表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

「揺らぐ魔力、目覚める声」

旅に出て三日目。


 王都を離れ、緩やかな丘陵地帯を越えたユートたちは、湿地帯沿いの小さな集落「ユング村」に立ち寄っていた。


「……このあたりで“蒼塔”の情報を掴むには、まず地元民との接触からだな」


 カイルが地図を広げ、古い村長の記録を指さす。


「“霧の断層”って呼ばれる場所がある。魔物の活動が不自然に抑えられてる地帯でな。そこが“塔”の入り口って説もある」


「“霧”ねぇ。ミスト系ボスでも出てきそうな名前……」


「笑いごとじゃないです。湿気の多い場所は、魔力の流れも乱れやすいんですから」


 リリアは湿地の空気を感じ取りながら、眉をひそめた。


 


 ◆


 


 その夜、集落外れの小屋を借りて休んでいた三人だったが――

 リリアの様子が、急におかしくなる。


 


「はぁ……っ、胸が、熱い……」


「リリア? どうした――おい、魔力が異常に集中してるぞ!」


 カイルが即座に駆け寄る。


 リリアの体から、淡く蒼白い光が立ちのぼる。

 それはまるで、空気中の“精霊因子”を暴走的に引き寄せているようだった。


「ユートさん……これ……何かが、呼んでる……」


 彼女の声が震える。苦痛ではない、けれど“目覚め”に近いそれ。


 


 その時、ユートの脳裏に、まるで風のささやきのような“声”が滑り込んだ。


 


……選ばれしものよ。

門は開かれた。

欠けた世界の記憶を、今こそ返すがいい……


 


「……今の、聞こえた?」


「え? 何か言いました?」


「……こりゃマジで“塔”に呼ばれてるわ。リリア、お前が鍵なんだな」


「鍵……?」


「うん。魔力の発信源が、完全に“塔”に向かってる」


 


 ユートは、そっとリリアの肩に手を置いた。


「でも無理はすんな。オレが代わりに全部ぶっ壊してくるって選択肢もあるからさ」


「……いいえ。私は、もう逃げません」


 その瞳には、これまでと違う意志が宿っていた。


 


 ◆


 


 翌朝。

 三人は“霧の断層”に向けて出発する。


 辺りは昼でも薄暗く、漂う霧が視界を遮る。


「……っ、この辺りだけ重力が違うような……」


 カイルが剣を片手に警戒を強める。


「魔力の密度、異常ですね。……ここ、自然じゃない」


「異世界で自然じゃないってもう笑えねぇな」


 軽口を叩くユートの前方に、突如、霧が割れ――巨大な“影”が現れる。


 


 高さ三メートルを超える四足獣。

 全身が鎧のような鱗に覆われ、無数の眼が光っていた。


「……霧魔獣ハザード・レンド!」


「来たな、“門番”」


 


 ユートが前に出ようとしたその瞬間――


「私が、やります」


 リリアが、彼の前に立った。


「お、おいリリア、無理は――」


「大丈夫です。今なら……分かるんです、この力の流れが」


 


 リリアの体を取り巻く魔力が、静かに輝き始めた。

 その光は温かく、だが確かな“侵しがたい強さ”を帯びていた。


 


 「《精霊再誕陣スピリト・ノヴァ》――発動」


 


 その瞬間、霧が、風に払われるように晴れた。


 魔獣の脚部から“消失”が始まり、まるで存在そのものを否定されたように崩れていく。


「なっ……この力……」


 カイルが驚愕する。


「因果改変……じゃない。“浄化”だ。これは……神性の……」


「すげー。リリア、ついにチート覚醒?」


「覚醒、って言わないでください!」


 笑いながら、ユートが前に出て、残りの断末魔を軽く一蹴で処理する。


 


 そして、霧の向こうに、ようやく“塔”が姿を見せた。


 


 鋼鉄と蒼玉で構築された、不自然なほどに直線的な構造。

 空間から浮かび上がるように存在するその建築は、明らかにこの世界の産物ではなかった。


「……これが、“最果ての蒼塔”」


「完全に文明違うな。現代と未来の融合、って感じ?」


「魔族の建築でもない。これは……もっと古い、“創造の時代”のものだ」


 


 扉の前で、リリアがふと立ち止まる。


「……この塔、知ってます。夢で、何度も見たことがあるんです」


「記憶の断片か?」


「わかりません。でも……ここに、何かがある。私の“失われた意味”が」


 


 塔の扉が、何の合図もなく、音もなく開いた。


 そこから吹いた風は、懐かしく、そして遠い。


 


「行こう。次は、“世界の裏側”だ」


 ユートは笑いながら、リリアの手を取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ