廃村④
どれ程走っただろうか?
必死で走り続けた私だったが、気が付けばまたあの廃屋の前へと戻って来ていた。
廃村からは出られない――。
祐司君の言っていた事が頭の中で何度も繰り返される。
私の心は絶望感で満たされそうだったが、それでも必死にもがき続ける。
諦める事なく廃村からの脱出を願いながら彷徨い続けた。
そんな中、知ってると思われる後ろ姿を何度か見つけては駆け寄り顔を覗き込んだ。
しかし顔を見ると毎回あの女の子であり、決まって目を見開き無表情のまま私を見つめて来るだけだった。
その度に私は悲鳴を上げ逃げ出し絶望の淵へと追いやられて行く。
そんな事を何度か繰り返し、私がどんどんと疲弊していく時だった。
見知らぬ後ろ姿の女性が目に入った。
私は悩みながらもその女性に静かに歩み寄って行く。
するとその女性も私に気付いたのか、突然振り返り私を見つめて来た。
「……見ぃつけた」
女性は目が合うとそう言って口角を釣り上げ不気味に笑う。その瞬間私の全身に悪寒が走り慌てて振り返ると全力で走り出した。
やばい。あれは危険な奴だ――。
明確な理由なんかなかったが、私は本能的にそう確信し必死で走った。
だが走り出した先にある木の陰からその女性は再び現れる。
「逃がさないよ」
まるで私の先回りをするかのように現れて女性はニヤリと笑っていた。
「い、嫌ぁぁぁぁ」
私は叫びを上げ、身を翻して再び走り出した。
「逃がさないって」
女性は走り出した私の前にすぐに現れ私の行く手を遮り、変わらず笑みを浮かべていた。
訳がわからなかった。
これまで幾度となく不可解な現象に見舞われていたが、その度に逃げる事は出来た。
そうして逃げる事で私は落ち着き、なんとか平静を保つ事が出来ていた。
だが今回は違った。すぐに私の行く手は遮られ、逃げ出す事さえ許されない。
「何なの!?訳がわからない!何がしたいのよ!私は帰りたいだけなのに!」
逃げ惑う事に疲れ、度重なる理不尽な現象に苛立ちも募り、私は思わず声を荒らげて叫んでしまった。
まるで私の怒りに呼応するように風が吹き荒んだ。
「……ふふふ、そんなに怒らないでよ萩月真咲さん」
私の名前を呼んだ――?
女性は吹き荒ぶ風に抗うように踏ん張りながら髪をかき上げ不敵な笑みを浮かべる。
「真咲さん、貴女帰りたいんでしょ?だけどね、もうこの世には貴女の帰る場所は無いの。貴女は数十年前にこの山で起こった車の事故で亡くなってるのよ。わかるかしら?貴女はねもう死んでるの。だから私が本来あるべき場所に貴女を帰してあげるわね」
女性はそう言うと何やらぶつぶつと唱え始めた。
私はこの女性が何を言っているのかわからなかった。だが女性が何かを唱え始めてすぐに私の身体は暖かくなり、そして意識が遠のいていくのはわかった。
これで解放されるのかもしれない――。
漠然とした妙な安心感に包まれ、私の意識はそこで途絶えた。




