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3 戦闘結果

 中央にいた盾を持っている男子が、あの甲高い声で指示した。


「俺は奴を防ぐ、その間にハイヤを倒せ」


 ハイヤ、というのがあの地雷系女子の名前だろう。

 倒せというのは穏やかではない。ここで見過ごしたら間違いなく傷害事件になる。

 仕方ない。

 

 戦闘で邪魔になるバッグを岩の上に置いた後。

 私は軽く足を曲げ、そして地を蹴ってダッシュ。


 四歩目の左足で地を蹴り、右へと進路変更。

 盾を構えている奴のぎりぎり右側を走り抜け、盾を強く引っ張る。

 攻撃を防いで後ろに踏ん張る事が前提の体勢は、これで崩せた。

 

 六歩目で、女子生徒の方へ向かっていた二人の真後ろ。

 振り向こうとした二人の間に突入し、槍を持った左側を肘打ち。

 手の力が緩んだ瞬間に槍を取り上げ、崖下へ放り投げる。

 慌てて槍を取り戻そうと伸ばした腕を逆方向に捻り、関節を決めた状態で倒す。


 更に石を持った奴の足に私の右足を添える。

 これで手前側に服の袖を引っ張れば、奴は踏ん張れずに倒れるだけ。


 更に三歩進んだところで右足を思い切り前に出し、軸にして右ターン。

 左足を軽く後ろにつければ、ハイヤさんをガードしてコスプレ男子三人に向かう体勢が完成だ。


 こういう事をするから、スカートは無理なんだよな。

 結果制服は中一の五月からズボンだし、私服もパンツばかりになってしまった。

 体型も凹凸無いし、髪型以外は男子同然で悲しい。

 なんて関係ない事を思いつつ、男子三人の動きを観察。


 コスプレ男子三人が、のろのろと立ち上がってくる。

 こいつらが弱かったおかげで、骨折させずに無事終わった。

 私としては上出来かな。

 そう思いつつ、私は彼らに告げる。


「これで引き下がってくれない? 私としても、こんな危険な場所で最後まで安全に手加減出来る自信がないから」


 実際はこの程度の連中なら、余裕で手加減出来る。

 それでも場所は悪いから、ちょっと間違えると崖下へ落ちてしまう。

 そうなれば重傷か下手すれば死亡だ。


 なおこの場合のちょっと間違えるは、私ではなく彼らが主語。

 私は間違いなく、安全な場所に相手をたたきつける事が出来る。

 でも彼らがふらふら立ち上がって、そしてバランスを崩すなんてところまでは、私もコントロールできない。

 

 正直ため息をつきたい気分だ。

 結局此処でも、巻き込まれ体質が発動してしまった。

 これでいきなり停学になっては、環境一新の為にここに来た意味が無い。

 間違って退学にでもなったら、悲しみの高校浪人生活に突入だ。


 私に非がないことは録音で証明出来るだろう。

 ハイヤさんも証言してくれるかもしれない。


 しかし学校なんてのには事なかれ主義者が多いのだ。

 疑わしきは罰せよなんて方針で動かれたら、たまったものじゃない。

 だから今の言葉は、思い切り本音なのだけれど……


 コスプレ男子三人は立ち上がり、こっちを向きなおる。

 盾を構え、五芒星型の石を抱え直し、槍を失った奴はスタンディングスタートの姿勢をとった。

 やる気満々。仕方ないというか、面倒だというか……


 待ち受ける私に、三人が迫ってきた。

 ただし遅いし隙だらけ。

 脅威とは感じない。


 今度はすぐには立ち上がれない程度に叩きのめそう。

 今日は朝早く起きて、埼玉の自宅からここまで来たのだ。

 これ以上疲れることを増やしたくない。


 やり過ぎない事を意識しつつ身体を動かす。

 数秒で三人は倒れた。

 しかし念のため、ガシガシと何回か踏みつけ攻撃をしておく。

 これで十分くらいはこの場から動けないだろう。

 そう思った時だった。


 斜め上から電動髭剃りのような音が聞こえた。

 急速にこっちに近づいてくる。何だろう。


「執行監視ドローン。逃げると面倒」


 この言葉は位置的に、ハイヤさんだ。

 でも、その何とかというドローンは何なんなのだろう。

 立て続けに発生する不明な状況に、疑問ばかり生じてしまう。


 それでも私としては、これ以上の面倒は避けたい。

 だから私はハイヤさんの言うとおり、それ以上動かないで音が近づくのを待つ。


 近づいてきたドローンは大きかった。

 プロペラが四か所ついていて、横幅が二(メートル)以上ある本格的な奴だ。

 そのドローンから、中性的な声が流れる。


「こちらは学園総合指揮所。生徒五名と、戦闘を確認。

 該当者は、第六生徒会『グリュ=ヴォの戦士』会長佐藤黎久、副会長鈴木蹟樹、書記高梁男力の三名。および灰夜(はいや)紺音(かんな)、伊座薙彩香。

 結果は伊座薙彩香による『グリュ=ヴォの戦士』三名の制圧。

 戦績により『グリュ=ヴォの戦士』の第六生徒会の地位剥奪を決定。四月七日十七時迄に第六生徒会室の退去を要請する。

 繰り返す。戦績により……」


 やはりハイヤというのは名前の様だ。

 それにしてもまだ受付前なのに、私の名前まで把握している。

 ところで戦績での判定があるという事は、この戦いは学校公認という事だろうか。


 一体何がどうなっているのだろう。

 何もかも理解の範囲外だ。

 そう思ったところで、ドローンから再び私の名前が聞こえた。


「追加注意。伊座薙彩香は入校・入寮手続きが未了。本日中、出来るだけ早い時間に総合受付に出頭するよう要請。

 繰り返す。伊座薙彩香は入校・入寮手続きが未了。本日中、出来るだけ早い時間に総合受付に出頭するよう要請。

 以上学園総合指揮所」


 そこまで把握しているのか。そう思ったところで羽音が高まった。

 ドローンが上昇し、上空を左側へと飛び去る。

 残ったのは私とハイヤさんと、倒れている元第六生徒会の三人。


 男子三人は、まだ立ち上がれなそうだ。

 学校側が把握済みなら放置してもかまわないけれど、道に戻るには邪魔だ。

 通れないことはないが、歩行中に下から攻撃されないかと不安を感じる。


 もちろん私は問題ない。

 しかしハイヤさんが歩いているところで攻撃されて、バランスを崩したら……


 そう思ったところで、左後ろ側で何かが動いた物音がした。

 私から二(メートル)位離れた、人の気配はない場所だ。


 ハイヤさんの声が聞こえた。


「こっち。案内する」


 見るとハイヤさんの脇に、上れそうな段差があった。

 先程はそんなの無かったような気がしたが、見落としたのだろうか。


 それでも倒れた連中の横を通るのは避けたいし、便利だ。

 だから私はハイヤさんの方へ足を向ける。


 そしてハイヤさんの歩くとおり、段差を上ってその上へ。

 その先の岩をよいしょと乗り越えると、目の前が校庭だった。

 すぐ右に、先程戦闘前に置いたバッグが見える。


 バッグを取りに行って肩にかけたところで、ハイヤさんが横にやってきた。


「案内する」


 そのままハイヤさんは私の横を歩き出す。

 道はわかっているけれど、ここは礼を言っておこう。


「ありがとう」


 同年齢くらいの女子と会話するのは、ほぼ三年ぶり。

 だからこうやって一緒に歩いてくれるだけで、実は結構嬉しい。

 このありがとうは、そういう意味でのお礼。


 でもそんな楽しい時間もそう長くは続かない。

 ここから見えるうち手前側の建物が、学園総合受付がある建物だろう。

 ここからは道も平坦だしすぐ。


灰夜(ハイヤ)紺音(カンナ)。灰色の灰に、(よる)。紺色に音楽の音。高等部一年」


 灰夜(ハイヤ)さんは前置き無く、そんな言葉を口にした。

 言葉が色々足りないけれど、これはきっと自己紹介だろう。

 なら私も自己紹介しておこう。


「伊座薙彩香。高校一年に編入するため、埼玉から来てさっきついたところ」


「編入生?」 


「そう」


 私は頷く。

 会話経験が少なすぎて、簡単な返答しか出来ない。


「試験は特例?」


 試験? トクレイ? 何だろう。

 試験関係でトクレイと言って思いつく単語は、特例くらい。

 しかしそんな試験種別、募集要項には載っていなかったと思う。


「普通だと思う。特例がある事を知らなかったし」



※ グリュ=ヴォ(Glyu-Vho)

 『グリュ=ヴォ』とは、ベテルギウスの古名とされてる言葉。クトゥルー神話では善神とされる『旧神』が、オリオン座のリゲルやペテルギウスに住んでいる、となっている。


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外見 厨2病の群れ
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