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8 夜鬼(Night-gaunts)

 紺音の視線の先を見てみる。

 空中に何か黒い鳥のような姿が見えた。ただシルエットが、どう見ても鳥とは違う。

 翼と二本の角、長い尾を持つ真っ黒な人間。そう、ステロタイプな姿の……


「あれって、悪魔?」


 どう見ても、西洋風の悪魔そのものという姿だ。

 しかし紺音は首を横に振る。


「Night-gaunts。夜鬼とも言う。悪魔のアーキタイプ」


 アーキ何とか?

 意味はわからないけれど、悪魔ではなくナイトゴーントという名前の化物らしい。


 その黒い化物は前方三十(メートル)、地上五(メートル)くらいの高さで一度降下を止めた。

 そして目も鼻も口もないのっぺらぼうな顔面をこちらに向ける。


 黒い翼は広げているだけで、羽ばたいている様子はない。

 なら物理学的に、空中に浮くはずはないだろう。

 魔法とか魔術といったモノで飛んでいるのだろうか。

 状況が異常すぎるせいか、そんな場違いな事を考えてしまう。


「大して強い種族ではない。捕まえて空中へ持ち上げるか、尻尾のトゲで攻撃する程度。それに彩香はNight-gaunts相手の攻撃データを持っている筈。身体が動くように戦えば問題はない」


 あんな化物に出会ったのは勿論初めてだ。

 でも紺音によると、私は攻撃データを持っている筈らしい。

 何故私自身が知らない事を、紺音が知っているのかはわからない。

 でも今は、それに賭けてみるしかなさそうだ。

 

 化物は、空中で私の方向へと向きを変え、一気にこちらに迫ってくる。

 私は本能的に地を蹴り、化物の正面へ向けて走り出した。

 一気に近づく化物との距離。

 身体部分は普通の人間より大きいな、なんて思考しつつ身体は私の意識より速く自動的に動く。


 軽く腰をかがめ、思い切り地を蹴り、空中へと跳躍。

 化物のすぐ横まで来た。

 奴がこちらへ向きを変えようとするけれど、私より遅い。

 私は一度身体を縮め、そして化物を横方向、海側に向けて蹴飛ばした。


 海側へ向けて落ちていく化物。そして反作用で、森側へと飛ばされる私。

 腕を振って空中で身体を一回転させると、目の前がちょうど樹木の幹。

 足で蹴って方向を変えて、私は元の道路上に着地成功。


 同時に上空を見て、化物を探す。

 奴の姿が見えない。消えたか、隠れたか……


「Night-gauntsは海を嫌う。海の上空に出た時点で、此処ではない場所へと逃走した」


 紺音の声。見ると先程と全く同じ、自転車を引っ張ったままの姿だ。


「ならもう襲撃してくる事はない?」


「多分。今ので向こうも、彩香の力を理解したと思う」


 紺音は自転車を引っ張りながら歩き始めた。

 本当にこれで終わりらしい。


 さて、今言った向こうとは、今の化物に私を襲わせた奴らだろう。

 その正体を聞いておこう。


「誰が今の化物を出したのか、わかる?」


「Night-gauntsを使役するのは、第二生徒会か第三生徒会関連。彩香が味方か、厳密には味方となる種別の力の持ち主なのか、確認したかったのだろうと思う」


「味方になる筈の存在を攻撃するって、逆効果じゃない?」


 私はそう思う。

 ここの常識では違うのだろうか。


「味方側の力の持ち主なら、何をしようと結果的には自分たちの側につく。そう盲信している者は多い」


 宗教とか民族とか国家とか、そういった強い帰属意識がある何かに属している、あるいは支配されているようなものなのか。

 今の私には、知識が足りな過ぎてわからない。


 生徒会が少なくとも第六まであることと、それらの下にサークルがある事は紺音との会話で何となく理解した。

 そのサークルが、少なくとも通常の学校での部活等とは全く違う内容だろうことも。


「後で部屋に帰ったら、生徒会とかサークルについて詳しく話を聞いていい?」


 歩きながら、紺音が一瞬難しいといった表情をしたように感じる。

 もちろん表情そのものはほとんど動いていない。

 何となくそう感じたというだけだけれど。


「私が教えるのは簡単。でもそれでは私視点の知識になる。だから概略を教えた後は、公的資料と今後の経験で自分の視点をつくって欲しい」


 難しい事を言ってきた。

 確かにそれが、考え方としては公正で正しい。

 そこまで考えなければならない生徒会とかサークルが存在するというのは、学校としてどうかとは思うけれど。

 

「さしあたっては第五生徒会『香妥州(かだす)学園新聞部』編纂の各生徒会・サークル一覧が学園内では比較的公平な資料。部屋にあるから、後で渡す。

 あとは学校が始まってから、各サークルや生徒会に誘われると思う。そこで見聞きして、自分の考えや立場を自分で決めるべき」


 また妙な生徒会が出てきた。


「第五生徒会って、新聞部なの?」


「新聞発行が活動のメイン。活動の自由を維持するため独立した生徒会組織にしている。その気になれば第二生徒会と対等以上に戦える強い組織。ただ基本的に中立で、敵に回る心配はない」


 この学校の生徒会は『戦って強い』ことが必要な模様。

 まあ決闘制度なんてのがあるし、戦績で降格なんてのもある模様。

 なら仕方ないのかもしれないけれど。

 

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