第8話 獣人族の若者
ボールド族を旅立ち数日が経ち、サチのおかげで想定よりも安全・快適に過ごしています。
道中では、火をおこしボールド族にいた時同様の料理をふるまい、襲ってくる野獣たちも、サチ自ら作戦通り木盾で受け石斧で容易く仕留めた。ちなみに俺はいまだに不器用だから噛ませてオオカミの牙の槍で突き刺す戦法しか使えない。いまや俺たちを襲ってくる野獣は減り、俺たちが狩る側になっていた。
そして確かに俺が(現代の知識から)草履は教えたが、サチはいつのまにか蔓を編み服を作り、俺は下半身に葉っぱのふんどしの猿人から、いきなり服を着た人類に格上げされていた。いまは捕れた野獣の皮を使い、皮の盾と皮の鎧、皮の帽子、皮の靴を作成中とのこと。
サチによって原始時代ファンタジーが、指輪物語、〇〇ゴンクエストの世界観に。サチがついてきてくれなかったらとっくに死んでいた。と本当に思う。そう、サチは1を知って10を知る。そんなスーパー嫁さんでした。サチは万能すぎるし、生活面でも戦闘面でも役割が大きい。そしていつもかわいい。そして何より夜は寒いけど、「寒い寒い」なんていいながら、なんとサチを後ろから抱きサチ枕として寝るという大きな楽しみも。俺は人生の絶頂期を迎えていた。
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巨人盾トンボ、青いオオカミの子供アオ、ボールド族の娘サチ御一行は、昼は長老ボスに教わった安全なルートでエルフの森を目指し、歩を進める、途中でキノコや野草、ときに狩りで得た獣肉を食べ、夜は焚火を維持し寝る、そんな生活が1か月ほど続いたころ、遠くに目指していた深い森を捕らえた。
そのときあの時の強者が現れた。
「やっと見つけたぞ。俺たちの草原に何用か?猿人か?」
あの野獣の群れに敗北したとき、あの恐ろしい声だった。ただ前回と異なり若き獣人族ライアンは肉食獣の恐ろしさを体現する姿を現しており、恐ろしさは声だけのときとは雲泥の差であった。
ライアンは、獣人らしく頭はひょう面だが、大きくかつ俊敏そうな体躯はヒト型で、皮の前掛けのような服をしていて、手には鋭く大きな爪が見えていた。
「俺たちはボールド族だ」
「ちっ、話せるのか。でもお前らまだ…」
(走って森に逃げ込むにもまだ距離がある)
「森に用があるんだ。通してほしい」
「草原は我らが神に与えられし領土、その一角に住まわせてやっているだけでありがたいことと思え。神に守られたレイクに帰れ」
「もとは同じ野獣同志。強い方がエサにありつけるのが道理で良いな?」
(全然話聞かないなこいつっ)
「いやいや戦わないという選択はないの」
「ない。おサルの獣人、うまそうだな」
(だめだ。完全にエサを見る目でみてくるっ…)
刹那アオがライアンの足にかみついた。
ガブッ小さなお口を最大限に開け噛みついた。
(かわいい健気愛おしすぎるっ)
ライアンはアオを掴み足から引きはがし無造作に投げる。
「同志よ。サルの味方をするのか?」
懸命なサチは素早くアオを拾い抱えさらに距離をとった。
「とりあえずお前が相手か?」
俺、巨人盾トンボは若き獣人族ライアンと向かい合った。
(やるしかない)
俺は、サチが作った皮の盾鎧兜を身に着け、青いオオカミの牙の槍を大仰に構えた。
「それは?誇り高き青い狼の牙…」ライアンが怒りに震える。
「え?」
「親を殺して子をその牙で手懐けたのか。御方はそれを許したのか?猿のやりそうなこと!」
言い訳をする時間はなくすぐに戦闘に入った。
動きが速い。足で追うのは無理そうだ。ライアンの動きは目で追うのがやっと。アウトボクシングのように近づいては離れを繰り返す、ただ近づいたときの爪の一撃は重く鋭い。すぐに皮の盾は失い、みるみる傷を負っていく。
ここはやはり唯一の戦術弱ったエサのふり作戦しかない。俺は体の近くで槍を構えその場に留まる、そして動き回る獣人に合わせ、落ち着いて常に正対する。
反応が鈍り弱ったエサと思ったのか凶暴な爪が工夫もなく単純に頭上から振り下ろされるすんでのところで、爪が両腕に触るもお構いなしに開いた虎口に槍を抱えて体当たりをかます。
(結局ボールド族伝統の狩りだな)
虎ののどに槍が触った。よし!槍を抱えた腕をかちあげ頭を串差しにする様に槍を通したはずも、一瞬で距離をとる獣人ライアン。きつくかみしめている口から流血。。
俺の方が被害は大きく、爪から頭をかばった俺の片腕は皮一枚でつながっているだけになっていた。
(打つ手なしか。いったーいっ)
「最後に問うてやろう。草原の王に何用だ?」
いつの間にか周囲は獣人族に囲まれていた。
「だから用はないよ。あの先の森に用がある。龍の麓についてエルフが何か知っているかのしれない」
「妙なことを言うな。レイクの寄生虫が」
「ボールド族の未来がかかっているんだ。頼むっ!」(もう泣き落とししかない。命乞い上等)
「…意図はわからぬがもう何百年も御方を見てはいない。はるか上空を通り過ぎていく様子を眺めたときが最後だ。まあアレとは関係はなさそうだな。御方のペット、エサになる覚悟はできたか?」
「食べられるのか?俺は」
説得失敗!かつ腕が死ぬほど痛いっ
この痛みから逃げられるなら瞬殺されてもいいかな、なんてくだらないこと考えてないでなんとかしないと。
ん、覚悟を決めたのに攻撃してこない。遠くでアオがぎゃんぎゃンないているのが走馬灯のように聞こえる。無謀な攻撃をしかけようとする子犬をサチが抱きかかえて止めてくれているのだろうか。
「…おれたちは、神の言葉をもつものは食べはしない。ただこいつらはまだだ。だからかるーく遊んだだけだろ」
ライアンは誰に話しているんだ?言い訳?俺と正対しているはずだが。
「ボールド族よ。それならエルフに頼んで、また樹上に戻るがいい。お前ら猿はエルフの森の樹上で生まれたのだから。なあ森の主」
ライアンの俺たちに向けられた声も、どこかのだれかに聞かせるためにあるようだった。
そしてエルフが現れた。いつのまにかそこにいたという表現が正しいか。耳が尖り金髪、透き通るような美しい肌、青い目。背には弓を抱えている。そう見間違うことない。エルフが現れた。
「獣人族の若者よ。獣王に伝えよ。こちらは引き受ける。まだ進化していないが彼らも選ばれし神の子。神の言葉を持つものを殺すのは神に反する。教えられているだろう」
「…わかった」
苦々しく応えたライアンは、アオに静かに向かい合った。
拳を握りしめ赤い血が滴った。ライアンが差し出した血濡れた手をアオは傷口を癒すようになめて血をふき取る。
「ではこいつらは俺が引き受けよう。逃げるなよ。草原の太陽の元、正々堂々蹴散らしてやろう」
「お願いします」エルフが言った。
「我が同胞よ。負けるな強くあれ」
アオにだけ言葉を残し、誇り高き獣人は何者かわからぬ不吉な影を追って去っていった。




