第4話 むっつりおじさんの恋
その夜、テントの床に藁を引いた寝床にあおむけになり見上げると、月明かりが漏れてプラネタリウムのようになっていた。きれいだなーと無理にでも思考を止めようとするも、また今日の目の当たりにした理不尽について憤ってしまう。
レイクから戻ってきたボーイに聞くと、太古の昔からホールド族は、レイクの外周、つまりは危険な陸地に上がり貴重な獣肉を狩ってくる役目を長らく担ってきた戦士なんだとか。聞こえはいいがホールド族の成果物の多くは、神の子レイクのものであり、献上しなければならない。またレイクを害するものが現れた時、敵の全てを排除するためボールド族が盾になり戦わなければならない。とも言っていた。
理不尽。生まれ落ちたころから決まったいた『主従』。優しくも勇敢なボールド族はどこに行くのだろうか。
拾ってきた青い子犬がガブガブと俺の腕を懸命に噛んでいる。
明日には俺の片腕くらいなくなってるだろうな。
「食べなきゃ食べられるってか?」
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そして隠し通せるはずもなく2日後の夜。
『アオ』と名付けた青いオオカミの子はすぐに懐いてくれた。俺が親の牙を木槍の先端に取り付け肌身離さずもっているからか、ただただ生存本能か。
「・・・トンボ誰と話してるの?」
そこには寝床を覗き見ているボールド族の少女サチの姿があった。
サチはボールド族族長家系で女性の中心的な存在。。いや何よりも華奢だが健康的な体型でえくぼの愛くるしいその容姿のため、俺に毎日目で付きまとわれている被害者。
俺と話したことは数回ほどで気の利いた言葉はおろか「こんにちわ」「はい」「いや」「はい」くらいしか話したことがないです。はい。
俺「・・・」口の中モゴモゴいうも無言。
小さいアオが振り向き、さちと向かい合う。
「青い毛玉?」
「ァウ!」元気に尻尾をふるアオ。
そして女の子の胸元に突進…ちくしょー犬かお前はっ
「モフモフでかわいい。お名前は?」
「アオ。いやこれは。。。」アオの代わりに俺が与えた名を答え、言い訳を考えていなかったことに反省しているとサチが会話をつないでくれた。
「美味しいホド芋あるからあげるね。トンボにもってきたんだけどアオの方が可愛いから」
そういえばさちは若いけど食事チームの長だ。夕飯の残りを体の大きな俺を心配して持ってきてきくれたんだろうか。やさいいかわいいいいにおいする好き。
「アオ、お前番犬にもならねえな」
「モグモグ」振り向きもしないアオ。
数日過ごしてわかってはいたが、アオは温厚で人懐っこい性格で食いしん坊だ。
「誰にも言うなよ。食べられちゃうからな」
「トンボと少しお話がしたくてきただけだよ。話したくても食事もってすぐに寝床に引きこもっちゃうから。一緒に食べてあげようかと思って。ニート?コミ障?」
原始時代設定なのにコミ障ってあるのっ
「ファンタジーかっ?」
「ファンタジー?」
「いやいやこっちの話。アオはこれから俺の仲間になるんだ。誰にも言うなよ」
「コミ障で友達出来ないから、野獣の子を拾ってきたの?そんなことしたら親が襲ってく、、、そっかこの前の青いオオカミ」
サチは人の言うことをきいていない。
「そう。だから誰にも言うなよ」
「何でよ。隠し事なんてボールド族にはありません」
「オオカミだぞ?」
「ぼっち仲間なんでしょ?」
「・・・」
「かわいいし。誰も取って食おうなんて思わないよ」
「レイクに見つかったら」
「取り上げられるでしょうね…」
結局俺とサチは、ボールド族はサチが説得すれば良いが、レイクにアオが見つかるのを恐れ、おしゃべりで誠実で正直者のボールド族には秘密にし、アオに首輪をつけてしばらく寝床から出ないようにしておいた。
温厚で利発なアオは無駄吠えはせず、サチのように突然入ってくるような無法者がいない限り秘密のままいられた。
ばれたら大変だしな。
その後サチは毎日俺の寝床に訪れ、アオの世話をしてくれた。
狩りの日は、サチはアオとお留守番をし、アオに狩りを教えるため一緒に山に入ったり、もはやデートではないのかっ、彼女ができたのか、同棲生活なのか、これはもはやつがいではないのかっと浮かれた日々が続いていた。
この日もアオの世話をサチにまかせ、俺は狩りに向かっていた。
この世界ではかなりの体躯の俺は、噛まれても大きいから耐久性もあり死にはしないようだった。ファンタジーの世界なのにすごく痛いけど、死にはしない。痛いけど。
また元気に襲ってくる相手は早くまだ捕らえることはできないが、鈍い俺に群がる敵の背をほかのボールド族が傷付けた後、2の矢、3の太刀は担えるようになってきた。そしてこの世界の野獣と比べても大きな俺の一太刀は重く、狩りの効率化向上と死亡率低下、これは俺が何度も噛みつかれても死なないから、につながっていた。
俺は人生で初めて役割を得てやりがいを感じているのかもしれない。
相変わらずレイク族への上納はあるもののホド芋と狩りが成功したときのホルモン鍋は絶品で、そしてそれらを調理し喜んでくれているサチを遠目でみるのもひそかな楽しみである。むっつりでごめんなさい。そんなむっつりを脱却すべく密かにプレゼントを用意している。カンガルーとダチョウを足して二で割ったような魔獣の皮で創ったネックレス、アオとお揃いといえばもらってくれるだろうか。
おじさんだから親のような気持ちでね。アオと一緒さ。
そう思いつつも人生をやり直し始めた俺の気持ちは確かに若返っている。現代では親と子以上の年の差も、年齢という概念が薄いこの原始時代が自然と想いを募らせた。
その夜会の最中、樹上のボールド族が、飢えたワニ型野獣の群れがレイクを目指しているとの情報をもたらした。飢えた魔獣の群れは、ボールド族の集落には興味がなく、直接レイクを目指しているようだ。それを防ぐためボールド族はレイクと盾となり街道をふさぐ。
ボールド族の中で事前に決められていたのか迅速に役割が決まっていく、俺は難しい動きはまだ任させられないのか一族の長老を守る盾としてボスから一時も離れずお守りする役割を担った。
長老を守る巨人盾トンボ…かっちょいい。そんなことを中二病患者がおもっているとき、ふいにサチに呼ばれた。
「ワタシ、レイクに嫁ぐの。嫁ぐって言っても妾の末席だけど」
「え。彼氏いたの?」
「彼氏って。ボールド族の若い女はみんな一度はレイクに奉公に行くの」
「行きたいの?」
「そういう決まりなの」
「…なんでいま?」
「トンボ、死ぬかもしれないから」小さく可憐な少女が真っすぐに俺を見ていた。
そう、いまから俺は戦争に行くんだ。




