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5 そして同居へ

 受付は事務的に終わった。

 事務的すぎて、あの戦い以降の事が全て夢か気のせいだったと感じる位に。


 勿論戦闘の認定についてとか、ドローンの話もなかった。

 何と聞いていいかわからないし、聞き出すような間合いも無かったのだけれども。

 おかげで何もかもが夢のように感じる。


 建物も何処にでもある無個性なコンクリート製で、新しくて綺麗だけれど普通。

 その事が、私から失われかけていた現実感を引き戻す。

 十分程度で受付は終了。貰った案内を見ながら建物内と渡り廊下を歩いて女子寮へ。

 

「部屋は三〇二号室よ。郵便物はそこにある郵便受けに入れてあるから。連絡事項等もそこに入れる事があるから、朝と夕方には確認して。あとは生徒心得に書いてある通り」


 入口にある寮監室でいい加減な説明を受けた後、部屋へ。

 階段を二階分上って、手前から二つめの部屋の扉をカードキーで開ける。

 中は狭い玄関口と靴脱ぎ場、ベッドと作り付けのロッカーがある六畳位の部屋。 


 殺風景だし簡素だけれど、個室なのはありがたい。

 そう思いつつ中に入り、バッグを置いた後回れ右をして扉を閉めたところで。


 めまいがした気がした。

 今までそんな事、一度もは無かったのに。

 そう思った直後、声が聞こえた。


「ようこそ、これからはおかえりなさい」


 えっと思って振り向く。


 扉を閉める前と同じなのは、床に置かれたバッグだけ。

 目に入ったのはさっきよりずっと広い玄関と靴箱、明るい廊下。

 そして前にいたのは先程消えた筈の灰夜さん。

 ゴスロリ服は着替えたようで、今はダブダブの黒色長袖トレーナーとやはり黒色の短パン姿。


「ここって2人部屋だっけ?」


 わけがわからな過ぎて、そんな言葉しか出ない。


「此処は寮ではない空間。扉を閉めると繋がるように設定した。だから一緒に居ても問題ない」


 先程まで手元に戻っていた現実感が、また吹っ飛んでいった。

 空間を繋げるなんて話、出るのはSFかファンタジー位だ。


 ただ確かに先程見た部屋とは、全く異なっているのは確かだ。

 廊下に並んだドアの間隔からも、この部屋があの寮に収まっているとは考えにくい。

 あと一緒に居るとは、彼女もこの部屋に住むという事だろうか。


「寮も危険区域。だから大急ぎで用意した。入って」


 大急ぎで用意したって、何をどう用意したのだろう。

 部屋を借りたとかそういう常識的な答えではない気がする。

 いいかげん詳細な解説が欲しい。


 だからと言って何か出来る訳では無いので、とりあえず彼女に誘われるまま中へ。 

 そこそこ広い部屋にソファー、テーブル、そして対面式のキッチン。

 なかなか居心地が良さそうな部屋だとは思う。

 あと部屋の奥には広い窓があった。外は暗い森だ。


「此処は学園島のどの辺?」


 森の様相が、さっきまで歩いていた島とは違う気がした。

 だからそれとなく聞いてみる。


「島とは別の場所。ン・ガイの森」


「何県?」


「遠い場所」


 どうやら追及しない方が良さそうだ。


「此処なら安全で便利。必要な設備は全部そろえた。風呂や洗濯で共同のに行く必要はない」


 灰夜さんは説明を追加する。

 確かにそれは楽でいい。

 少ない洗濯機を上級生と取り合ってなんて事はしないで済みそうだし、お風呂が部屋にあるのもありがたい。

 

「此処はリビング。玄関側左扉の向こうが彩香の寝室で、寮の部屋に届いていた荷物を入れておいた。その向かいの扉が私の寝室。彩香の部屋の手前の扉がトイレ、更に手前が洗面所と風呂」


 寝室は一緒じゃない訳か。

 なら実質は個室みたいなものだ。

 寮も料理や風呂や選択場は共同の場所。

 ならこっちの方が、絶対的にいい。


「あと風呂も食事も準備済み。どっちにする?」


「ありがとう。それじゃ風呂に入ってくる」


 そこは『ご飯にする? お風呂にする? それとも私?』ではないだろうか。

 なんてのは小説で、なおかつ相手が男性の場合だよな。

 そんな下らないことを思いつつ、私は返答。

 

 埼玉から半日かけて着いたばかりだし、思わぬ運動もしてしまった。

 だから汗を流したいのは確かだし、部屋で気軽に風呂に入れるのはありがたい。

 バッグからタオルと着替えを取り出して、風呂へ。


 浴槽も洗い場もうちの実家より広い風呂で、さっと身体を洗い、浴槽へ。

 思い切り足を伸ばせるし、左右にも余裕がある。

 思わず鼻歌の一つでも出そうになった、その時だった。


 洗面所の扉が開いて、誰かが入ってきた。

 風呂の引き戸の型ガラス越しに服を脱いでいるのが見える。

 誰かなんて考えなくても、該当者はひとりしかいない。


「私、まだ入っているけれど」


「同じ時間に入った方がさめにくい。合理的」


 ガラス戸が開き、灰夜さんが入ってきた。見ては申し訳ないと思いつつ、上から下まで見てしまう。

 いや、別に同じ女子の裸を見る趣味は無い。

 見えてしまっただけだ。


 灰夜さんは私を気にするような様子はなく、普通に座って身体を洗い始めた。

 そして髪にタオルを巻いた後立ち上がって、私がいる浴槽へ。

 一応灰夜さんはこの部屋の持ち主だし、ここは私が遠慮しておこう。


「入るなら出ようか」


「問題ない」


 灰夜さんはそう言って、私が入っている浴槽に入ってきた。

 浴槽の反対側に、私と向かい合わせになるよう座る。

 のばした足が思い切り私の右側の、足と尻に振れた。


 この距離で同じ浴槽に入っていると、何か変な気がする。

 私は百合ではないし、灰夜さんも百合ではなさそうな感じだから、余計に変だ。


 ◇◇◇


 そうして状況は今に至る。

 未だに何がどうなっているのか、私には全く理解出来ない。


 それでも私は、この学校に入校手続きをしてしまった。

 住むのも此処で灰夜さんと一緒が確定した模様。

 

 何がどうなっていて、この先どうなるのだろう。

 何もわからないまま、私は浴槽でため息をついたのだった。

 

※ ン・ガイの森

  アメリカ合衆国ウィスコンシン州のリック湖の周辺にある森、らしい。クトゥルー神話によると、ある邪神の地球でのアジトとされている。

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