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JK³~地雷系・邪神の化身・女子高生。あるいは女子高生×3。  作者: 於田縫紀
第8話 追跡

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38 追跡 ⑵

 どうしようか。

 この寮の何処かにある、紺音の部屋へ向かうべきだろうか。


 ただあのマンションの部屋は、寮にある部屋ではない。

 周南市にある賃貸マンションと言っていた。

 だから寮の紺音の部屋に入れたとしても、あの部屋に行けるとは限らない。


 なら船で渡って、向こうでそれらしいマンションを探すしかないだろうか。

 しかしやみくもに探しても、紺音の部屋を見つけるのは難しい。

 わかっているのは間取りだけで、外の風景すら知らない。

 窓の外は“なんとかの森”という、よくわからない場所に繋げていたし。


 それにもしマンションを突き止めても、そこから入れるとは限らない。

 玄関扉からあの部屋に繋がっているとは限らないから。


 なら諦めるしか……

 いや、この「諦める」という感情は、きっと私の本心ではない。

 そして『諦めさせよう』としてくる何かがいるということは、まだ方法が残っているはずだ。


 理屈としてはおかしいとわかっている。

 それでも今は、紺音に会うことだけを考えたい。


 さて、この部屋の玄関は、少なくとも今朝まではあの部屋に繋がっていた。

 それなら今でも私が行ける範囲の中では、一番あの部屋に近い場所なのかもしれない。


 では、ここからあの部屋に行くにはどうすればいい?

 これまでは紺音の力で移動していた。

 けれど今は紺音の力は使えない。


 なら、自分の力で移動することはできないだろうか。

 確か、自分の力の元となっている《グリューヴォ》の戦士は、飛行や星間移動ができると聞いた気がする。

 ただ、宇宙空間を飛んで移動するなら、光速でも隣の星系まで年単位の時間がかかるはずだ。


 しかし物語の描写では、呪文を唱えて割とすぐ到着していた。

 なら星間移動というのは、いわゆるワープのような移動なのではないか。

 ワープ的な移動ができるなら、この部屋から紺音の部屋へだって行けるはずだ。


 これまで私が能力を得た状況を思い出す。

 熱線を出せたのは、紺音との訓練で怪鳥二羽と戦い、間合いの長い武器か飛び道具の必要を感じた時だった。

 炎を出せたのは、その次の相手に腕を巻きつかれ、「炎を出せないか」と強く思った時。


 必要性を感じ、強く願えば──もし能力があるなら発現するのかもしれない。

 そして今必要なのは、この部屋から紺音の部屋まで移動する能力だ。


 何か手がかりはないか。能力が発現しないか。

 祈るような気持ちで願いながら、何かの兆しを見逃さないよう周囲を探る。


 玄関たたきに、うっすらと何かが見える気がした。

 薄ぼんやりとした痕跡のようなもの。


 けれど、それは力の残り香のように感じられる。

 紺音があの部屋と繋げていた魔法の痕跡──そんな気がした。


 今は消され、力を失って動かない。

 しかし、かつて存在していたために、痕跡として残っている。

 自分の中の“自分ではない何か”が、そう分析している気がする。


 なら、この痕跡に力を与えれば、元のように動き出すのではないか。

 理屈はわからないし、確証もない。

 けれど、できる気がする。

 それが正しい方法のように思えるし、どうすればいいかもなぜか理解できる。


 彩香は左手で玄関たたきに触れた。

 炎を出すときと同じように、指先──玄関たたきに触れている部分に意識を集中させる。


 ふっと周囲が揺らいで、そして次の瞬間。

 景色がぱっと明るく、そして広くなった。

 見覚えがある、いやよく知っている場所だ。


 この部屋にいたのは丸3日間もなかったのに、どうしてこんなにほっとするのだろう。

 理由はわかっている。

 でも、あえてそれ以上は思考でも言葉にせず、私は靴を脱いで中へ入る。


 ただ一歩踏み込んだところで、足が止まった。

 精神攻撃とか、そういうものではない。

 どう話を切り出せばいいのかわからないのだ。

 今の自分を客観的に見ると、『他人の部屋に、本人の許可なく勝手に上がり込んだ』状態だから。


 さらに言えば、音がまったく聞こえない。

 廊下の先、リビング側がなぜかぼやけていてよく見えない。

 どう考えても不自然で、様子がつかめない。


 それでも、この先のリビングに紺音がいることは、なぜか確信できた。

 そして私は、紺音と会って話をしなければならない。

 なら……


 右側の壁を3回ノックし、声をかける。


「紺音、私、彩香よ。話をしたいんだけど、大丈夫?」


「問題ないのですよ」


 紺音ではないけれど、よく知っている声。

 そして不自然なまでに静まり返っていた空間に、音が戻ってきた。


 今の無音状態は何だったのか。

 何があって、なぜカドちゃんがいるのか。

 わからないけれど、紺音だけよりはむしろ助かったという気がした。

 だから私は、そのままリビングへと足を進める。


 ソファーに体育座りでうずくまっている紺音と、テーブルの椅子に普通に座っているカドちゃん。

 紺音の服装は別れた時と同じ、黒いブラウスと黒白チェックのスカート。

 膝と腕に顔を隠していて、表情は見えない。


「心配はいらないのですよ」


 カドちゃんは、いつもと変わらない様子で口を開いた。


「この部屋は、紺音ちゃんが意図しない者は入れないのです。まだ彩香氏が入れるということは、紺音ちゃんが言葉でどう言おうと、実際には彩香氏を拒絶していないという証なのです。そして彩香氏の部屋からの空間リンクを消去したにもかかわらず、彩香氏はここにたどり着けた。つまり形だけの拒絶なら、彩香氏自身で何とかできることも証明されたのです。

 ついでに言うと、音が聞こえなかったのは、紺音ちゃんが彩香氏に見つかりたくなくて必死に自分の存在を隠していたからなのです。でも彩香氏の声を聞いて、それすらできなくなったのです」

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