エピローグ 陸奥方志穂②
「さて、恐らくここが廃村と呼ばれる場所の入口だと思うのですが、少し霧が出てますね。はぐれないようについて来て下さいね」
笑顔を交えながら香月さんに注意を促すと、香月さんは真剣な表情のまま頷いていた。
私達はゆっくりと慎重に山中の奥へと歩んで行く。
「ではここが有名になったいわく付きの事故についても話しておきましょうか」
歩きながら振り返り話し掛けると、香月さんは静かに私を見つめていた。
「ここが廃村になった経緯は先程お話しましたが、何処かの誰かが『村人の男が発狂して村を全滅させたらしい』とか言って面白おかしく話を作り変えてしまいました。まぁ噂話なんていつも尾ひれが付く物なんですが、平成に入ってすぐ、そんな尾ひれが付いた話に踊らされた大学生がいたのです。
萩月真咲さん、篠崎透さん、義村祐司さん。この三人は普段から心霊スポットを巡る事を楽しんでいたようなんですが、この廃村には何故か二度訪れていたようなんです。そしてその二度目の帰り道、運転を誤り山中を車ごと転落してしまったそうです。
運転していたと思われる篠崎透さんは途中、車外に放り出されて頭を強く打ち死亡。萩月真咲さんは車内で全身を強く打ち死亡。義村祐司さんだけは助かったそうなんですが、訳が分からない事を言うだけで意思疎通が難しかった為、精神病棟に入院し、その後の足跡は辿れませんでした。
心霊スポットの帰り道に訪れた人が亡くなるという事があり、当時は少し話題になったそうなんですが、その頃からこの廃村には女性の霊が出るという噂が立ち始めたようなんです。
その女性の霊は後ろから近付き顔を覗き込んでは悲鳴を上げて去って行くそうなんですが、中には『透』と言う声を聞いた人もいるそうです。
ですので霊が出る可能性もあるから私からあまり離れたりしないで下さいね」
私がそう言って振り返り微笑み掛けると、香月さんは顔を強ばらせながら私に近付きそっと手を握ってきた。
少し怖がらせ過ぎたかな――?
そんな事を考えながら辺りを見渡すと、周りには半壊した家屋等が散見された。
廃村と呼ばれる場所に辿り着いたか――。
そう思った時だった。背後から近付く気配に気付いた。
私が気配を感じた方にゆっくり視線を向けると、そこには傷付き、やつれた表情の女性が立っていた。
一目見てそれがこの世の者でないと察知した私は思わず笑みを浮かべる。
「見ぃつけた」
私がそう言って笑うと、その女性の霊は振り返り一目散に走り出したので、私はすぐに呪符を取り出し女性の霊に向かって放り投げた。
呪符はすぐに効力を発揮し霊の動きを止めたのだが、自身の動きが封じられた事に気付いていない女性の霊は必死に走っているようだった。
「逃がさないよ」
そう言うと霊は再び振り返り走り出そうとした。
「逃がさないってば」
霊の前に回り込みそう告げると霊は激昂し叫んだ。
霊の感情に呼応するように突風が吹き荒れ、辺りも少し騒がしくなっていた。
「……ふふふ、そんなに怒らないでよ萩月真咲さん」
私は霊を落ちつかせるように名前を呼んで冷静に語り掛けると、霊は落ち着きこちらを見つめた。
貴女はとっくに死んでいるんだと伝えるが、霊は理解が出来ないといった感じで首を傾げていた。
私は仕方なくそのまま除霊に入ると彼女は静かに成仏して行った。
最後に彼女は穏やかな表情を浮かべていたのがせめてもの救いかもしれない。
その後、廃村内にある黒ずんだ小屋のような建物の前で倒れていた香月さんの友人を発見して今回の依頼は完了となった。
香月さんの友人は衰弱していたものの、命に別状はなく三日程の入院で済んだようだ。
退院後、私の元を訪れ、もう心霊スポットには行かないと言ってはいたが、反省している様子もなかったので恐らくまた行くだろう。
まぁ依頼は完了しているので関係ないんだけど……。
そんな事を考えながらパソコンで動画配信サイトを覗いてみると、心霊動画が溢れかえっているのでその中の一つを適当に選んで再生してみる。
「何が面白いのかな?こんな物」
そんな事を呟き動画を視聴していると、画面には祐司と名乗る中年男性が現れ、どうやら彼が心霊スポットを巡る動画のようだった。
「はい、では今日も心霊スポットを巡って行きます」
動画が始まるなりその祐司という男性が力なくそう言って夜の廃墟を歩き始める。
やる気がなさそうな動画のせいか、再生回数は酷いものだったが、見る人間が見ればその動画がいかに危険な物かがわかる。
その男性の傍らにはえんじ色の着物を着たおかっぱ頭の女の子と少し男前な大学生ぐらいの男性の霊が立っていたのだ。
女の子の霊はずっと無表情で見つめ、男性の霊はずっと恨めしそうに祐司という配信者を見つめていた。
この祐司という男性は取り憑かれているんだとすぐにわかった。
私は少し興味が湧き暫く動画を見てみる事にした。
「……はい、今日も三人で色んな所を見て行こうかな」
真っ白で生気のない顔をした祐司が、喋りながら一人で暗闇を歩いていた。
~そこは禁足地 完~
ここまで読んで頂いた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
この『そこは禁足地』ですが、短編で登場人物も少なかった為、一人称で描かせてもらいました。
描き方が合っているかは置いといて、一人称の方が描かき易いのは事実ですね。
本来はもう少しラストをすっきり終わらせる予定でしたが、上手く着地できずに少し重い仕上がりになってしまいました。
それでも『主人公が除霊される視点で描く』という当初の構想は達成出来たかとは思っています。
真咲が志穂から逃げ回り除霊されるシーンはもう少し詳しく描いてもよかったかなとは思いますし、自分の作品としては珍しくバッドエンド寄りのラストでしたが、現状の筆者の実力を考えれば仕上がりには満足しています。
因みに主人公が除霊されるには、除霊出来る霊能力者が必要になる為、自分の作品から志穂をゲスト出演させました。
余計なものを省き、怖さに全振りしてみたのですが、真咲の大学生活や廃村に行き着くまでのエピソード、様々な心霊現象をもう少し深く描いて中編ぐらいにしても面白かったかな?とは終わってから思いました。
次はどういった物を書くかまだ何も浮かんでませんが、また書き始めたらお気楽に読んで頂けると幸いです。
ではまたお会い出来る事を。
赤羽こうじでした。




