表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

「蒼塔決戦、後編 ― 世界の理に抗う者たち」

砕け散る塔の壁面。

 その残骸すら因果から切り離されて、音を持たずに虚空へと消えていく。


 


 ゼクルスの一撃は、もはや“物理”でも“魔法”でもなかった。

 それは、存在の定義を塗り替える、“概念の暴力”だった。


 


 ユートたちは崩壊する塔の最上階で、ついに真の魔王と対峙していた。


 虚空を背景に浮かぶ黒き巨影。

 人の姿を模しながらも、その輪郭は常に歪んでいた。

 目を合わせるだけで、自分という存在が“定義し直される”錯覚に陥る。


 


「お前……本当に、こっちの言葉を理解してるのか?」


 ユートが問いかける。


 だが、ゼクルスの答えは無機質だった。


「言語は不要。我は万象の“再定義”を目指すもの。巫女の因子、勇者の演算、それらすら“素材”だ」


 


「素材だぁ? 冗談じゃねえよ」


 カイルが剣を抜く。

 だが、彼の刃がゼクルスに届くことはなかった。


 


 一歩踏み出しただけで、ゼクルスの周囲空間が“未来演算”によって先読みされ、

 「その攻撃は当たらない」という結果だけが確定される。


 


 重い沈黙。


 


 それでも、ユートは笑った。


「じゃあ、やってみるか。“未来”に逆らってみるってのをよ」


 


 彼の両手が蒼白く輝く。

 背後にある蒼塔の演算陣と、自らの特異スキル《定義干渉》が完全に同期する。


 


「――演算展開。仮想式投入。強制因果分岐ッ!」


 


 ゼクルスの未来予測に“ノイズ”が走る。


「……貴様、“観測できない未来”を生成したか」


「そっちが“未来を上書き”するなら、こっちは“未定義の未来”をぶつける。それが俺の流儀だ」


 


 その瞬間、ユートの一撃が――時間の間隙を縫って、ゼクルスの右肩を削った。


 断面からは血ではなく、“因果構造そのもの”が漏れ出すように揺らめいている。


 


 ゼクルスの視線が、ユートに向けて初めて鋭さを持った。


「……貴様、“神”に手を伸ばすつもりか」


「そんな大それたもんじゃねえ。――仲間の未来、守りてぇだけだよ」


 


 そのとき、塔の内部で再び光が奔った。


 リリアの祈りが、記録の根幹へと届いたのだ。


 


「――私が“記録の巫女”であるなら、この世界の真実を、あなたには渡さない!」


 


 彼女の両手から放たれた精霊光が、塔全体に巡り、再び結界を張り直す。

 塔そのものが、“リリアの意志”によって再定義された。


 


「この空間では、あなたの再定義は通用しません」


「因果遮断領域か……だが、それだけでは足りぬ」


 


 ゼクルスが左手を上げる。


 虚空から出現する、魔因果制御核《プロト=エクスクレア》。

 それは、世界に存在する全ての“可能性”を並列解析し、最も効率的な未来を選択する兵器。


 


 その構造体が起動すると同時に、ユートの特異演算に狂いが生じ始める。


「っ、チートすぎんだろ、これ……!」


「ならば――こちらも、賭けます!」


 


 リリアが、自らの精霊核をユートに転送する。

 その光が、ユートの胸に収束し、“人の限界”を超える。


 


「おいおい、こんなの――ぶっ壊れるだろ、普通の体じゃ!」


「でも、あなたは“普通”じゃありません!」


 


 ユートの背に、“光と闇の双翼”が形成された。


 光はリリアの祈り。

 闇は、ユートの記録に刻まれた“もう一人の可能性”。


 


 塔が再び唸り、演算構造が塗り替えられていく。


 ユートが両手を掲げると、そこに現れるは――この世界を構成する四つの原初スクリプト。


 ・時間テンポ

 ・因果カオス

 ・存在エグジスト

 ・定義デフィン


 


「《原初記述式:オーバースクリプト・カルテット》」


 


 ゼクルスが初めて後退する。


「……貴様、それは……神々が禁じた、“最終演算”」


「オレは勇者だぜ? チートしてナンボだろ?」


 


 空間が破裂した。


 ユートの拳が、因果の鎧を穿ち、ゼクルスの核心に直撃する。


 蒼い衝撃波が空を裂き、塔を超え、雲の上まで光が貫いた。


 


 そして――


 


 ゼクルスの姿が、霧のように溶けていく。


「まだだ……まだ終わらぬ……我はこの世界の“再構成”そのもの……」


「帰れ。“今”は、渡さねぇよ」


 


 ユートの言葉とともに、ゼクルスは次元の歪みに飲まれて消えた。


 その瞬間、崩れかけていた蒼塔が静かに修復を始める。


 


 リリアはその場に膝をつき、カイルも地面に座り込む。


 誰もが、命を削った戦いだった。


 


 だが――終わった。


 一度目の、“神に等しき存在”との戦いが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ