17 宇宙人からの注意
幾つか気になる点はあったけれど、まずはここから聞いてみる。
「紺音が家族とか帰れる場所とかを求めているって、どういう事か聞いていい?」
とりあえず普通の話し方で話して問題ないだろう。
同学年で、かつ初対面の筈の私に『ムフフでしっぽり』なんて非常識な事を言ってくる奴だ。
細かい事を気にする必要は無い、多分。
カドちゃんは、うんうんと頷いた。
「プライベートなことなので、私の口からは言わないのです。ただ紺音ちゃんの神の力は強すぎるので、『神の化身』抜きで紺音ちゃんを意識してくれる人は多くないのです。実際にはそこそこ程度にはいるのですが、紺音ちゃんがそのことを信じられないのです。なので化身のことを知らないのに、紺音ちゃんの方を向いてくれた彩香氏に、紺音ちゃんは思い切りすがりついたのです」
なるほど。
しかし今の解説、少しばかり疑問があるのだけれど……
「解説そのものはなるほどと思う。でも何故、私と紺音が知り合った辺りについても把握済みなの?」
「これでもイス人なので、多少の時間軸は無視できるのですよ。何日後とか何年後とかに紺音ちゃんに聞いて知った事を、現時点で把握するなんてのは簡単なのです」
何かまた常識が壊れた事を言っている。
もっとも紺音もあの部屋を借りる際に過去を改変したとか言っていた。
だからいまさらとは思うのだけれど。
あとイス人という言葉が出てきたという事は、カドちゃんはきっと……
「イス人という事は、カドちゃんって第五生徒会関係者?」
「その通りなのです。まだ高等部の行事には一回も出ていないのですが、既に書記に内定しているのです。さてはそこにある新聞部の本で予習済みなのですね」
私は頷く。
イスとは、クトゥルー神話で『イスの大いなる種族』と呼ばれる宇宙人の事だ。
時間の秘密を極めた唯一の種族であることから『大いなる』とついている。
しかし本人達はわざわざそんな修飾をしない。
だから単にイス人と自称している。
そう『各生徒会・サークル一覧』に書いてあった。
「その本の本年度版の編集で、昨日までは大変だったのですよ。毎年最新版を出すのですが、微妙にあれこれ訂正事項があって、すんごい面倒なのですよ。中学2年から参加しているのですが、まったく勘弁して欲しいのです、本当に……
というのはまあともかくとして、それでは次の用件、彩香氏に注意なのです。
まず最初の注意、彩香氏は思い切り狙われているのです。今日もあと一回、戦闘があるのです」
いきなりとんでもない注意がやってきた。
「模擬戦闘では無く本物の戦闘? ひょっとして、また決闘?」
「模擬でも決闘でも無く、ガチの戦闘なのです。倒さないと死んでしまうのです。逃げる事も話し合う事も不可能なので、相手を殺す事を認容する必要があるのです。それさえ出来れば、戦闘力そのものは彩香氏の方が高いのです」
今度は相手を殺す必要がある、か。
「相手は人間?」
そうでなければいいと思いつつ、聞いてみる。
「人間ではないのです。使役生物とその主である宇宙的存在の顕現なのです。彩香氏というか、彩香氏の力の源であるOrryxが敵として一回やり合った相手なのです。だから話し合いは不可能なのです。
ただ最大の問題は、倒して一件落着したかと思った後にやってくるのです」
そんな訳がわからない存在と戦うというだけでも、充分に不安だ。
その上、更に不安な事が追加されている。
「どういう問題なのか、聞いていい?」
「あまり詳しい事を言えないのです。ただ忠告は出来るのです。彩香氏の力の源であるOrryxは強面ですが、実のところ話がわかる神なのです。精神感応によるメッセージを聞いて、わざわざ宇宙の彼方から助けにやってくる位の神なのです。時に人助けし過ぎて、事案を引き起こすくらいなのです」
微妙に心当たりがあるような気がする。
今まで私が巻き込まれた、数多くの事案。
これってその神が救いを求める人の意思に応えて助けるべく、私を動かした結果ではないだろうか。
「ですからヤバいと思った際は、Orryxに呼びかけて自分の意思を伝えて欲しいのです。多分それで何とかなるのです」
なるほど。
新たな疑念は生じたけれど、それはそれとしてアドバイスは理解出来た。
「これはまずいと思ったなら、自分の中の神と話せという事でいい」
「それでいいのです。その後は、また後の私がアドバイス出来ると思うのです。
あ、あとこれは意識しておいて欲しいのです。紺音ちゃんの弱点は火属性なのです。本来は紺音ちゃんを化身としている神は、人に関わる神としてほぼ最強なのです。ですがワンオブ最強はバランスが悪いので、あえて欠点を設定しているのです。だから紺音ちゃんも、火や炎、熱攻撃に弱いのです。これは絶対に意識から外さないで欲しいのです」
なるほど、これも了解だ。
「紺音は火属性に弱い。自分の神と話せ。敵は殺せ。これでいいの?」
カドちゃんはうんうんと頷いた。
「今回はそれでいいのです。後はその後なのです。まだ具体的には言えないのですが、思い切り暴れ回れるイベントが待っているのです」
そう言って、彼女はにやりと悪そうな笑みを浮かべる。
「まあそれは後のお楽しみという事で。本題はこれで終わったので、彩香氏に質問なのです。昨日はウフンアハンな事にはならなかったようなのですが、本日はどんな予定なのでしょうか。
私はイス人なので、人間のその辺の感覚が良くわからないのです。一番経験が長い身体は半植物的な円錐体生物で、胞子で単為生殖を行うという形態なのです。だから相手がいる有性生殖という感覚そのものが、割と未知なのです」
ちょっと待って欲しい。
「私と紺音は同性だから、有性生殖の相手にはならないんだけれど」
「同性でも有性生殖出来る種族なら、割とムフフになる事はあるのです。これはイス人によるこれまでの観察結果で明らかなのです。知識レベルが高くなるほど、よくある事なのです。そして地球、それも日本では趣味の薄い本が数多く発行される程、一般的なことであるはずなのです」
同人誌的な薄い本を根拠にしないで欲しい。
私がそう反論する隙を与えず、カドちゃんは続ける。
「家族を求める紺音ちゃんの為にも、そこはガンガンやっていいと思うのです。同性ならば避妊する必要すら無いのです。この部屋は風呂もあるし、問題は全くないのです。
私が蒐集した故人レベル発行の薄い資料多数によると、同性であろうと近い年代の2人が同じ部屋に住むという事は、ほぼ確実に同棲なのです。ならムフフな関係がある方が一般的だと思うのです」
だから待て、そこの宇宙人。
「そもそもこの身体がもっとそれらしく成長していたら、とっくに私がヤっていたのです。残念ながら入手した身体が女子として今ひとつ発育がよろしくないせいか、紺音ちゃんにそういった反応が無かったので諦めたのです。私自身としては元々性別がない身体に慣れていたので、どっちもOKだったのにです。もし彩香氏が紺音ちゃんとヤる前に練習したいなら、私の身体を貸してもいいのです。発育はいまいちですが、一応はちゃんとJKの身体なのです」
女子は自分でJKなんて言わない。
だからそろそろ……