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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生のギロチン

作者: 男爵平野

思いつきで書きました。

ほぼ一人称での独白描写。

ちょっと過激な表現があります。

 へぇ、お待たせいたしました。なにぶんここは高貴な方々をお迎えするような場所ではございませんで、色々と不手際が……構わないと、ありがたいです。

 それでその……魔道具監察官様、でしたか。このような場所にどのようなご用事で……はぁ、転生のギロチンを……はぁはぁ。承りました。構いませんよ、保管している場所はこちらになります。ご案内いたしますね。

 え? 処刑人を引退してる私の身体が厳ついですか? はは、ありがとうございます。もう日課のようなもんで、鍛えないと落ち着かないんですよ。おかげでもう実働はしないのにこんな身体になっておりまして。


 なにしろ処刑人というのは技量と力がいるもんですから。その、監察官さまには血なまぐさい話かと思いますが、人の首を落とすというのはそれなりに難しくありましてね。

 適切な場所を適切な角度と力で斧を振り下ろす。そうしなければ一撃で落ちませんし、失敗して何度も何度も受刑者に苦痛を与えるのは愚かな処刑人です。

 ん? 処刑はギロチンではないかと? ええ、もちろんそれもあります。が、全部が全部ギロチンでやるわけではないのですよ。

 他の国は分かりませんが、ギロチンはそれなりに大がかりになりますから。だからその、ギロチンが使われるときは民衆が喜ぶでしょう?


 下世話な話、庶民にとってギロチンの処刑は派手な催し物なのですよ。斬首に値する受刑者の罪が朗々と読み上げられ、最後の懺悔を終わらせ、断頭台に首を固定され、ロープが切られて刃が落ちる。そうして、首と胴体が別れ、掲げられる。

 その瞬間を見たくて、民衆は押し寄せるわけです。

 だから国も何日も前から告知いたしますし、当日は露天すら出ます。ギロチンが設置される広場の近くの家などは見物料を取って民衆を屋根や窓に呼んだりしますし。

 だからこそ、国もギロチンにかける人間はじゅうぶん吟味します。罪の重さ、処刑による影響、国の情勢。

 催し物を頻繁にしていたら、飽きが来ますからね。私は難しいことはよう分からんですが、民衆の不満のはけ口や解消にこういうことが必要なのだと、私の師匠が言っておりました。


 で、当然その他も死刑を宣告される受刑者はいるわけでして。そういうのはもう刑場の原っぱで身体を抑えて斧を振り下ろして……まあ無慈悲なものですよ。

 大体にして処刑される人間は弔いも許されないわけですから、首も身体も所定の場所に投棄して終わりです。そこまでが刑死の内容ですからね。

 監察官様もご理解されていると思いますが、刑というのは最後まで執行されてこそ意味があるものですからね。それを私たちの技量で違えてしまったと、そういうことにならないようにしなければなりません。

 そのために私などの処刑人たちは身体と技を鍛えているわけです。とはいえ、騎士様たちとは違いますので、意味合いが少し違いますがね。


 ちょっとお喋りが過ぎましたね。そういえば、なぜ魔道具の監察官様ともあろうお方が転生のギロチンなどを……はあ、国内の魔導具、国が有するものを全て明確にして管理を徹底する。

 なるほど……しかしそうとなると……いえ、これは見てもらった方が早いでしょうな。

 それでは、こちらになります。こちらは処刑の際の大がかりな道具を保管している倉庫になります。

 ではこちらに。転生のギロチンは一番奥に保管しておりますでな。ええ、手前のは普通……と言っていいのかどうかは分かりませんが、一般的なギロチンの時に使うものですな。普段はばらばらに解体して保管しております。ギロチンはこれでそれなりに大きいものですから、完成品だとここから広場に持っていくのも一苦労ですから。

 その代わり、一ヶ月に一回必ず組み立てて動作確認と整備をしております。刃の方もきちんと動作確認を……え、いえいえ、人間でやりはしませんよ。農家の方からナマクビダイコンを譲っていただいて、それでざくりと。

 それで動作不良や刃の切れ味に不備があれば、申請して整備してもらうと。


 はい、ご足労をおかけいたしました。これが転生のギロチンです。

 え? 全く魔法の気配を感じない? それはそうです。これは至って普通のギロチンですから。

 本当にこれがそうなのかと? ふむ、やはり監察官様はご存じなかったようで。監察官様は転生者という存在は……ご存じ、そうでしょうな。

 では、転生者による騒動は……ああ、では、そこからご説明いたします。

 監察官様もご承知の通り、この国……というより大陸からはいつからか転生者という存在が現れました。他の世界で死んで、この世界で生まれ変わる。他の世界というものが本当にあるのなら、面白いものですね。私も一度見てみたいものです……失礼。


 ともかく、転生者はその他の世界とやらの知識などで国に色々と技術革新や新しい文化をもたらし、発展させた……おそらく監察官様がご存じの転生者はこういう存在かと思います。

 ですが、やはり世の中は表があれば裏があるものでして。なんというか、転生者といってもはた迷惑な……ようするにその知識をもって世の中をかき回すような言動をする存在もありまして。

 それが他の世界の常識かは知りませんが、やたらと妙な思想を広めたりとか、既得権益を破壊しようとしたりとか、あるいは王族や高位貴族の方々を籠絡しようとしたりとか。

 もちろん、それらはある程度のところで露見し、処理されます。ああ、この時点では処理といっても捕縛、拘留ぐらいです。


 で、ですね。私にはよう分からんのですが、そうやって国によって投獄された転生者の多くが「やり方を間違った」「ゲームだからリセットしてやり直す」「つよくてニューゲームなら間違えない」とかそういうことを言うらしいんです。

 最初は国の方々もなんとかそういう転生者を更生させようとしたらしいです。使い方を間違えたとはいえ、その知識なんかは有用なことも多いですしね。贖罪の意味もこめて、これからは正しく知識を運用しないかと。

 ただ、彼らは頑なに態度を変えず、早くやり直しさせろと。選択肢を間違えた回にもう用はないと、どうなだめすかしても国への協力を拒む転生者が殆どだったようです。

 偶然なのかあるいは何か意味があったのか、そういう転生者がある時期に集中したらしく、そこで上の方々は一計を案じたそうです。

 すなわち、このギロチンを使えばやり直し……転生ができると。そういう風に、牢にいる転生者に囁きかけたわけです。自身が派遣した者を介してね。不思議と、転生者達はそれを聞くとお助けキャラ? が来たと言って納得したそうです。

 そうして完成と相成ったのがこの転生のギロチンです。


 ええ、ええ。監察官様が解析したとおり、これは至って普通のギロチンです。木を白塗りにして、装飾なんかを施してそれらしくはしておりますけれどね。

 けれどもね、転生者はこれを見ると納得して自ら進んでギロチン台に上ったそうですよ。

 いつもと違う受刑者に民衆は戸惑ったようですけど、それはそれ、やはり毎回盛り上がったみたいでしてね。

 でも……私としてはああいうのはできるのなら勘弁してほしいですね。

 最近ではそういう転生者が出てきませんから、こいつの出番もありませんが、私の若い頃……処刑人になりたての頃は何度か使うことがありましてね。

 普通、受刑者、それもギロチンにかけられる人間っていうのは最後まで呪詛を吐くか、悟ってむしろ澄んだ面持ちになるか、大体はその二つなのですよ。

 稀に、色々と処刑人に頼み事……家族への伝言や物のあれこれを頼む人もおりますが。ええ、叶えられるもので、適法ならば我々も応じますよ。我々だって人間ですからね、死にゆく者の最後の希望ぐらいは叶えてやりたいじゃないですか。


 話が逸れましたね……それで、この転生のギロチンですが。まあ、これを使うときは前述の通り、転生者にとってはリセット、転生なわけですよ。

 つまり、彼らが思う刑死ではない。やり直しの行程なわけです。

 ですからね、ええ。その……なんと申しましょうか。非常に明るいんですよ。

 彼、もしくは彼女らにこれから死刑を執行されるという悲壮さはまったくなく、嬉々とした足取りで、この華美なギロチン台に感嘆を漏らしたり、むしろ進んで断頭台に乗るわけです。

 にこにこと笑顔を浮かべて、最期の時を迎えるわけです。その姿を見たら……ねえ。なんというか、その、執行された後も首は満面の笑みを浮かべてるわけですよ。

 私の頭じゃうまく言えませんがね……きついなって。そう思うんです。


 ええ、ええ。ですからこれは監察官様が管理するようなものではございません。まあ、重要なものであるとは思いますが。

 それはそれとして参考になった? それならよかったです。私らがいなくなっても、適切に管理されるならそれが一番ですからね。

 ただまあ、願うならこれがもう使われないことを祈りますがね。

 やっぱり、あんな処刑は二度としたくないですよ。

 人生も、世界も、最初からやり直しなんてできる訳はないのですから。


●   ●   ●


 報告書を書き終え、レナ・ティルミットは小さく息を吐いた。

 明日、これを提出すれば処刑場の魔道具に関しては監察終了だ。転生のギロチンはこれまで通り刑務官に管理してもらうことになるだろう。

 それにしても、と思う。

 はっちゃけなくてよかったと、本気でそう思う。


 レナは転生者だ。幼い頃、ふとしたきっかけで玲奈という前世の記憶が蘇り、自覚した。

 ただ、他の転生者と違い、レナは至って一般的だった。前世でも、今世でも。

 そして知識も相応のものしかなかったし、それを応用する方法も上手く思いつかなかった。

 ゆえに、レナは早い時点で決断した。このまま転生者としては息を潜めて生きていこうと。

 ただ、前世から計算問題には強かったので、平民でありながら官吏試験を受け、王宮で働くようになり、こうして魔道具監察官まで昇進できた。


 平民としてはそこそこの出世だろう。もしかすれば、前世の要領で勉強をしたりすればもっといけるかもしれないが、レナからすれば生活が安定するこの辺りで充分だ。

 もしも。もしもレナが転生者としてあれこれしていたのならば、決して今のような生活は送れなかっただろうと思う。

 自分の要領があまりよくないのは自覚している。どこかでやらかして、盛大にずっこけたはずだ。

 それでもまあ、反省を見せればギロチンにかけられるようなことはないだろうけれど。

 しかしながら、転生者として生きていればその可能性があっただろうというのは確かだ。


 いやはや、禍福は糾える縄の如しと言うが、それは人生も同じだろう。

 可もなく、不可もなく。

 それなりの人生を過ごしていきたいものだとレナは思う。

 もしも――それでももしも、転生者として自制が効かなくなりそうになったときは。

 あのギロチン台を思い出すことにしよう。

 そう決意して、レナは身体を伸ばして寝台へと入った。

 うとうとと眠りに落ちながら、なんとなく思う。

 この世界にいる数多の転生者たちにも、今後転生ギロチンが使われることがないようにと。


人生も転生もやり直しなんてない。

あと迷惑な転生者はだいたいイカレてます。

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