21 解説担当カドちゃん ⑵
「第二生徒会が拠り所としている旧神というカテゴリは、それくらいアバウトでいい加減なものなのです。だから、事実上『旧神以外の全ての宇宙規模以上の神』を担当する第一生徒会に比べると、勢力が圧倒的に劣るのは仕方ないのです。でも今期の第二生徒会長、日布野は野心家なのです。一気に勢力を広げるため、いろんな策略を巡らせているのです」
画面に『日布野会長首謀による主要事案』と表示された。さらにその下には、
○ 魅了による一般生徒への不正加入促進未遂
○ 悪夢魔法による第一生徒会傘下主要サークル引き抜き未遂
○ 教師への洗脳未遂事案
○ 部外理事への洗脳未遂事案
なんて、もし本当なら絶対に問題になるような事項が並んでいる。
「日布野会長はヒュプノスの能力の一部を使えるから、睡眠時の夢による精神操作が得意なのです。また、副会長の吉森はリリスの力を持っていて、魅了や洗脳といった精神操作が得意なのです。リリスは地球本来の神に分類されることが多いから、本来は第三生徒会の管轄なのです。でも、吉森はちょっと危うい性格だから、穏健派が中心の現第三生徒会には嫌われているのです。だから第二生徒会の日布野と組んで、好き勝手やろうとしては阻止されているのです。だから、この二人には、この機会に好き勝手できないように、しっかり対処した方がいいのです」
確かにこれだけのことをやらかしてるなら、対処した方がいいよねとは思う。
でも、ちょっと疑問があるから、ここで確認しておこう。
「これだけの悪事をしたなら、学校として公式に処分することはできないの?」
「中高等部内の神の力に関する判断と処理は、学校や教員側じゃなく、第一生徒会の担当なのですよ。でも、第一生徒会が第二生徒会を処分するとなると、かなり面倒なことになるのです。最悪、傘下のサークルも巻き込んだ大きな抗争になってしまうかもしれないのです。だから実は、今回の事案はちょうどいい機会だったのです」
ちょうどいい機会?
私がその言葉の意味を聞く前に、カドちゃんは説明を続けた。
「今回の事案は、
① 彩香氏を今の実力以上の神格と戦わせることによって
② 彩香氏をOrryxの化身化させて
③ Orryxの化身に紺音ちゃんを倒させて
④ 彩香氏を紺音ちゃんと引き離しつつ、旧神側の一員として目覚めさせて
⑤ 第二生徒会の傘下に引き入れる
という計画だったのですよ」
ちょっと気になることがあったから、聞いてみる。
「神格って書いてあるけど、私が戦ったあの緑色のスライムみたいなのって、神だったの?」
「Lloigorという神。ただし、Lloigorの本体はArcturusにいて、地球のAlaozarにいるのはただの顕現。その顕現も、百年近く前にOrryxに倒されて、長い間消えていた。時間が経って復活しかけていたけど、今回はまだ弱かったから、彩香経由でも倒せた」
これは紺音が教えてくれた。
あの緑色のスライムは、復活しかけの神だったらしい。
つまり、私は……
「神と戦わされたってこと?」
「神といっても本体じゃなくて顕現だから、あんまり気にしなくていいのですよ。それに、Lloigorは双子神のZhar以外とは特に親しい関係はないし、Tcho-Tchosくらいしか信仰している者はいないし、生贄を食べるくらいしか活動していないのです。倒しても問題ないのです。それに、彩香氏ももう少し鍛えれば、Orryxの顕現くらいの力は発揮できるはずなのです。だから、遠慮せずにやっても力の問題はないのです」
顕現とか、生贄を食べるとか、神の顕現くらいの力とか……
何だか、感覚的に納得するのは難しい。
でも、ここで暮らすなら、そういう場所だと割り切って気にしない方がいいんだろう、きっと。
「さて、そんなわけで、彩香氏は敵対的な神が待ち受ける危険な場所に、無理やり飛ばされたのです。それに、危うく紺音ちゃんを襲うところだったのです。これは明らかに不当な行為なのです。だから、審判として決闘を申し込むことができるのです」
審判として、か。
これも意味がわからないから、確かめておこう。
「普通の決闘と、審判としての決闘ってどう違うの?」
「普通に決闘を申し込んだだけだと、相手に拒否される可能性があるのです。でも、①不当な行為をしたという申し立てと、②それが本当だと証明できる何かあれば、③審判として拒否できない決闘を申し込むことができるのです。結局、神の世界でも力こそが全てなのです。だから、決闘で決着をつけることが、生徒会規則で定められているのです」
力こそ全てか。
野蛮だけれど、法律を担保するような存在がなければ、きっと真理なのだろう。
そう思いつつ、②をどうやって証明するか、疑問に思ったので確認しておく。
「本当だと証明するには、どうすればいいの?」
「第五生徒会の認証があれば問題ないのですよ。イス人は時空間を無視して事実を知ることができると認められているのです。だから、イス人の生徒会である第五生徒会が事実を認証すれば、この学校内では証明になるのです。私は第五生徒会の書記で、しかもこの事態は事前に知っていたから、会長から認証印を預かっているのです。だから実は、事実調査報告はもう作ってあるのですよ。これに第五生徒会長の認証印を押せば、証拠の完成なのです。ということで、事実調査報告なのです」
プリンタから紙が出てきた。
さっきカドちゃんが説明した内容が、もっと詳しく書かれている。
私があの場所に移動したのは、厚生棟のあの場所に転移の魔法陣が描かれていたからとか。
その転移魔法陣を描いたのは、元第六生徒会の書記だった高梁だとか。
移動先はAlaozarという場所で、100年近く前にOrryxに倒されたLloigorの顕現が復活しかけていたとか。
かつてLloigorの顕現を倒したOrryxは、復活を見過ごせず、転移魔法陣に私を誘導したとか。
「細かいところまで調べてあるんだね」
「厳密には、これから調べるのですよ。でも調べた後の私と精神交換をしたから、調査結果はもう把握しているのです」
つまり、これから調べる作業をする必要があるわけか。
そう思った私の前で、カドちゃんは『第五生徒会会長 奈古田卓』と印字された部分に判子を押した。