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30 対高梁戦

 更にカドちゃんから追加注意が入る。


「あの槍からエネルギー弾を発射するのです。方向は槍の軸《先端に》固定なのですよ」


 やはり高梁は遠距離攻撃手段を持っていたか。

 シミュレーター訓練の際、カドちゃんが言っていたのだ。


『高梁は遠距離戦闘も出来ると思っておいた方がいいのです。攻撃方法が不明なので、今のシミュレーター訓練には入れていないのです。ですが注意はしておいた方がいいのです』


 そうでなくとも、元々、接近格闘戦を挑むつもりだった。

 やはりカドちゃんが、こう言っていたから。


『高梁の盾は、こちらの熱線に対して完全な防御が出来ると思った方がいいのですよ。所詮は地球近傍程度の神であるヒプノスやリリスと違って、N'tse-(ヌトセ・)Kaambl(カアンブル)は銀河規模の戦闘神なのです。ただ高梁本人は神の化身ではなく、信徒なのです。だから身体の性能差につけ込むのが正しいのです』


 今は距離がありすぎる。目測で百(メートル)近い。

 だから私は熱線攻撃をかけつつ、走って距離を縮める。


 高梁は大楯で私の熱線を防ぎつつ、槍を私ではない方へ動かそうとしているようだ。

 私は光線の狙いを、その槍へと変える。

 だが気付かれたようで、奴は槍を引っ込め、盾を持ち替えた。


「何故その力を、間違った方向に振るう」


 五十(メートル)くらいまで接近したところで、高梁がそんな事を言ってきた。

 盾を構え、こちらの攻撃をシャットアウトしながら。

 こちらは走っているので、返答する余裕なんてない。


「間違ったというのは、そちらの視点に過ぎないのですよ」


 私の代わりか、カドちゃんがそう返答した。


「イスか。そっちもだ。戦い滅ぼすべき相手は邪神どもだろう」


「それはあくまでN'tse-(ヌトセ・)Kaambl(カアンブル)の観点なのですよ。私の視点でも彩香氏の視点でも、ついでに言うと地球人類の視点でもないのです」


 もうすぐ奴だ。接近して盾を蹴飛ばすと共に、熱線攻撃で片をつける。

 あと三歩、そう思ったところで、嫌な予感がした。

 真っ直ぐ踏み切るつもりだった右足の力を右への踏み込みに変え、左へと進路を変える。


 高梁の盾が右にずれ、槍先がこちらを向いた。

 私の右側を何かが掠める。カドちゃんが言っていたエネルギー弾だろう。

 私は更に左へ逃げつつ、身体の向きをやや右に動かして左手で熱線を放つ。


 高梁は戻した盾で熱線を受け止めた。

 やはりこの熱線攻撃では、盾を超えられない。


 左へ回り込みつつ考える。

 あの強い熱線なら盾を貫けるだろうかと。

 やめた方がいいだろう。

 カドちゃんがそう言っていたし。


 私が奴より有利なのは、身体能力にものを言わせた格闘戦。

 ただ今の状態ではあまり上手くない。

 私は回り込もうと走る必要があるのに、奴は向きを変えつつ盾で防げばいいだけだ。


 一度止まって間合いを計りつつ、どちらへも動けるよう態勢を整えておこう。

 今のところ怖いのは、槍によるエネルギー弾だけ。

 あれは槍をこちらに向ける必要があるし、その為には盾を動かす必要がある。

 そこさえ注意すれば、止まっても問題ない。


 私は熱線で牽制しつつ、立ち止まる。

 間合いは六(メートル)程度。高梁もすぐに攻撃はかけてこない。


「もう一度問う。その力は我らが旧神の一柱、Orryx(オリュクス)のものだろう。なら向けるべきはこちらではなく、背後にいる邪神|Nyarlathotepナイアーラトテップの手先、灰夜だ。考え直せ! 正しい道へ戻れ!」


 なるほど。邪神の手先か。

 この学校に来てすぐ、この言葉は聞いた。

 紺音と第六生徒会の戦いが始まろうとした現場で、あの場ではグリューヴォの戦士のリーダーっぽかった佐藤の口から。


 それがきっと、高梁が持っている世界観なのだろう。

 正しいかどうかは、また別の話として。


「なら先輩に質問する。何をもって邪神という枠組みをつくり、特定の神を当てはめたの?」


「邪悪であるから邪神だ。宇宙的にそう決まっている」


 この辺りの関係は、新聞部発行の『各生徒会・サークル一覧』にあった解説で、ある程度は頭に入っている。

 更にはカドちゃんによる解説で、少なくともイス人視点での状況は大体把握したつもりだ。


 もちろん『各生徒会・サークル一覧』やカドちゃんの解説も、視点のひとつでしかない。

 ただ、そういう視点が存在するということは事実だ。

 だから私は、こう反論できる。


「その『宇宙的に決まっている』というのは、誰の視点? そう主張している神の視点というのなら、他は認めていない可能性は高いよね」


「真実はひとつで絶対だ。その考えは邪神に汚染された悪しきものだ」


「それって客観的な視点とは言えないよね。絶対的な客観性というのがあるのかどうかは難しいけれど」


 あと付け加えたい事も思い出した。


「だいたい、危険な神のところへ送り込んで、その流れでそちらにとっての邪魔者を始末しようなんて発想は、邪悪以外の何者でもないよね。だからこうして審判としての決闘を提起したんだし」


「間違った方向に使われている力を正しい勢力に戻し、邪神の力を削ぐ。正しき目的の為の正当な活動だ」


「つまり自分達の目的の為なら、不正すら厭わないという事よね。まるでテロ組織の言い分みたい。そこで思うんだけど、今の先輩の言葉って、その神が絶対だと洗脳されているのと同じなんじゃない? 自分の思考や判断力をすべて停止して。そういう奴隷万歳的な言い分は、常人には通用しないと思うけれど、どうかしら」


 どうにも私は、こういった論戦が上手くない。

 喧嘩腰かつ挑発している感じになってしまう。


 この場にいない友人のことを思い出す。

 名居ならもっと丁寧かつ嫌らしく、言葉だけでがんじがらめにできるのだけれど。

 その辺は頭の差なんだろう。


 名居は明日、月曜夕方近くに到着予定だ。

 その彼は、香妥州学園(ここ)がこんなにとんでもない場所だと知っているのだろうか。

 そんなことを思ったところで。


「既に取り返しのつかない程、汚染されているようだ。なら宇宙の為にも、ここで排除するのが正しいと判断し、下級の神の間違った眷属を浄化しよう」


 その言葉を言い終わった直後、高梁の盾と槍が動いた。

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