心霊スポット巡り⑥
静まり返った山中に、軋むような不気味な金属音を響かせ揺れるゴンドラを私達が見つめて立ち止まっていた時だった。
「う、うわぁぁぁ、走れ!」
突然祐司君が叫び、踵を返すと走り出したのだ。
「え?ちょ、ちょっと……」
「おい、待てよ!」
私が戸惑い走り出すと、透もすぐに続いて走り出した。
私達は先を走る祐司君を見失わないように、必死に走りついて行く。
そうしてメリーゴーランドがあった場所まで戻って来るとようやく祐司君は足を止め、私達は再び三人で集まる。
「お前、いきなり走り出すなって!」
透が祐司君に対して詰め寄り語気を強めるが、祐司君は笑みを浮かべながら受け流していた。
「いや、悪い悪い。だけど風が吹いた訳でもないのにゴンドラが揺れてたんだぜ?しかもだ、他のゴンドラは揺れてないのにあのゴンドラだけが揺れてたんだ」
眉尻を下げて弁明する祐司君だったが、確かに祐司君の言う事はもっともだった。
あの時周りの草木なんかを見ても、突風はおろか風なんか全く吹いてなかった。
それにもし上空だけ風が吹いていたとしても、あのゴンドラだけが揺れるのは不自然だ。
「まぁそうだけど、それでもいきなり一人で走り出すなよ」
「はは、まぁそれは悪かったって。だけどよ……」
そう言って押し黙り、透と私を交互に見つめる祐司君は目が合うと含みのある笑みを浮かべた。
「だけど、なんだよ?」
しびれを切らした透が尋ねると、祐司君は一呼吸置き口角を上げてニヤリと笑う。
「あの揺れてたゴンドラの上にあったゴンドラの中を何か影みたいなのが横切ったような気がしたんだって」
「いや、そんな筈――」
「そう、そんな筈ないよな?だから俺の見間違いかもしれない。だけどあの時はびっくりして、訳がわからなくなって思わず走り出してしまったんだよ」
祐司君の話を聞き、私と透は言葉を失った。
しんと静まり返り、暗い山中で私達が立ち尽くしていると、一瞬生暖かい風が吹き抜けた。
暗闇と静寂の中、祐司君が静かに口を開く。
「そろそろ戻るか」
「……そうだな」
透が頷き、私も静かに頷く。
私達は無言のまま身を寄せあい暗い廃墟を歩いて行く。
やがて入口と思われる支柱を越え、鉄製のバリケードの所まで戻って来れた所で私はようやく安堵した。
「さぁ早く行こうぜ」
透が声を掛け、私達はバリケードの外に停めてあった車に乗り込んで行く。
透と祐司君の顔を見ても、二人も同じように安心したような柔らかい表情を浮かべていた。
こうして私達の初の遠征は無事終える事が出来た。
そしてこの遠征から二週間が経った頃、祐司君が再び遠征となる廃村の話を持ち掛けて来たのだ。