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廃村③


 どれ程意識を失っていたのだろうか?

 全身が痛かったがなんとか身体を起こし周りを見渡した。辺りは真っ暗になっており、車内には透の姿も祐司君の姿もなかった。


 私は身体を引きずるようにしながら車の窓から車外に這い出る。


 二人共何処に行ったの――?


 私は痛む箇所を押さえながらその場にしゃがみこんだ。

 そうして暫く経ったが誰の気配も感じられず、私は自らを奮い立たせるように立ち上がった。


 暗闇と静寂に支配されたような世界で一人佇む。


 風に揺られた木々の葉が擦れるような音が微かに聞こえるだけで他は何も聞こえず、まるでこの世界に自分一人だけが取り残されたような気がした。


 私はいても立ってもいられず、ひとまず歩き出した。


 痛む足を引きずりながら急な斜面を登って行く。


 早く帰りたい。早く帰って透とのいつもの日常に戻りたい――。


 そんな一心でひたすら歩みを進めて行く。


 そうして暫く歩いて私の歩みは止まった。


 私の目の前にあの黒ずんだ廃屋が姿を現したのだ。


「な、なんで?」


 狼狽し思わず呟く。

 痛む身体を引きずって歩いて来た筈なのに、私はあの廃村に戻って来てしまったのだ。


 そ、そんな……駄目、早く行かなきゃ――。


 絶望しそうな中、私はもう一度心を奮い立たせる。


 立ち込める霧で視界が悪い中、暗い山中を私は必死に歩いて進んで行く。


 だが必死に進んだ筈なのに私は再びあの廃屋へと辿り着いてしまった。


 流石に私の心は折れそうだった。


 暗い山中で一人取り残され、心細くなりながらも痛む身体を引きずって歩き続けたのに廃村から出る事すら出来ない。祐司君があの時言っていた言葉が頭をよぎった。


 『あの時からずっとここから出られてねえって』


 俯き思わずその場にへたりこんでしまった。

 そんな時――。


 廃屋の方から何か気配を感じ思わず顔を上げた。


 そこにはあの女の子がこちらをじっと見つめ佇んでいたのだ。

 何も言わず無表情のまま、目を見開きただじっとこちらを見つめる女の子に恐怖した私は立ち上がると、力を振り絞り走り出した。


 全力で走りながら後ろを振り返ると、またも女の子は表情を変える事なく私の後を追って来ていた。


 助けて、お願い。誰か……助けて、透――。


 私は助けを求めて必死に走り続けた。

 そしてそんな私の視界の先に男性の後ろ姿が飛び込んで来たのだ。


 透――!


 その見覚えがある後ろ姿を見て、私は力を振り絞り全力で駆け寄り抱き着いた。


「透、良かった、お願い助けて」


 そうして抱き着き顔を覗き込んだ。

 するとその顔は透ではなく、あの女の子だった。


「助けてほしい?」


 女の子は目を見開いたまま私の眼前まで顔を近付け静かに問い掛けてきた。


「きゃあああ」


 私は思わず悲鳴を上げ再び必死に走り出した。

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