プロローグ
嵯峨良探偵事務所に一人の若い女性が訪ねて来ていた。
女性が扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らすと身長の高い細身の女性が顔を出す。
「ようこそ、我が探偵事務所へ。私は助手を務めております陸奥方志穂と申します」
志穂が丁寧に頭を下げ若い女性を招き入れると、その女性は不安そうな表情を浮かべて尋ねる。
「あの……こちら心霊とかの相談も受けてくれるんですよね?」
嵯峨良探偵事務所。
この探偵事務所に持ち込まれる依頼の八割が心霊や怪奇現象にまつわる依頼だった。
「ええ、勿論ですよ」
やや上目遣いで不安気な表情で尋ねる女性に対して志穂はにこやかな笑みを浮かべて頷いた。
志穂は女性を応接室に通すと革張りのソファの前に案内する。
「さぁどうぞお座り下さい」
そう言って女性を促すと、自身もその対面に腰を下ろした。
「今はちょっと嵯峨良先生は用事で席を外しておりまして、ひとまず要件は私がお伺いさせて頂きます」
満面の笑みで志穂が言うと、女性はおどおどした様子で志穂を見つめてゆっくりと話し出す。
「あの、ある県境にある幻の廃村ってご存知ですか?」
「……廃村?詳しくは知らないけど噂レベルなら聞いた事ぐらいありますかね。確か昭和初期になくなった廃村でしたっけ?」
あえて少し崩した話し方で志穂が尋ねると、女性は急に身を乗り出した。
「そう、その廃村です。その廃村に友達が行って帰って来ないんです」
必死に訴える女性に少し面食らいながらも、女性を落ち着かせ志穂はゆっくりと口を開く。
「まぁまぁ、わかりました。ただその廃村は心霊スポットと呼ばれる場所ですよね?説教臭い事は言いたくないのですが、迂闊にそのような場所に踏み入ってほしくはないんですよ。ありもしない噂話に尾ひれが付いて広がって行ったっていう場所が殆どなんですけど……たまにあるんですよ当たりがね」
「わかってます!もう二度と迂闊に行かせたりしませんから。だからお願いします助けて下さい」
必死になり懇願する女性を見つめて、志穂は穏やかな笑みを浮かべた。
「わかりました、では話して下さい。貴女のご友人がどうなってしまったのかを」
志穂の問い掛けに女性は何故友人が廃村に行く事になったのかをゆっくりと話し出した。
話を聞いた志穂はまずはしっかりと廃村について調べて連絡するからと伝えてその日は女性を帰す事にした。
女性を帰した後、志穂はパソコンの前に座り廃村について調べて行く。
そうしてパソコンの前で半日程過ごした後、志穂は深くため息をついた。
「はぁ、何か私一人で仕事してるような気がする。あの嵯峨良は何してるんだろ?帰って来たらまた虐めてやるとして……廃村ね。もろ当たりじゃん。さてどうしたものか……萩月真咲さんか……大丈夫かしら」
軽い愚痴をこぼしながら志穂は憂鬱な表情で資料を見つめていた。