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13 2日目の朝

 夕食は、とんでもなく美味しかった。


「イカってこんなに美味しいんだ。白くてねっちょりしていて、醤油の味で食べるものだと思っていたけれど」


 イカの刺身があんなにもっちりして、甘みがあって美味しいという事は知らなかった。

 海無し県のスーパーで売っている刺身とは全然違う。


「大きいアオリイカは別格。普通の店では売っていないから、高くても是非食べて欲しかった」


 やっぱりあのイカは別格なのか。

 確かにスーパーで見るイカと形も大きさも違う。

 では次、アジはどうだろう。


「小アジでも、結構大きい刺身になるんだね」


 半身そのままだから、通常よくあるサクを切った刺身よりずっと大きい。


「三枚におろした骨以外の部分」


 それって、かなりの手間がかかっている気がするけれど……

 ちょっと醤油をつけて口に運ぶ。

 思った以上にしっかりした身で、食べ応えがある。

 

「これも美味しい。歯ごたえがしっかりあって、いかにも魚という感じ」


「冷蔵庫で一日寝かせたら、歯ごたえは無くなるけれど旨みが増える。今回は新鮮なのを食べて貰おうと思った。もし好きなら次回は少し寝かせたのを出す」


「ありがとう。でもイカもアジも、さばくのは大変だったんじゃない?」


 あのイカは普通のイカにくらべるとずっと大きかった。

 一方アジは小さいから、一匹から二枚しか刺身を作れない。

 だから相当手間がかかった筈だ。

 私なら……考えたくない。


「慣れると簡単。イカは割と全部使えて便利でお得。ただアオリイカは肝が小さいから普通の塩辛は作れない。それだけがちょっと残念」


「塩辛も自分で作れるの?」


 私の想定外だ。


「いわゆる塩辛は、肝が大きい新鮮なスルメイカがあれば簡単。さばいて塩ふって、一日おいたら叩いて混ぜれば完成。ただ今回のも肝を加えない白い塩辛には出来る。明日の夕食に出す」


 更には揚げたのも美味しかったし、家では食べた事がない南蛮漬けの酸っぱ甘辛の味も美味しかった。

 少なくとも実家の夕食よりは数段上。

 ずっと手間暇がかかっているだろうし、材料費もかかっているけれど。


 ◇◇◇


 夜は普通に自分たちの部屋で寝て、そして朝。

 

「明日は朝八時に朝ご飯にする」


 そう紺音が言ったので、一応七時半には起きてリビングに顔を出した。

 でも紺音は既に起きていて、これから調理をしようかという感じ。


「おはよう。手伝おうか」


「おはよう。大丈夫。彩香は待っていて」


 なので洗面歯磨きをして、スマホで時間つぶし。

 そうすると、いい喫茶店で出てきそうないかにも朝食、という一式が出てきた。


 メニューは言葉にすればなんという事はない、ベーコンエッグ、サラダ、スープ、トースト。

 でもベーコンがカリカリなのに、卵の黄身がまだ内部とろとろ。

 イカゲソ入りコールスローサラダは絶品。

 おまけにチーズトーストが焦げ具合といいチーズのとろとろ具合。


 何というか、もう優勝って感じ。

 正直なところ、プロの仕業って出来映えだ。

 お高めの喫茶店で千円以上する朝食を頼むと、こんな感じで出てくるのかな。

 外食の経験値が絶対的に足りなくて、よくわからない。


「昨日の夕食は特別に美味しかったけれど、昨日の昼食やこれも美味しい。ベーコンエッグやサラダはもちろんだけれど、このチーズトーストもとんでもなく美味しいし」


 チーズトーストなんて食パンにチーズを乗せて焼くだけだと思っていた。

 でも今食べているのは明らかに何処か違う。


「チーズトーストはSNSに載っていたレシピ。普通のスライスチーズとチェダーチーズと二枚乗せて焼いた」


 そういうのも研究しているのか。

 私とは意識からして違う模様。


「何かごめんね、そこまでして貰って。何なら隔日で料理当番にしようか」


 私にそこまで凝ったものは作れない。

 でも食べられるもの位は作れるし、その分休憩は出来ると思う。

 ただ料理の質の格差が……間違いなく……


「それはいい。料理を作るのは好きだから。その代わり特別な用事がない限り、朝食と夕食は毎日一緒に食べて欲しい。いい?」


 いいよと言いかけてふと思う。

 男女ならきっとこれ、愛が重いという奴のような気がすると。


 でも私は女子だし、実際は料理を準備する都合だろう。

 特にこの学園島でする事はない筈だし、問題はない。

 あ、でも課外活動とかは……


「ここの学校の場合、課外活動で遅くなるとかはあるかなあ?」


「彩香が自分の意思でどこかに入ったなら、それはそれで問題ない。それに課外活動でそこまで遅くなる事は普通はないし、あるとすればそれは特別な用事」


 つまり大丈夫いう事か。


「なら全然問題ないよ。その方が片付けとかも楽だろうし」


「良かった。なら毎日、腕によりをかけて作る」


 そこまで力を入れる必要はないと思う。

 でも微妙に紺音が嬉しそうな感じに見えるので、口は挟まない。


「ところで今日は午前中は私と訓練でいい? 午後は所用があるので、私は出かけるけれど」


 訓練が必要な理由はわかる。


『いずれは決闘や戦闘には出くわす。だから今まで経験が無い、魔法や特殊能力を使った戦闘に慣れておくべき』


 そう昨日紺音が言っていた。

 ある程度の事情を知った私もその通りだろうと思う。

 だから私が聞くのは、もうひとつの方、


「ありがとう。訓練は確かに必要だよね、きっと。でも午後の所用って何か聞いていい? 忙しいなら私の砲は後にしていいよ」


 昨日はそんな事は言っていなかった気がする。

 だから念の為だ。


「SNSで第一生徒会から依頼が入っていた。たいした内容ではないけれど、奨学金の額に関わる。だから行って、さっさと片付けてくる」


 どんな依頼だろう。それに……


「普通の学校なら、奨学金に関するような依頼は学校側から出るんじゃない?」


「教師や事務員のほとんどは神の力を持っていないし、神の力が関わる事案について判断出来ない。だから決闘と同様、第一生徒会が判断して処理することになる」


 なるほど。

 でもただでさえ第一生徒会は、決闘だの何だの業務が多い様だ。

 そもそも生徒会という事は生徒の活動な訳で、授業を受けつつそんな活動が出来るのだろうか。


「でもそれだと、第一生徒会で処理する事項が、膨大になるんじゃない?」


「第一生徒会は役付だけで5人いて、全員が神の能力を使用して処理が可能。足りなければ私を含む奨学生に依頼を出すことも出来る。だから問題ない」


 それってどう考えても、一般的な生徒会の業務なり権限なりを超えている気がする。

 でもまあ、今はそういうものだと思っておこう。

 この島の常識は、間違いなく他と違うのだから。

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