第5話 世界のおきてと凄惨な初陣
攻撃を受ける盾役の俺は長老の横につくことになった。護衛は俺だけのようだ。
狩りの時とは異なり、長老ボスが指揮をとるボールド族の男約100人ほどの軍であった。
あたまの中は、初めての失恋、初めての戦争、でぐちゃぐちゃだ。
あーサチのこと本気で好きだったんだなぁ俺はとことんキモいおじさんだなぁこのまま戦争行って死んだら悲しんでくれるかな。死ぬならせめて長老の盾になってかっこよく仁王立ちで死のうかなんてっ生きて帰れたら映画卒業花嫁奪ってみるかな、いやいやさっき振られたのに何考えているんだ俺はっ
そんなこんなで色々考えは巡るが、なりより今回の戦に出る前に部落に残る次の長老を決めてたの怖いんですけどっ
死ぬ気?そんなやばいの?
浮足立っている俺の横で静かに自分に言い聞かせるように長老は教えてくれた。
レイクの外では長寿で多くの知能を持った種族が生まれている。そして神話時代のその長寿種たちは、神の地レイクを畏怖し、それぞれ僻地で暮らしていたが、いまは少しずつ生息域を広げ、レイクに近づいてきているように感じる。
そのような危機感が、今回の知らせを聞いた際、悪い予感となってボスの警戒心を強めているようだ。
ボスは情報を求め、いまこの話の間にも情報は順次正確にもたらされていた。長老のそばにいるとそれがよくわかる。
『野獣の群れは、ボールドを避け、レイク方面に向かっている。その中に長寿種もいる可能性も』
ボールド族は各地に特性のある影を配置し、危険を察知していること。
意外とボールド族は組織立っている。原始時代じゃなかった?隠密?斥候?いわゆる原始時代より進んでいる文化はありそうだ。
「ついにきたか。ボールド族は初めて長寿種と相まみれるかもしれない」
「長寿種はレイクを恐れているんじゃないんですか?」
「それはわからない。ここ数年はレイク周辺に長寿種のいくつかの痕跡が見つかっている」
「長寿種って何者なんですか?」
「長く生き、種族ごとに強い能力を持つ、そして神の言葉を話す」
「知恵のある種族ってこと?」
おーファンタジー?ドラゴンとかエルフとか?とかとか?
「長くなる。そしてもうすぐ戦いが始まる。生きて帰っても死んで帰っても我らは一緒だ、知ってることは何でも教えてやる。いまはレイクのために身を捧げよ」
「え?はじまるの?心の準備がっレイクに捧げるって宗教?それより、なぜあんな理不尽な仕打ちをうけいれているのですか」
「ん?仕打ちというかトンボ。神様は絶対だ。そしてその神様の子レイクもまた。祈りを捧げる対象だよ」
「ボスはそれでいいのですか?」
「成果が出たら神のおかげ、失敗して死んだらボールドの失態。それが古からのおきて」
「さあ。はじまりそうじゃの」
いつの間にかボールド族は囲まれ、狩りの対象とされていた。
野獣が周りを囲む、ボールド族より数は少ないように見えるが、こわすぎる。ボールド族と大きさは同等くらいも凶暴な牙をむき出しなシュッとしたフォルムの大きな猫科。現代でいうとこのチーターっぽい。素早そう。木の棒を持った貧相な猿人には荷が重そうだ。
長老は一歩前に出て仲間を背に宣言する。
斜め後ろに張り付く巨体の盾。俺からするとちょっと大きめの猫を上からにらみを利かす。
「レイクはボールド族にとって庇護すべき神の子。何としてでも野獣どもにレイクの土地を踏ませてはいけない。1匹でも多く仕留めよ」「オウウウウウウ」覚悟を決めた仲間の響きが鳴った。
ふと【H・Gウェルズ タイムマシーン】の桃源郷を思い出す。富に酔い娯楽を愛し怠惰になっていく美しい貴族たち、対して前線に立ち続け上納するため力をつけ、知恵をつけていく醜い生産労働者、でもいつしか地位が逆転する。いまはその前時代か。
いつかボールド族がこの世界の主人公になる。見返りを求めず神の盾になる純粋で勇敢で禿山たちを見てそんな気がした。
ボールド族は3人1隊を作り攻守にわたり1人が突出しないように慎重に戦いを進めていき序盤の膠着状態をつくる。そして打開策をと思い俺の案で採用した石を投げつけるその名も『石投げ隊』に命じるも、投げる練習していないもんね…あっさり素早い野獣にかわされ不発。それでも心折れない心強い仲間たちは、突いては引き、鋭い爪や牙で攻撃されれば引き、それが突きが決まったり、爪が引っかかったり動きが止まった時は、巨漢トンボが青いオオカミの牙の槍で襲撃する。そして俺が出ていくとまとわりつく猫たちを必死で振り払う。こわいこわすぎる。
俺の攻撃も膠着状態を保つだけで脅威とはならず、お互い決定打がないところに、
「誇り高き獅子共敗北は許されない、生きたければ狩れ!」
突如どこからか咆哮が放たれた。
言葉?長寿種か?
一気に野獣の圧力が高まり、ボールド族は本能的に敵わない相手の叫びに怯え、簡単に膠着が破られた。各所で隊列を崩され、俺たちは背を預けて集まり円状に構えるしかなかった。俺も含め目の前の凶暴化した野獣に押し込められないようにするのが精いっぱいだった。
その中でボールド族は、1人2人と円から引きずりだされ、それに野獣が群がり食い殺されていった。
徐々に削られていくボールド族の円。
ここは耐えるしかない。
打開策は?槍投げる?躱されたら丸腰になるよ
だれか助けて?
いつ終わる…
誰も目の前の捕食者に必死だった。
いつしか野獣たちは多くのボールド族を喰い散らかし満足し、レイクに寄らずに引き上げていった。
半数以上を失う完全な敗北であった。1体の野獣の肉を得て50人ほどの仲間を失っていた。
いや目的であるレイクを守るという視点ではレイクに損害はなく、勝利であったのかもしれない。




