24 予想外の強敵?
白い地面、雲一つない青い空と太陽。
これは演算を省略するために、世界を単純化してるのかな。
私以外誰もいないのは、まだカドちゃんがこの世界に入ってきてないからだろう。
まずは右腕、次に左腕、右足、左足と動かしてみる。違和感は全然ない。
これが仮想世界だなんて、すごい技術だ。
もしこれが普通に実現できたら、めっちゃすごいゲームが作れそうだな。
そんなことを考えたところで、前方五十米くらいのところで空気が揺らぎ、人影が現れた。
予想通りカドちゃん。外見はシミュレーターに入る前と全然変わらない。
「彩香氏、不具合はないですか?」
「うん。世界が単純すぎる以外は、仮想ってわからないくらい」
「その気になれば背景も変えられるのですよ。ということで紺音ちゃん、背景を中高等部特設決闘場にして欲しいのです」
カドちゃんの言葉が終わるとほぼ同時に、風景が一気に変わった。
土のグラウンドに学校の校舎、体育館、課外活動棟。
緑に覆われた山、海、海の先に見える工業地帯。
そしてグラウンドには、白色で大きな円が描かれている。
さらに南北方向には、円の直径っぽい線が引かれていた。
「円の内部が決闘場なのですよ。各チーム片方の半円側に陣取って、決闘開始となるのです。また現場もほぼ同じ景色なのです。ということで準備はいいですか」
「うん、大丈夫」
「ではまず模擬日布野会長で戦ってみるのですよ。外見も能力もほぼそのままでやってみるので、戦ってみて欲しいのです。なお戦闘の手段は問わないのです。飛び道具含め何でもありでいいのです」
熱線も炎も、出力最大を含めてありありルールか。
「分かった」
カドちゃんの姿が一気に縦横へ伸びる。
同時に色や形が変わって、そこそこ大きめの高校生男子といった姿になった。
これが日布野会長の外見なのだろう。
「では行くですよ」
言葉だけはカドちゃんのままだな。
そう思ったところで、カドちゃんというか日布野会長の右手に真っ直ぐで太く長い剣が出現する。
しかし視界に移動予測は出ない。
動く気はないみたいだ。
なら先手を取ろう。
左手を伸ばして、光線の狙いをつけようとしたところで。
ノーモーションで敵が右に動いた。速い!
焦る必要はない。
私は自分にそう言い聞かせつつ、左手を上げて構えたまま、敵に正対するようゆっくり向きを変える。
遠くて当てにくいなら、近づくまで待てばいい。
もしくはこっちから近づけばいい。
そう思った瞬間、急に意識に重さを感じた。
これは……眠気?
まずい。そう思うと同時に、私は意識して左側へダッシュ。
身体を動かして眠気を飛ばすためと、敵から遠ざかるため。
敵はこっちに近づいてこない。
私から見て右側にダッシュした後、こっちを向いて止まってる。
眠気が少し収まった。
これは身体を動かしたから?
それとも敵から離れたから?
ただし眠気が完全に消えたわけじゃない。
これが敵の遠隔攻撃なら危険だ。
私は左腕を上げて熱線を連射。
さっきと同じく速い動きで避けられる。
でもかまわない。
狙いはこちらへの対応に集中させ、眠気の遠隔攻撃をさせないことだから。
私は連射を続けながら、敵に向かって走り始める。
近づいても眠気が強くなることはない。
むしろ眠気はだんだん覚めてきてる。
もし眠気が攻撃なら、敵が余裕があるときじゃないと使えない可能性が高い。
つまり、余裕を与えず連射で追い詰めて倒す作戦は正解だ。
連射しつつ、敵に近づく方向へ走り続ける。
試合場は直径二百米。あっという間に近づいた。
敵が急に方向を変えて、こっちに剣を振りかざす。
しかしこの距離ならもう外さない。
光線を連射。三発当たって動きが鈍ったところで、ロイガーって神を倒した強出力の熱線を放つ。
巨大な火柱が上がった。
炎の中の人影が崩れて消える。
「正解なのですよ。日布野会長の本来の能力は、眠っている人間に対して最大限に働くのです。それ以外の人間の場合は一度眠らせる必要があるのです。強制睡眠魔法も持っているのですが、彩香氏はOrryxの恩恵があるので、日布野であっても相当に集中しないと効かないのです。だから今のように連続攻撃を仕掛けて、魔法に集中させずに倒すのが正しいのです」
姿がないまま、カドちゃんの声だけが聞こえた後。
火柱が消えて、今度は二人の姿が現れた。
「今度は吉森も追加するのです。吉森は魅了と通り抜けの能力を持っているのです。通り抜けがあるから物理攻撃は効かないのです。だからやっぱり熱線で倒すのが正しいのです」
◇◇◇
その後、吉森を加えた敵二人バージョン、そして高梁を加えた敵三人バージョンで模擬戦闘を実施。
その結果、私は今回の戦い方を理解した。
「つまり、日布野か吉森の近い方を一気に倒して、次に残りを倒す。高梁は最後に回して、速度差で押し切るってのが正しいんだね、きっと?」
「その通りなのです。実際は私と紺音ちゃんもいるので、今みたいにぎりぎりの戦いにはならないと思うのです。私と紺音ちゃんであれこれ引き離して、吉森、日布野、高梁と一人ずつ戦えるようにするのです」
それは助かる。三人相手はかなり厳しかったから。
ぎりぎり勝てたけど、もう少しでやられるところだった。日布野でも吉森でもなく、高梁に。
「高梁、思ったより強いんだね」
以前戦ったときと、明らかに強さが違う。
紺音と会ったときの戦いが、まるで嘘の様だ。
動きは速くない。
しかし私の熱線を盾で完全に防ぐから、遠距離射撃戦で倒すのは難しい。
その上今回、接近すると槍の先から爆発を起こすなんて技を使ってきた。
爆発をなんとかかわして、炎と化した右手で直接ぶん殴ってやっと倒したのだ。
今思うと、あの時、あえて接近しないのが正解だったかもしれない。
槍で攻撃する時、盾で私の攻撃を防ぐのは難しい。
攻撃が来るって分かった瞬間、あえて離れて、熱線で狙う方が正しい気がする。
そんなことを考えていると、カドちゃんが頷いたのが見えた。
「実はそうなのです。第六生徒会は高梁の隠れ蓑的存在だったのです。ついでに言うと、第二生徒会の暴走も黒幕は高梁の可能性があるのです。ただこれはイス人の私でも確証をとれないのです」
でも、まだ疑問が残る。
「最初に第六生徒会と戦った時、そんなに強いって感じなかったんだけど、あの時は加減してたのかな?」
「高梁は神の化身ではなく単なる信者で、本来はそれほど強くないのです。ただ高梁のようなN'tse-Kaamblの信徒は、神の印がついた装備を持てば持つほど強化されるのです。槍と盾を持って、そしてローブを纏った状態なら神の化身と互角の力を発揮する可能性が高いのです。ただその状態の戦闘データは無いのです。本当は今の攻撃以外にも、何か技か魔法を使える可能性もあるのです。ただイス人の私でも、まだ分からないのです」
私は前に戦った時のことを思い出す。
「そういえばあの時、槍と盾は別の先輩が持ってたね。高梁が持ってたのは、印がついた石だけだった」
「あの石で精神操作をするらしいのです。ただあの石は旧神の印と呼ばれていて、本来は邪神避けのお守り程度の意味しかない道具なのです。何故それで精神操作ができるのかは、イス人の私ですらわからないのです」
なるほど。
「じゃあ、高梁にはイス人でも分からない部分が結構あるってこと?」
「残念ながらそうなのです。ただ高梁が信仰している旧神N'tse-Kaamblは、ゴリゴリの戦闘神で融通が利かない神なのです。旧支配者や外なる神を倒すためには、人間くらい滅ぼしてもかまわない位に思っているのです。だから行動の全ては高梁ではなく神の意志、という可能性があるのです」