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28 決闘開始

 誰かのスマホが鳴り始めた。


「時間なのですよ。靴を履いて出るのです」


 カドちゃんのその言葉で、私たちは玄関へ。

 荷物はいらないし、あると邪魔とのことで、手ぶらだ。


 寮の各部屋の玄関と比べると倍以上の広さがあるけれど、3人いるとかなり狭い。

 邪魔にならないよう扉側にくっついて、紺音が厚底編み上げブーツを履き終わるまで待つ。


 紺音が立ち上がり、見覚えのある銀色の鍵を手に持った。


「移動する」


 周囲の景色が灰色になる。軽い浮遊感。

 次の瞬間、眩しい光を感じた。同時に周囲に広がるざわめき声。

 見えるのは照りつける太陽と緑の木々、向こう側に見える校舎、体育館、課外活動棟。

 反対側には海が見えて、その向こう側に工業地帯。


 景色そのものはシミュレーターとほぼ同じ。ならここが第三グラウンドなのだろう。

 白線で大きな円が描かれているところも同じだ。


 私たちが出現したのは、その円の内側、校舎から離れた端。

 南北に走る直径の線から見て、校舎などから遠い西側の方。


 シミュレーターと違うのは、その円を取り巻く人が結構いること。

 数人おっさんくさいのもいるけれど、多分全員中高生だろう。


 服装は九割がポロシャツ姿で、一割は個性的というか色々。

 私と同じような紺の作務衣姿も二人いる。

 合計で百人くらいだろうか。


 ほとんどは手ぶらか、スマホを持っている程度。

 ただ三組ほど、カメラだの何だの重装備を展開している連中がいる。

 そして今回の相手はまだ来ていないようだ。


「面倒な勧誘を受けないよう、試合場中央で待つのですよ」

 あと何分だっただろうと思ってポケットを探しかけ、スマホを置いてきたことに気付いた。

 そういえば今回、学生証も財布も全部置いてきたのだ。

 壊したり無くしたりする心配はしなくてもいいけれど、微妙に不安だし手持ち無沙汰だったりする。


「時間はあと三分少々なのです。向こうも時間までには来ると思うのです。

 時間があるので、ギャラリーについても説明するのです。緑色の腕章を巻いて、三脚つきカメラ三台とパソコンを展開している五人組は中高新聞部、私の先輩なのです。同じような装備で黄色腕章の五人組はセラエノ図書館の連中で、三脚にカメラ一台マイク付きの三人組は速報系動画配信サークルの夢見人情報局。あとは第三、第四、第六の生徒会や大手サークルの連中も来ているのです」


 疑問に思える名前があったので聞いてみる。


「第六生徒会って、潰れたんじゃなかったっけ?」


「前の『グリュ=ヴォの戦士』ではなく、新たに『魔道書研究会』が第六生徒会に就任したのです。魔術師集団で、そこそこ強い力を使える連中なのです」

 私が前の第六生徒会を倒したのが一昨日の午後だ。

 丸二日経たないのに、もう新しい組織が後任として就任したわけか。


「ずいぶん簡単に生徒会が出来るんだね」


「生徒会認定されると、課外活動費や施設利用で裁量権が大きくなるのです。なので生徒会になるべく格上げを申請しているサークルがいくつかあるのです。『グリュ=ヴォの戦士』が彩香氏との戦闘でポイントを落としたので、それまで獲得ポイント数で次点だった『魔道書研究会』が繰り上がったのです」  


 そうカドちゃんが説明したところで、紺音のつぶやきが聞こえた。


「来た」


 見ると学校側から三人が歩いてくる。

 片手剣と円盾を所持した大柄な金髪男子。

 茶色長髪の色白な女子。

 大盾と槍を持ち神父服風の服を着用した見覚えのある男子。


 電動髭剃りのような音も聞こえてきた。

 見ると課外活動棟上空から、見覚えのあるドローンが飛行して近づいてきている。


 三人が円の中に入ったところで、上空へと到着したドローンから中性的な声が流れた。


『こちらは学園総合指揮所。申請に基づき、審判たる決闘を執り行う。双方が試合場に入った事を確認。陣地は先着側が西側、後着側が東側。決闘開始までのカウントダウン開始。十五、十四……』  


 配置や作戦は、昨日中に話し合ってある。

 主にカドちゃんが決めて、私は聞いていただけだけれど。


 だから私の取るべき位置は、円の中心直近。

 カドちゃんと紺音はそれぞれ私の左側、右側の後方、円の端近く。

 向こうは日布野と高梁が並んで私の正面、吉森が左奥。


 作戦は既に昨晩話し合っている。

 最初に私が狙うべきなのは……


『五、四、三、二、一、開始!』  


 私は前方右側、高梁側に向かってダッシュしつつ、左腕を上げる。

 高梁は盾を構えようとする。

 しかし次の瞬間、私の目の前から消え失せた。

 紺音が例の銀の鍵で、日布野と高梁を移動させたのだ。


 ここまでは作戦通り。

 そして二人が消えた今、吉森までの障害はない。


 私はダッシュの勢いはそのままに、左腕から熱線を放つ。

 火柱が上がった。でもまだだ。

 カドちゃんが言っていた。


「上位の化身は変化する事が可能なのですよ。変化体は大体において、人間より数段頑丈なのです。なので完全に倒したと判断できるまで、攻撃の手を抜いてはいけないのです」


 火柱は上がったが、移動方向表示と一定時間後の移動場所予測は消えていない。

 動きはないけれど、消えないということは倒しきっていないということだ。

 だから熱線を浴びせ続ける。


 ふっと私の前方に、別の人影が出現した。

 ポロシャツ姿の結構可愛い感じの女子だが、微妙に違和感を覚える。


 彼女は私の方をきっとにらんだ。

 更に走って、私と吉森の間に入ろうとする。


 危ない、このままでは彼女を熱線で焼いてしまう!

 そう思った次の瞬間、私は気付いた。彼女に移動方向表示と場所予測が出ていないことに。


 これは幻影だ。

 おそらく吉森が私の攻撃を逃れようと作り出した。


 私は熱線を放ち続ける。

 炎の中に見える黒い塊が、砕け散って消えたのが見えた。

 ほぼ同時に幻影の彼女も、吉森の移動方向表示や場所予測も消える。


 これで間違いなく倒しただろう。なら次は日布野だ。

 私は左足を軸に展開し、背後を向く。


 背後側のかなり広い部分が黒い霧のようなものに包まれていて、内部が見えない。

 以前紺音が魔法の見本として出した、闇の顕現だろう。


 霧の奥に移動予測や移動方向が敵二人、味方二人分見える。

 位置や移動方向がかみ合っていない。

 紺音とカドちゃんは、敵を翻弄しつつ時間稼ぎに専念しているようだ。


 そして敵一人の反応が、こちら側に向いた。

 三数えるほどで、片手剣とバックラーを装備した金髪が霧の中から出てくる。

 紺音かカドちゃんがこちらが吉森を倒したのを確認して、日布野を闇の顕現から解放したのだろう。


「やはり吉森単独では勝てないか。しかし!」


 日布野はそう言いつつ、剣と盾を構えた。


「俺は遙か昔よりこの地球に君臨する眠りの大帝、旧神ヒプノスの化身。定まった形態すら持たない下級の旧神Orryxの化身よ。力の差に絶望するがいい」


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