心霊スポット巡り⑧
数日後――。
部屋で目を覚ました私はゆっくり体を起こすとぼんやりと時計を見つめる。
時計の針は既に十一時を回っており『少し寝すぎたかな』と考えながら横でまだ眠る透に視線を向けた。
まだ透は静かに寝息を立てており、私は透を起こさないようにゆっくりベッドから抜け出て、寝ぼけながら洗面所へと向かった。
洗顔しまだ定まらない思考を無理やり起こして鏡の前へと座る。
鏡にはノーメイクの地味な女が写っていた。
私は化粧ポーチを手に取ると素早く化粧を施していく。元々化粧は濃い方ではないが、それでも先程までとは違う、よそ行き様の私が仕上がっていった。
ある程度の支度を済ませベッドに目をやると、透がまだ愉快な寝相で寝息を立てていた。
「そろそろ起きたら?いよいよ今日は廃村に行く日でしょ」
少し笑みを浮かべながら明るく声を掛けると、透は目を擦りながらゆっくりと体を起こす。
まだ寝ぼけているのか、暫くぼーっと窓の外を見つめた後、一度大きなあくびをしてゆっくりと立ち上がった。
「おはよう」
簡単に挨拶を済ませると透はゆっくりと洗面所の方へと歩いて行った。
私は冷蔵庫を開け中の食材を見ながら朝食の献立を考える。
「ご飯と卵焼きとかでいいよね?」
「うん、ありがとう」
私が尋ねると洗面所から透の声が響いた。
別に私達は同棲している訳じゃない。だけど大学に行った後、互いのバイトがなければ一緒に過ごす時間も多かった。
洗面所から戻って来た透がテーブルの前に腰を下ろしテレビを点ける。
私は小さなキッチンに立ち、手早く朝食を作るとテーブルに運んだ。
「ああ、いつもありがとう」
はにかみながら礼を言う透に対して私も笑顔を返していた。平和で平凡な私達の日常だった。
遅い朝食なのか、早い昼食なのか定かではない簡単な食事を終えると私達は暫く思い思いの時間を互いに過ごす。
そうして時計の針が一時を過ぎた頃だった。
「そろそろ行くか……」
透が時計に目をやりながら呟き、私も笑顔で頷いた。
私達は支度を済ませ部屋を後にすると、車に乗り込み透の運転で祐司君の部屋を目指す。
街中を抜け十分ほど走って祐司君のアパートに到着すると、祐司君はちょうど駐車場で自分の車の片付けをしていた。
「おっ、ちょうど良かった。今片付け終わった所だったんだ。車入れ替えるか」
私達に気付いた祐司君が駆け寄り、楽しそうに話し掛けて来た。
いつもは透の車で心霊スポットに出掛けるのが定番だったが、今回は狭い山道を行かなければならない可能性が高い為、少し狭いが祐司君の四駆の軽自動車で行く事になっていた。
停めていた駐車スペースから祐司君が車を出すと、空いたスペースに透が車を停めた。
私達が車から降りると、祐司君はこちらを見つめながら自らの愛車に手を掛け、満面の笑みを浮かべていた。
「さぁ行こうぜ」
祐司君は愛車をぽんぽんと軽く叩くと運転席に乗り込んだ。私達も笑みを浮かべながら祐司君の愛車に乗り込む。
「出発」
祐司君の元気な声が響き、車は勢い良く走り出した。