11 学園の構造
あとは普通に野菜やパン等を購入して、自転車を受け取って寮へ向かう。
自転車だと流石に早くて楽だな。
そう思いつつ寮の自転車置き場に自転車を止め、寮の自分の部屋へ。
扉を開けると中に見えるのは、本来の殺風景で狭い部屋。
大丈夫かと思いつつ中へ入り扉を閉めたところで、やっぱり風景が変わった。
「お帰りなさい」
「ただいま」
そう言っていいかわからないけれど、とりあえずそう返答して中へ。
紺音はソファーに座って、スマホをポチポチしていた。
服装は黒色ゴスロリ風ではなく、買い物に行く前にこの部屋にいた時と同じ、ダブダブの黒色長袖トレーナーとやはり黒色の短パン姿。
黒マスクは外している。
「光辺先輩と野殿先輩は、第一生徒会の会長と副会長」
紺音が突然、そんな事を言った。
なんだろうと思ったけれど、すぐにスーパーで出会った2人の説明だと気づく。
でも第一生徒会と言えば……
「あのドローンで決闘の結果判定をしているところ?」
「そう。学園指揮所は第一生徒会管轄。高等部入学で私は第一生徒会に誘われていた。でもあわないと思って断った」
それが『先日は済みませんでした』という事か。
ここの生徒会は、強さが必要らしい。
そして紺音は、高校三年の男子三人相手でも圧勝出来る位には強いようだ。
更には今までの言動から、何度も決闘を受けてほぼ勝利していることも確か。
だから誘われたという事だろうか。
「紺音って生徒会に誘われる位に優秀なんだね」
少し言い方を変えて聞いてみた。
「優秀だからじゃない。第一生徒会は神二柱の関係者で構成されている。私はその片方の関係者。それだけ」
つまりあの二人のどちらかの神と、紺音が力を借りることが出来る神が同じという事なのだろうか。
話の流れとすれば光辺先輩の方だよな。
そう思って、そしてあの時感じた疑問を思い出したので聞いてみる。
「あの場で生徒会の事を話さなかったのは、何か理由があるの?」
「生徒会の役員は基本的には公表していない。反対勢力によってテロに遭う可能性があるから。実際はある程度の力がある生徒は知っているけれど」
なるほど。でもそうなると更なる疑問が生じる。
「生徒会役員って、普通は生徒による選挙とかで決まらない?」
「ここの場合は、各生徒会が独自に採用して生徒会内部で決定している。生徒の信任は、傘下のサークルに所属する生徒数と、この学園に対する功績のポイントで反映する」
うーむ。何というか、常識が違う。
でもまあ、一般の学校での生徒会選挙も、対立候補が出て激しい選挙戦なんてのはあまり無い。
基本的には出馬した人間に対する信任投票だ。
ならそんなに変わらない……のだろうか?
「ところで彩香はCthulhu神話、知っている?」
いきなり方向性の違う質問が飛んできた。
どういう話の繋がりで、そんな言葉が出てきたのだろう。
わからないまま返答する。
「聞いた事がないと思う」
「日本語の発音だとクトゥルー神話、あるいはクトゥルフ神話」
その発音でなら覚えはある。
ネット等で言及しているのを見たことはある、という程度だけれど。
「名前は聞いた事があるけれど、読んだことはないかな」
「Cthulhu神話の神は三つの勢力に別れている。外なる神や旧支配者とよばれる勢力と、旧神と呼ばれる勢力、そして地球本来の神々とよばれる勢力。このうち地球本来の神々は力が弱いので、外なる神の一柱と旧神の一柱により、Kadathと呼ばれる場所で保護されている。
この香妥州学園はそれに似せた構造。つまり外なる神の一柱と旧神の一柱の力を持つ者が管理している。第一生徒会はこの管理組織の一部」
この島の外の常識では納得出来ない内容だと思う。
神が何柱も実在していて、それぞれの力を使える人間が実際にいて、この学園を管理しているらしい。
確認の為に、質問してみる。
「ならクトゥルー神話にある神が実在して、その力を使える生徒がいるということ?」
「そう。Cthulhu神話に記されている事全てがが正しい訳ではないけれど。光辺先輩も野殿先輩も、そして私も彩香も神の力を使える。力を与えた神や力の与えられ方はそれぞれ違うけれど」
なるほど、ここで生徒会の話に繋がる訳か。納得だ。
ついでに今の紺音の言葉と、あの二人の会話を思い出して、頭の中でささっと整理して、質問してみる。
「あの先輩達が呉越同舟といっていたのは、それぞれ違う勢力に属している神の力を使えるという意味でいい?」
この場合の違う勢力とは、先輩達二人だけでない。
私と紺音に対してもかかっている。
紺音がそこに気づいてくれたかはわからないけれど。
「そう。ただ神同士は相容れなくても、人はわかり合える。先輩達はそういう立場だし、私もそう信じたい」
私は買い物に行く途中の、紺音の言葉を思い出した。
『味方側の力の持ち主なら、何をしようと結果的には自分たちの側につく。そう盲信している者は多い。第二生徒会や第三生徒会、その下部組織のサークルには特に』
つまり私に力を貸している神は、紺音の神とは敵対していて、第二生徒会か第三生徒会、その下部組織の神と同じ陣営ということだ。
なら、そろそろ聞いてもいいだろう。
「それで私に力を貸している神って、どんな神なの。あと紺音が関係する神というのも、良ければ教えて欲しい」
「お茶にしよう。最低限の範囲にしても、きっと話は長くなる」
紺音が立ち上がって、キッチンの方へ向かう。
ただ全部紺音にやって貰うのは、正直申し訳ない。
一応これでも女子ではあるのだ。
凹凸に乏しい体型だし、スカートはかないけれど。
「手伝う」
私も立ち上がった。
◇◇◇
冷たい紅茶とクッキーという、今までの私の生活には馴染みが無かった、いかにもお茶という組み合わせをソファーテーブルに置いた後。
紺音は考えながらという感じで、ゆっくりと話し始める。
「まずは彩香の力について。彩香の力はOrryxと呼ばれる神が創った戦闘種族由来のもの。星の戦士とか、Glyu-Vhoの戦士と呼ばれている」
聞き覚えがあるフレーズだ。
「グリューヴォの戦士って、第六生徒会が名乗っていた気がするけれど」
「第六生徒会はただそう名乗っていただけ。実際は旧神のアイテムを使うだけの人間。
彩香は違う。鍛えればそのうち自分の意思でGlyu-Vhoの戦士の力を使えるようになる。解放できる力は、高度な状況把握、高速移動、炎による攻撃、精神攻撃系の魔法。投げ飛ばし等の体術は今でも一通り使える筈。
なお小説ではGlyu-Vhoの戦士を、筒のような乗り物に跨がって空を飛び、筒のような武器から火炎を放つと描写している」
※ クトゥルー神話
20世紀にラヴクラフトやダーレスらによって作り上げられた架空の神話。各地で語られている神話は、太古からのクトゥルフ神話の派生であるということにされている。
ただし作者や小説によって設定は結構異なる。神の名前が違ったり使役生物の所属が違ったり、神によっては所属陣営が違ったり……