31 決闘が終わって
これはシミュレーターで見た動きだ。
なら槍の先から爆発的な衝撃波が来る。
シミュレーターで戦った時は、爆発をかいくぐって倒した。
でも現実の相手は、あの時よりずっと強い。
あの衝撃波の威力も効果範囲も、シミュレーター訓練の時と同じとは限らない。
あの時みたいに至近距離で避けられるとは思わないほうがいい。
それに、訓練が終わった後に思いついた攻撃方法がある。
だから私は一瞬、接近するように見せかけて、次の瞬間、逆に離れる方向へと跳んだ。
相手が盾をずらし、槍を前に出してくる。
槍の向きからして、エネルギー弾ではない。
シミュレーターのときの衝撃波の効果範囲は、槍の先端から二米程度だった。
だから今の衝撃波が多少強くても耐えられるはず。
そう信じて、私は正面から全力の熱線を放った。
衝撃波が来る。
思ったよりも強い。
けれど、耐えられないほどじゃない。目は開けられないけど……
それでも私は、熱線を放ち続ける。
衝撃波の第二弾は来ない。
私はゆっくりと目を開ける。
高梁がいた場所には、火柱と、持ち主を失った盾と槍、そして以前にも見た五芒星形の石だけが残っていた。
敵の位置情報も動きも、すべて消えている。
どうやら高梁を倒せたみたいだ。
倒したというより、高熱で蒸発させてしまったような気もするけど。
でも、カドちゃんの話どおりなら、復活できるはず。
だからきっと、問題はない。
復活した存在が“本人”かどうか、という哲学的な疑問は、カドちゃんの忠告どおり無視しておこう。
ドローンが下降してきた。
前にも聞いた、中性的な声が流れはじめる。
「こちらは学園総合指揮所。審判たる決闘の結果を確認。
審判の第一当事者は、第二生徒会『旧神連合』会長日布野進、第一副会長吉森莉澄、および元『グリュ=ヴォの戦士』書記、高梁男力の三名。第二当事者は伊座薙彩香、灰夜紺音、勝門緋摩の三名。
結果は第一当事者の敗北および消滅。なお復活処理は実施済み。ただし審判結果により、第一当事者は能力を剥奪され、生徒会業務から追放処分とする。
繰り返す。戦績により……」
「終わりなのですよ」
カドちゃんと紺音が、こちらへ歩いてくる。
「ということで、ヒーローインタビューなのです。高等部転入三日目にして、第二生徒会会長と副会長をそれぞれ一対一で倒した……」
「インタビュー、受ける気ある?」
カドちゃんの言葉も聞こえてはいたけれど、それより紺音の声の方が、はっきり耳に入る。
もちろん私はこう返答。
「ない」
「わかった。移動する」
紺音が銀色の鍵を取り出したと同時に、風景が揺れる。
「あっ、インタビューがまだなので……」
カドちゃんの声とグラウンドの景色が消え、部屋の入口の風景へと切り替わった。
「着替えて出かけようと思う。この部屋にも、たぶん取材が来るから」
逃げるのが正解ってことか。
「どこへ行くの?」
「徳山。島から出れば問題ない」
なるほど。
「わかった。着替える」
「急いで。ここまでカドちゃんが来るまで、二分くらい」
それって、かなり急がないといけないってこと!?
私はダッシュで自分の部屋へ入り、ささっと着替える。
ポケットに学生証入りの財布を入れて、自転車用のヘルメットと空のディパックを持ってリビングへ。
紺音はすでに着替え終わっていた。
黒い大きなリボンがついたブラウスに、黒白チェックの膝上くらいのスカート風ショートパンツ。
さっきまでの黒ゴスロリとは少し違うけど同じ系統。
黒マスクをしていないせいか、雰囲気がずいぶん変わる。
「靴を履いたら自転車置き場に飛ばす。着いたら、自転車で全速力で中央購買側下の港に向かって。フェリーに乗って。私は後から追いつく」
「わかった」
玄関でささっと、足だけで靴を履く。
「今出ればフェリーに間に合う。学生証があれば、自転車ごと乗っても料金はかからない。私は確実に追いつくから、もし乗っていなくても心配しなくていい」
「うん、わかった」
なにせ紺音は、ミャンマーの奥地からだって移動できるのだ。
私が心配する必要はない。
「では、送る」
ふっと視界がまたたき、足元の感覚が消える。
もう何度も経験して慣れたものだ。
次の瞬間、私は女子寮の自転車置き場にいた。
まぶしさを感じたのは、屋外と室内の明るさの差だろう。
周囲には他の生徒の姿はない。
さっと鍵を外して自転車を引っ張り出し、ヘルメットをかぶって走り出す。
この自転車、中学時代に実家で乗っていたものと比べて、かなり速い。
最初の漕ぎ出しはそんなに変わらないけど、速度が出しやすいし、そのまま維持しやすい。
中央購買まではそこそこ距離があるから、この自転車を買って正解。
通り抜ける風が気持ちいい。
中央購買下の港に行くのは、それが一番早い出発便だから。
私が来るときに乗っていた小型船は、
中央購買→中高等部下→徳山港→中高等部下→中央購買→大学部下→中央購買→中高等部下→徳山港
という、全港をまわる各駅便。
一方、フェリーは
徳山港→中高等部下→中央購買→大学部下→徳山港
というルートで、徳山港に向かう際には中高等部下の港に寄らない。
だから、中高等部下の出発に間に合わなくても、中央購買下の船着き場なら間に合うことがある。
もちろん、船より速く動ける手段を持っていればの話だけど。