23 第一生徒会
第五生徒会というか新聞部の部室を出て、歩きながらカドちゃんに聞いてみる。
「決闘って、直接第一生徒会に行って提出しなきゃいけないの? 確かに第一生徒会はここから近いけど」
第一生徒会の場所は『各生徒会・サークル一覧』に載ってたから知ってる。
新聞部があるここ、課外活動倉庫棟の隣だ。
近いから寄るのは問題ないけど、学内SNS経由でも申請できるってどこかで読んだ気がする。
「今回は第一生徒会にも用があるのですよ。正確には第一生徒会にあるシミュレーターに用があるのです」
シミュレーターか。
そういえばさっきの決闘申し込み書の決闘形式選択欄に、そんな項目があった。
「決闘用のシミュレーターってこと?」
「そうなのです。彩香氏はここでの対人戦はまだやっていないと思うのです。そして紺音ちゃんは強すぎて模擬戦の相手には向かないのです。ということで不肖私カドちゃんが、今回の決闘に必要な要素を考えつつ、模擬試合を組むのです。それで一通り戦えば、それなりに安心して決闘に臨めると思うのです」
なるほど。
いたれりつくせりという感じではある。
ただし……
「そのシミュレーターって、ふらっと行ってすぐ使えるものなの?」
「学内SNS経由で予約出来るのですよ。もちろん予約済みなのです。彩香氏が厚生棟前から消えた時点で、所要時間を計算して、午後四時三十分から予約を入れたのです。あと五分で使用可能なのです」
渡り廊下を通って第一課外活動棟に入り、階段を四階まで上がった横の扉に『第一生徒会室』という札が出ていた。
カドちゃんが扉をノックする。
「どうぞ」
中から聞き覚えのある女子の声がした。
誰だったかな、と思いつつ、中に入る。
見てすぐに、声の主が誰かわかった。
昨日、買い物途中に会った野殿先輩だ。
光辺先輩も中にいる。
どうやら二人で作業をしつつ、お茶をしてたって感じだ。
「どーも、三時間ぶりに失礼するのです。今回は予告どおり、決闘申し込み書の提出とシミュレーター訓練に来たのですよ」
三時間ぶりってことは、午前中にはここにいたってことだろうか。
神出鬼没っていうか、カドちゃんは何してたんだろう。
それとは別に、光辺先輩と野殿先輩が一緒に買い物してた理由が分かった。
どうやらここで食事もしてる様だ。
明らかに夕食のおかずっぽい煮物が、奥のガスコンロにかかってるし、炊飯器も動いてる。
「わかった。それじゃ決闘申し込み書を確認していいかい。どうせ奈古田の判子がある事実調査報告もあるんだろ」
「もちろんなのですよ。ところで今日も泊まりなのですか」
「勝門や灰夜にも手伝ってもらった件が、もうすぐ決着がつくからさ。それまで待機ってところ。二十二時は回らないと思うけれどさ」
光辺先輩がカドちゃんから決闘申し込み書と事実調査報告を受け取って、ざっと目を通す。
その間に野殿先輩が奥のパソコンで何か操作して、そしてこちらを向いた。
「隣のシミュレーターは起動したから。カドちゃんや紺音ちゃんがいるから説明は不要ね」
「ありがとうなのです。あと光辺先輩、そういう訳なので、日布野と吉森と高梁、あと春場渡先輩に連絡お願いするのですよ。なお当日は新聞部が動画を撮る予定なので、決まったらなるはやで私達にも連絡プリーズなのです。取材の準備の他、SNSで決闘情報をニュースとして流す予定なのです。だから連絡は早ければ早いほど嬉しいのです」
「相変わらず強引だなあ、第五生徒会は。まあやっておくよ。確かにあの二人、さっさと潰した方がいいしさ。書類も不備がないから、学園指揮所としては受け付けざるを得ないし」
「ならよろしくなのです。では隣のシミュレーター室へ行くのですよ」
何だか、二年上の先輩に言いたい放題って感じだけど、これがここの普通なのかな。
そう思いつつ、私たちは部屋を出て、廊下を歩いて隣の扉へ。
こちらは『シミュレーター室』と看板が出ていて、扉の横には訓練場と同じようなカードリーダーがついてる。
「今回は私と彩香氏が対戦して、紺音ちゃんが操作担当をするので、三人とも学生証を通すのですよ」
この学校、どこでも学生証を使う様だ。
そう思いつつ、ポケットから学生証を取り出す。
カドちゃん、紺音、私の順でカードを通した後、カドちゃんがカードリーダーについたキーを操作。
ピッピッピッという音と、カチャっという音。
カドちゃんが扉を開けて、中へ。
第一生徒会室と同じくらいの広さで、歯医者にあるような全身リクライニングできる大きな椅子が6脚と、パソコンっぽい端末がついた机と椅子が一組。
窓は無い。白い壁と白い天井に、LED照明がついてる。
「紺音ちゃんはマシンの初期設定をお願いするのです。通常の一番、一対一でいいのです。そして彩香氏は、この一番に座るのです。靴を脱ぐ必要はないのです」
言われた通り座ると、横にカドちゃんがやってきた。
「まずはこのシートベルトを締めるのです。締めたら此処のボタンを押すと、頭の周囲を覆う外殻が出てくるのです。そうしたら目を瞑って力を抜けば、シミュレーター空間へ意識が転移するのです」
そういった機器って、たしかに小説や漫画には出てくるけれど、現実に存在するとは思わなかった。
「意識を飛ばせるようなハイテク機械、現代の日本に本当に存在してるんだ」
「勿論これは地球外の技術なのです」
なるほど。宇宙規模の神とか、地球外の技術とか、本当に何でもありなんだな。
そう思いつつ、私は言われたボタンを押した。