1 この学校に来た理由
何故かはわからない。
私は中学生になった頃から、喧嘩とか脅迫とか暴行とかに巻き込まれるようになった。
確かに住んでいた場所の治安が悪かったのは事実だと思う。
家のマンションがあるのは埼玉の南部で、通称○○○スタンと呼ばれていたりする地区だったから。
治安が悪いから、利便性の良さにも関わらず地価が安い。
なので記載スペック的には優秀で、お値段お安めのマンションが建ってしまう。
その結果、そろそろ自分の家を買おうかというサラリーマン家庭が、治安状況を知らずに引っ越してくるのだ。
私の家も、まさにそういう課程で引っ越してきた。
しかしそんな地区だからという以上に、私は事件や事案に巻き込まれた。
私が何かした訳では無い。
ごく普通に学校からの帰宅途中とかで、たまたま危ない現場に出くわしてしまうだけなのだ。
強盗とか、恐喝とか、性犯罪とか。
私は一応は女子だし、年齢相応の標準的な身長体格。
だからそういった事案の加害者は、大抵暴力で私の口を封じようとする。
ただ私は、何故かはわからないけれど、喧嘩が無茶苦茶強い。
何故かはわからないが身体が勝手に動いて、相手を確実に無力化してしまう。
五人くらいいても、全然問題ない。
何故そんな事が出来るのか、思い当たる理由は全く無い。
道場だのジムだのに通った訳でも、誰かから英才教育を受けたなんて事もない。
ただ身体が、自然にというか自動的に動いてしまうのだ。
ただ自動的に動きすぎた結果、結構酷い事になったりもした。
私では無く相手の方が、だけれども。
骨折で動けないなんてのは、まだいい方。
死者こそ出ていないが……という状態だ。
だから、そういう事案を起こした後は、それなりに身体の動きを気にするようになった。
意識して威力を抑えるなんてのも、中ニの夏休み前には出来るようになった。
なら相手の体格が良く、人数が五人くらいいても、単純な骨折程度までで済ませることが可能だ。
中学三年間に合計二十七回、こんな事案があったのだ。
もう勘弁してくれと思うのは当然だろう。
ただひとつの救いは、保護だの逮捕だのといった犯罪者扱いはされた事がないことくらいだ。
これは私が女子であることと、今の警察の優秀さのおかげ。
いいかげんな証言にとらわれず、防犯カメラや第三者の目撃者を探して事実関係を捜査してくれた。
それに何度目かからは、ヤバそうな時にスマホで録音するという習慣も身についた。
防犯カメラの場所も、大体把握した。
結果、事案は全て正当防衛だと、警察が証明してくれた訳だ。
それでも歪んだ噂は避けられなかった。
結果、中二になって以降、女子の中では思い切り孤立。
話せる奴は以前からの友人の名居慎夫だけ。
あとは皆さん、遠巻きに見ているという状況だ。
なお名居は男子だけれど、別に恋人とかそういう関係ではない。
単に引っ越した小学校四年の時に同じクラスで、以降同じクラスが続いたというだけだ。
あとは頭が良くて話しやすかったというのはあるけれど。
小学校の同級生の男子は半分以上が猿みたいなもので、女子の半分は恋愛脳だったから。
ただ名居は男子だし、学校にいる間ほぼずっと同性から孤立しているというのは、私だって気が滅入る。
いじめとかは無く、遠巻きにされているという感じだけれど。
だから高校はもう、私のことを知らない遠くへ通おう。
でも通学時間が長ければ、それだけ余分な事案に出くわしてしまう可能性が高いかな。
そんな事を考えていたもうすぐ中学三年という春休み。
名居がこんな情報を持ってきたのだ。
「進学先として、此処ははどうだ?」
渡されたパンフレットの表紙には、香妥州学園付属中・高等学校と書かれていた。
「山口にある全寮制の学校だから、此処での噂を知っている奴はいないだろう。島一つを学園で占有しているから、此処みたいに治安が悪い事もない」
どれどれという事で、その場でパンフレットを開いてみる。
『島全体を使って、教育・研究にふさわしい環境を整えました』
その一文に、とてつもない安心感を覚えた。
これなら巻き込まれ事案は起こりにくいだろう。
私だって普通の高校生生活を送れるかもしれない。
その夜、名居から貰ったパンフレットを読みつつ、それ以外の情報についても公式、非公式含めてネットで検索。
香妥州学園そのものは、五年前に出来たばかりの学校らしい。
ただ米国にあるMiskatonic学園の系属校で、それなりの下地はあるようだ。
また学校そのものも悪くなさそうに感じる。
附属の大学や大学院もあるけれど、高校からはそれ以外の国立、私立有名校にも進学しているようで、その実績もいい。
更に気に入ったのが、協賛企業による奨学金が充実している事。
これを利用すると、通学生の公立高校以下の出費で住むようだ。
もちろん寮での生活費も含まれている。
在学中にある程度以上の成績を維持する事が条件ではあるけれど、奨学金としては当然だろう。
今の環境から私には、またとない話だった。
ただし中高一貫校で、高校から編入の定員はわずか40名。
おかげで難易度は埼玉県の高校でいうと浦高並み、つまりは超難関だ。
「俺も一人暮らしをしたいから受けるつもりだ。試験は東京でも受けられるから、一緒にどうだ?」
此処から逃げ出すには、またとない話だ。
だからそこれから試験までの十ヶ月ちょい、猛勉強した。
結果は名居ともども無事合格。
私としては、もう奇跡の合格劇だ。
半年で業者テストの偏差値を七上げて、それでも合格可能性二割という状況だったのだから。
なお名居の合格は、ある意味当然の結果だったりする。
奴は全国模試でも一桁台の順位をキープ出来る化物だから。