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35 案内と買い出し

 徳山港に到着。

 自転車を押して、船尾のランプから陸地へと上陸する。


 柵を出たところに紺音がいた。

 黒いブラウスに黒白のチェック柄スカート。

 部屋で見たときと同じ服装だ。

 いつものスピードが出そうな折りたたみ自転車にまたがり、片足を縁石にかけて待っている。


「ごめん、待たせちゃった?」


 船は予定通りに着いたのだから、本当はこの言葉はおかしいのかもしれない。

 でも、他に適当なセリフが思いつかなくて、定番の一言で声をかけてみる。


「予定通り。それでは、よく行く場所を案内する。具体的には、安めのスーパー、図書館、駅前の業務用スーパーと本屋兼図書館を予定。あと行きたい場所があれば」


 つまり、休日のお買い物と図書館めぐりのコースということか。

 これからあの島に3年間住むのだから、確かに参考になるだろう。


 それと、カドちゃんにお土産を頼まれていた。

 話して予定に入れておこう。


「どこかで甘いものをお土産に買えない? カドちゃんに頼まれてて。服とアドバイスのお礼に美味しいスイーツをって」


「わかった。カドちゃんの好みなら、図書館の近くにある地元の洋菓子屋のレーズンサンド。1個180円するけど」


 結構なお値段だけど、洋菓子屋のスイーツならそんなもの。

 だから私はうなずいた。


「ありがとう」


「それじゃ、まずは安いスーパーから。広くはないけど、品揃えがよくて平均的に安いお店」


 紺音が縁石から足を下ろし、自転車をこぎ出した。

 私もそのあとをついていく。


◇◇◇


 スーパーを見て回り、図書館でカードを作って、少し本を眺めていたら、もうお昼近く。

 自転車置き場で自転車を出しながら、なるべく自然を装って紺音に聞いてみた。


「お昼、どうする? けっこうお世話になったから、今日くらいは私がごちそうするよ?」


 新生活用にもらったお金が、まだ少し残っている。

 高いお店じゃなければ、二人分の昼食くらいなんとかなるはず。

 お土産は、3個くらいにしてもらおう。


 紺音はちょっと考えているようだった。いや、少し困っているような……


「ごめん。実は、あまり外食したことがない」


 あ、そうか。私は自分の失敗に気づいた。

 ついこの前まで中学生だったのだから、外食の機会なんてそう多くないはず。

 マックくらいなら、中学生でも入れるだろうけれど、この町ではまだ見かけていない。


「わかった。それじゃ、先に買い物を済ませようか。お土産と、駅前のスーパーと、あと本屋兼図書館も」


「それでいい?」


「十分。ちょっと遅くなっても、島に戻ってから食べればいいし」


 そこまで言って、思い出す。


「そういえば、今日の夜、カドちゃんがごはん食べに来るとか言ってた。帰りに、こっちか中央購買のスーパーに寄って、夕飯の買い物して帰ろうか」


「了解」


 紺音は自転車を引っ張り出してまたがる。

 ちらりと私の方を見て、自転車の準備ができているのを確認してから、走り出した。

 さっきは少し空回りしちゃったな……と思いながら、私は紺音のあとを追う。


◇◇◇


 洋菓子店に寄って、紺音おすすめの「カドちゃん用レーズンサンド」を6個購入。

 うち2個は私と紺音用で、別の袋に入れておく。

 並木道に広い歩道が続く通りを抜け、線路を越えた先。

 駅の反対側、港のある方の駐輪場に自転車を停めた。


「帰りを考えると、こっちに停めた方が楽」


 そう教えてくれた紺音と一緒に駅に入る。

 切符売り場やお土産屋の並ぶ通路を通って、駅直結の図書館兼本屋へ。


 床と天井は木目調、棚も落ち着いた色合いで、駅前広場が見渡せる広い窓。

 建物全体がとてもおしゃれで、いわゆる意識高い系って感じだ。

 喫茶店、本屋、図書館がひとつになっていて、本を読みながらコーヒーも楽しめる。

 でも、私はあまりこういった雰囲気は……


「私は、さっきの図書館の方が好き。ここはちょっと落ち着かない」


 紺音の言葉に、私はうんうんと頷いて同意する。


「わかる。きれいだけど落ち着けないよね。本屋としては近くて便利だけど」


 なのでさっさと出て、駅直結のデッキと階段を通ってスーパーへ移動。

 品物を見ると……


「冷凍食品とか独自商品は安いけど、全体の品揃えや生鮮は、最初のスーパーの方がいいかな」


「同意。ただ、ジャムとか輸入菓子はここが安くて美味しい。あと、この大きな食パンも安くて悪くない。冷凍食品は島まで持って帰る自信ないから、基本的には買わないかな。あとここは弁当と惣菜が安い。今日はここでお昼を買って行く。天気もいいし、部屋じゃなくて、島のお気に入りの場所で食べるつもり。ただ今日は、買うのはお昼だけ。夕飯は中央購買で買うつもり。あっちの方が、特に魚は新鮮」


 魚って、あの宗教団体の魚屋さんのことだろう。

 本当に大丈夫なのか、微妙に疑問に感じるけれど、本当に大丈夫なのだろうか。

 まあ、それはさておき、紺音の言う通り、ここは本当に惣菜が安かった。


 お弁当は税込みで408円くらい。種類も豊富。

 あじフライ、メンチカツ、エビフライなどの揚げ物も、1個70円しない。


 私が選んだのはボリュームカツ丼で、紺音はチキン南蛮弁当。

 それぞれペットボトルのお茶も1本ずつ買った。


「これで学食のAランチより80円安いって、ありがたいよね」


「ご飯の量だけは、学食の方がちょっと多い」


 つまりそれ以外は、全てにおいてこっちが上ということか。

 そんなことを思いつつ購入。


 お弁当は横にすると水分がこぼれるから紺音が持ってきたエコバッグに入れて、自転車のカゴで運ぶことにした。

 お茶は私のディパックへ。


「あと20分で、小さい方の船が出る。ここからだとちょうどいい時間」


 そう言う紺音と並んで歩きながら、私は少しだけ不安になる。

 駅構内を通って、自転車置き場に出て、それから港へ。

 間に合うかな……

 そう思いながら、私は歩き出した。

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