていた。


国王アレキサンドラの姿ではないただの"アレン"を、私だけが知っていると思っていたのに。


私の抱いていたアレンへの儚い希望や夢が、残酷に打ち砕かれいく音がする。


「……っ………どうして………?」

「…ミーシャ?」


リナリア様を愛していないことへの軽蔑を感じるよりも、アレンが私より前に他の女性を愛していたことに対してショックを受けてしまった。

それらの、特に後者の事実をアレンの口から聞かされた今、胸が締め付けられて苦しくなる。


「私は……ッ…自分だけが"アレン"のことを知ってると思ってたのにっ…!!」

泣くつもりなんてなかったのに、一粒の雫が目から溢れ始める。

本当は私よりも、忘れられないぐらい想いを寄せていた人に会いたかったのではないかと考えてしまい、次第に涙は止まらなくなった。

「ぐすっ…ぅ…ぅうっ…!ひぐっ…」


(自分だけが"アレン"を知ってるわけじゃなかっただけなのに…なんでこんなに苦しいの…?)



「っ………ミーシャ」

「んっ……!?」


泣き続けていると、覆っていた手を退けられ、突然唇を柔らかいもので塞がれた。

アレンの顔が、とても近く感じる。


(もしかして…私アレンと…!?怖いのに…逃げられない…っ…)


唇を離して欲しくて引き剥がそうとしても、抱きしめる力が強くて全然離れてくれない。

「んんッ…!?んぅ〜〜ッ!!!はぁッ…んっ…ッ〜〜〜〜!!」

怖くてたまらないのに、背中を撫でられているせいで、力が抜けてしまう。訳もわからないまま、身体の奥が切なく感じてくる。

「はぁッ…はぁ……げほっ…げほっ………ッ!?」

やっと口を離してもらえたと思ったら、アレンに身体を軽々と持ち上げられた。

そのままベッドまで運ばれると、私が起き上がれないように腕を押さえつけられる。

「やだっ…!離して…ッ…いやだ…っ…んぅうッ…!!」

嫌だ言っても、全然聞いてくれず、また唇を塞がれてしまう。

アレンは一体、私に何をしたいのだろう。

「はぁっ…はぁ……げほっ…」

今度は、すぐに唇を離してもらえた。

安心したのも束の間で、アレンは何故か上着を脱ぎ始める。

シャツの間から見えているのは、一度も見たことのなかった男の人の筋肉付いた身体。アレンの身体を見た私は、それを綺麗だと思うよりも不安や恐怖で目を逸らしたくなる。

「………なんでそんな格好してるの…?」

「ミーシャ…俺を受け入れてくれ」

そう言って、アレンは私の夜着を結んでいた紐を解きながら裾の中に手を入れ、素肌を撫でながら上に捲り上げる。

「やっ……ぁ…ッ〜〜…!!」

くすぐったくて、変な声が出てしまった。

だが、そんなことなど気にしていられない状況かもしれない。

使用人の女性達以外には誰にも見せたことのない身体が、アレンの前に晒されてしまっている。

「……綺麗だ。本当に何もかも無垢で愛らしいな」

「やめ…て……見ないで…っ…」

涙が止まらない。逃げたくても、身体が動かない。アレンはその大きい手で胸を軽く掴んだまま、首筋に唇を近づけようとした。


「ッ〜〜〜〜!!いやぁあッ…!!」

「ぅ…ッ…!!」


少量の血が飛び散った。


アレンの顔を、思わず引っ掻いてしまった。

首にアレンの唇が触れた瞬間に、溜まっていた恐怖が限界を超えていた。


「は……っ……はぁっ…」

「……ミーシャ、俺は…お前が16を迎えた頃からずっとこうしたい、一つになれたらと考えていた」

「ッ……!!」

アレンのその言葉を聞いた私は、気づいてしまった。アレンがここに来る頻度が一気に減ったのは、私が宮廷に初めて来た時からだった。

その頃にアレンと会えなかった理由は、単に本人が王として忙しかっただけではなかった。私にこんな恐ろしいことをしたいと考えていたからだなんて、信じられないという気持ちよりも、恐怖心がじわじわと湧いてくる。


優しくて朗らかな、兄のような人だと信じていたのに。


「ミーシャ、大丈夫か…?」

「やっ……!!」

涙を流して震え続ける私に、アレンは手を伸ばそうとした。

今の私にとっては、その手が恐ろしくてたまらない。

「怖い…っ…怖い…!!来ない…で…!」

アレンと目を合わせないよう、近づかないで欲しいという意思表示で顔を腕で隠す。そうしている間も、恐怖で冷や汗は止まらなかった。


「……………すまない。もう二度とこんなことはしないし、ここにも来ないから」


沈黙を破るようにそう言ったアレンは、とても悲しそうな顔だった。それを見て胸がズキっと痛む。だが、すぐにアレンにされたことへの恐怖で、胸の痛みなど容易く塗り潰されていく。



バタンッ…


服を着直したアレンが部屋から出ていくのを見届け、私は急いで布団に包まる。


「ッ………アレンは…私に…っ…そういうこと…する気で…!?」


さっきまでは何をしようとしていたかを、具体的には理解できなかった。だが、一人になって考えると、それが何のつもりだったかがすぐに分かってしまった。

まだ何度も遊びに来てくれていた頃のアレンが、お土産として持ってきた小説を見てきたせいで。


「……っ…あんな悲しそうな顔したって…私は騙されないから…っ…」


私は、一晩中泣き続けた。

アレンのことを二度と許せないという怒りと、自分のせいで全てが壊れてしまった悲しみは、夜が明けても消えることはなかった。


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