訪れる異変②
「ひっ……」
声を引き攣らせ私は一目散に逃げ出した。
私が振り返ると女の子は表情を変える事なく、無表情のまま私を追いかけて来ていた。
霧がかった薄暗い山中を私は必死に走り回る。
だがどれ程私が必死に走り回っても、女の子との距離はどんどんと縮まって来ていた。
恐怖心が高まり、私の心臓は早鐘を打つように鼓動が早まり、それでも私は目に涙を貯めながら必死に走っていた。
そうして走り回った私だったが、振り返ると女の子はもうすぐそこまで迫っていた。
そして必死に走る私のすぐ背後に気配が迫り、私は足を止めた。
私は恐る恐るゆっくりと振り返る。
するとそこには触れそうな程に女の子が迫っており、無表情のまま目を見開き私の眼前まで顔を近付けてきた。
「……逃がさない」
酷く落ち着いた口調でそう言われた私の恐怖心は頂点に達した。
「嫌ぁぁぁぁ!」
私は叫び声を上げ、抵抗しようと必死に手足をばたつかせる。
だがすぐに私は押さえつけられた。
「真咲!……真咲!」
名前を呼ばれてふと我に返る。
私はベッドの上で透に抱き締められるように押さえつけられており、透が必死に私の名前を呼んでいたのだ。
一瞬何がなんだかわからなかったが、透の声を聞き、自分がまた悪夢にうなされていたんだと気が付いた。
「……透、ごめん」
「大丈夫か?かなりうなされてたぞ」
申し訳なく思い謝る私を、透は心配そうに覗き込む。
時計に目をやると時計の針はまた午前四時を回った辺りだった。
呼吸は荒れ、全身汗でびっしょりになっていた。
「ごめん、少しシャワー浴びてくる」
少し落ち着いた私は呼吸を整えるとベッドから出て浴室へと歩いて行った。
シャワーを浴び、嫌な汗を洗い流して少しすっきりして戻ると透はベッドで横になっていた。
私はすぐにベッドに入り、布団の中で透の手を握りそっと寄り添う。
透は静かに寝息を立てており、私もそっと目を瞑る。
二日続けて同じ様な悪夢を見て気味が悪かったが、あえてあまり考えないようにした。
そうしなければ私はおかしくなりそうだったから。
私は横で眠る透に感謝しながら、彼の頬に軽くキスをする。透は少し笑みを浮かべて寝返りを打った。
私に背を向けて横を向いて眠る透を見つめていると、ある事に気付く。
透は両手を頭の下にして横を向いて眠っていたのだ。
なら私が今握っている手は誰の物なのか?
その事に気付くと恐怖が一気に押し寄せ、驚いた私が咄嗟に布団を捲る。すると布団の中にはあの女の子がおり、私は女の子の手を握っていた。
女の子は布団の中から這い出し目を見開いたまま私の眼前まで迫る。
「……捕まえた」
そう囁かれ、あまりの恐怖に私の意識はそこで遠のいて行った。




