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33 船上にて ⑵

「彩香氏の答えは、正しいのですよ」


 カドちゃんはそう言ってから、続けた。


「ただ念のため、一通りの追加説明をしておこうと思うのです。神には、化身を多数持つタイプと、一体だけのタイプがあるのです。彩香氏の場合は、Glyu-Vhoの戦士のうちの一柱の化身なのです。そして、同じGlyu-Vhoの戦士の化身は他に存在しないのです。またGlyu-Vhoの戦士は、自ら戦う必要があると感じたとき、あるいは上位存在であるOrryxが要請した場合を除いて、特に干渉はしてこないのです。

 なので彩香氏も基本的には、操られたり精神操作を受けたりすることなく、自由な状態にあるのです。例外として、Orryxが“お節介”をしてくることがありますが、それも理由を理解すれば納得できる範囲のものなのです」


 なるほど。

 でも、ちょっと気になることがあったので、私はカドちゃんに尋ねた。


「この世界に来る前、やたらと誰かが被害に遭っている現場に遭遇して巻き込まれてたのって、今言った、そのOrryxのお節介ってやつ?」


「Orryxというより、Glyu-Vhoの戦士の種族特性なのです。自分の価値観で納得できないことがあり、しかも自分が介入すれば被害が広がらずに済む、あるいは解決に向かうという状況になると……つい行動してしまうのです。“正義の味方”という名前の病気だと思ってほしいのです」


 種族特性で、正義の味方って名前の病気、ね。


「だから中学時代は危険視されて、ぼっちだったんだけど」


「種族特性なので、諦めるしかないのです。それに、そうやって介入したひとつひとつの出来事について、彩香氏は後悔していないはずなのです。結果的に解決に至らなかったこともなかったはずなのです。だから難儀ですが仕方ない。そう諦めてほしいのです」


 うーん……確かにそうかもしれないけれど、割り切れないものがある。


「……諦めるしか、ないのかな」


「世の中、そんなものなのです」


 なんだかなあ……。


「それでは、次は紺音ちゃんの話なのです。紺音ちゃんの神は、化身を多数持つタイプの神なのです。宇宙的な規模で、万や億ではきかないほどの化身が存在しているのです。地球上だけでも、千人を超える化身がいるのです。

 そしてそれぞれの化身は、同じ神の化身でありながら、少しずつ考え方が違うのです。神としての役割や目的は共通ですが、それをどう解釈し、どう実現するかは、個々の化身によって微妙に異なるのです」


 化身ごとに違う……ってことは。


「それって同一性はどうなってるの? 同じ神でも、同じことに対して違う考え方をして、違う行動をとるってことだよね? それって、事実上は別の存在なんじゃないの?」


「そのあたりは、神と呼ばれる存在と地球人との在り方の違いなのです。神なんて、そういうものなのです。人間だって、何かを考えるとき、自分の中でいくつかの案を出したりすることがありますよね? 神にとっては、自分の思考の中も、私たちが“現実”として捉えている世界も、ほとんど同じようなものなのです」


 ……なるほど。


「なんとなくだけど、わかった気がする」


「では次に進むのです。紺音ちゃんの神は、地球では|Nyarlathotepナイアルラトホテップという名称で呼ばれているのです。各化身や顕現が多すぎて、行動の一貫性が分かりにくい神なので、まずは基本的な情報から説明するのです。

 まずAzathoth(アザトース)という神が存在するのです。この神は、私たちがいるこの多元宇宙を創造した存在なのです。ただしAzathothは、その本質においてこの多元宇宙を理解できない、あるいは直接関与できないようなのです。

 そこでAzathothは、自分の“代行者”としてNyarlathotepという神を作り出したのです。この宇宙のあらゆる場所に赴き、Azathothの意思を具現化すべく動く存在――それが、紺音ちゃんを分身のひとりとしているNyarlathotepという神なのです」


 説明が回りくどいので、簡単に整理して聞いてみる。


「つまり、紺音を分身としている神っていうのは、この宇宙の創造主の使いみたいな存在。そういうことでいい?」


 カドちゃんはこくりと頷いた。


「簡単にまとめれば、そうなのです。そこまでは、イス人をはじめ、宇宙種族の大多数が事実として認めているところなのです。ただし、Azathothの意思とは何か、そしてNyarlathotepがそれをどう実現しようとしているのかについては、よく分かっていないのです。イス人の間でも、定説というものがないのです」


 定説がないのか……

 でも、あのとき確信してたやつがいたなと思い出した。

 私の考えとは全く違うけれど、あえて聞いてみる。


「『邪悪であるから邪神だ。宇宙的にそう決まっている』。高梁は、そう言ってたよね」


 私は、高梁のその言葉を信じていない。

 だからこそ、この機会にカドちゃんに確かめたかった。

 あの言葉が、誤りだと――。


「あれは高梁というより、高梁が狂信している|N'tse-Kaambl《ヌツェ=カアンブル》の考えなのです。実際にはN'tse-Kaamblが自分の領域を拡大しようとする過程で、旧来から活動しているNyarlathotepなどが邪魔なだけなのです。

 私が見る限り、高梁は間違いなくN'tse-Kaamblによって“汚染”されていたのですよ。力を求めて神器を手に入れた結果、神器を媒介として神の思想に侵されてしまったのです。神器、つまり強大な力を持つアイテムと長時間接触していると、往々にしてそういうことが起こるのです。

 だいたいAzathothの意思なんてものが、“邪悪”なんて人間的な観点で理解できるとは思えないのです。あれは、そんなに甘い存在ではないのです。もしそうした分かりやすい知性を持っているのなら、私たちイス人がとっくに分析しているはずなのです」


 ……なるほど。

 私は、ほんの少しだけ、ほっとした。

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