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花火大会


 夏休み最終日。

今日は凪沙と花火大会に行く。

1週間前の凪沙の誕生日にリストバンドとスポーツタオルを渡した。

気に入ってくれたようで、部活でも先輩や同級生に自慢しているらしい。

バレー部で仲が良かった後輩が教えてくれた。


咲良はというと、浴衣に着替えて気合を入れてメイクをしている。

どうやら、彼氏とデートらしい。

彼氏の地元はこっちじゃないけど、わざわざ来てくれるんだと。

俺も、母さんに浴衣の着付けを手伝ってもらってワックスで簡単なヘアセットをした。


俺の希望で、集合場所は花火大会の会場近くの公園になった。

家から一緒に行くのもいいけど、待ち合わせとかしたことないからしてみたいって気持ちがあった。


少し早めに公園に着いた。

5時に集合予定だから、まだ20分はあるな。


深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、横から肩を叩かれた。

驚いてそっちを見ると浴衣を着た凪沙が来ていた。


「お待たせ」

「早いな」

「白斗より早く来たつもりだったのに」

「俺もさっき来たところ。予定より早いけど、もう行くか?」

「うん」


凪沙は頷いて俺の隣に並んだ。


会場には既に屋台が並んでいる。

会場の案内図をスマホで撮って屋台を見て回った。

凪沙は射的や金魚すくいよりも食べ物系の屋台に行きたいらしい。

とりあえず、唐揚げの屋台に並んだ。

順番が来て唐揚げを頼んで代金を払おうとすると、凪沙が先に出した。


「多めにお小遣いもらってるから大丈夫」

「じゃあ、コンビニでアイス奢って」

「やだよ」


凪沙は笑って唐揚げを受け取っていた。

俺は隣の焼きそばの屋台で塩焼きそばを買って人があまり通らない方に寄って食べた。

ゴミは近くのゴミ箱に捨てて、次はクレープの屋台に行った。


凪沙はチョコブラウニークレープで、俺はツナアボカドクレープを頼んだ。

5分ほどで出来立てのクレープを受け取って、せっかくだからと凪沙とツーショットを撮った。


「美味っ。」

「え!一口交換しよ」

「そうだな」


凪沙とクレープを交換して食べた。

甘いのもいいな。

クレープを食べ終えて、ポテトの屋台に行った。

俺はコンソメ、凪沙はチーズ味を買ってこれも半分交換して食べた。


少し休憩とゆっくり屋台を見て回っていると、彼氏とデート中の咲良に遭遇した。

気まずいな、と思い折り返そうとすると凪沙に腕を掴まれた。

どうやら、凪沙は咲良の彼氏と話してみたいらしい。

そのうち咲良がこっちに気付いて、彼氏と一緒に歩いてきた。


「咲良、知り合い?」

「私のお兄ちゃんと幼馴染」

「え、お兄さん?言われてみれば似てるかも」

「お兄ちゃん、凪沙。彼氏の堀本(ほりもと)京平先輩。通称京ちゃん」

「幼馴染の五十嵐凪沙です」

「咲良の兄の白斗です。妹がお世話になってます」

「いや、本当に」

「京ちゃん!」


咲良がムッと頬を膨らませると、彼氏は可笑しそうに笑っていた。

なんか、羨ましいかも。

まあ、悪い奴じゃなかったみたいで安心した。

俺はやっぱり気まずくて、かき氷を買いに行った。

凪沙はまだ彼氏と咲良と話したいことがあるらしく、そこで待ってもらうことにした。


かき氷の屋台は結構行列が出来ていてその最後尾に並ぶと、浴衣を着た3人組の女子がやって来た。

その真ん中にいた女子が驚いたように俺の顔を見ていた。

そういえば、なんか見覚えが。


桜木(さくらぎ)?もしかして、桜木、美月(みづき)か?」

「仁科、くん。覚えててくれたんだ」

「覚えてるに決まってるだろ。久しぶりだな」


桜木は小学校の同級生で俺の唯一仲が良かった女子だ。

小5と6年で同じクラスで、雨で外で遊べないときはいつも桜木のクイズ本で一緒にクイズを解いていた。

中学は桜木が私立受験したため離れて会うのは6年ぶりだ。


一瞬、誰か分からなかったけど面影があったからなんとか分かった。

それにしても、小学校卒業して1回も会わないって逆にすげえな。


「私、中学2年生の頃から去年までフランスに音楽留学してたから」

「今は戻って来てるのか?」

「うん。大学は行かないからあと半年しかないけど編入試験受けて、2学期からは日本の高校に通うことにしたの」

「じゃあ、駅で会えるかもな」

「そうだと嬉しい」


桜木は笑って俺の顔を見上げた。

小学生のときは、桜木の方が身長が高かったからなんか変な感じがする。

多分、小6で160は越えてただろうし。

俺は中学で25cm伸びて、高校で4cm伸びたから小学生のときは今と比べると大分低かった。


話しているうちに順番が近付いてきた。

前にもうあと3人くらいしかいなくなった頃、通知音が鳴った。

スマホを見ると凪沙からメッセージが着ていた。


『私も半額出すからかき氷半分こしよ!』

『イチゴでいいなら』

『イチゴが一番好き!すぐ行く!』


走るスタンプが送られてきたのを見てスマホの画面を消した。

桜木がなぜか俺の顔を見ていた。

俺、別にニヤけたりしてねえよな?

表情に出さないようにしたし。


「俺の顔、なんかついてる?」

「う、ううん。それより、仁科くんは何食べるの?」

「イチゴ。凪沙、あ、悪い。桜木は何にするんだ?」

「………ブルーハワイかな」

「フランスにもかき氷ってあるのか?」

「日本人がオーナーのカフェとかなら」


つい何も考えず話しかけたら凪沙と呼び間違えた。

気まずい雰囲気になってしまった。

桜木の後ろで話していた友達も気まずそうに俺と桜木の方を見る。


早く順番が来ないかと思っていると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、凪沙が立っていた。


「向こうのかき氷屋さんかと思って遅くなった。ごめん」

「いいよ。まだ順番来てねえし」

「良かった」


凪沙はホッとため息をつくと、そのまま桜木の方に視線を向けた。

桜木たちがこっちを見ていたらしくて、その視線に気付いて視線を向けたらしく余計に気まずい雰囲気が流れた。


気まずい中、順番が来た。


「イチゴのかき氷1つください」

「練乳はどうしますか?」

「俺はどっちでも。凪沙は?」

「ほしい」

「じゃあ、練乳もお願いします」


かき氷を受け取って、横に避けた。

桜木たちの注文が終わるのを待っていると、凪沙が不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


「早く食べないと溶けるよ?」

「先に食べてていいよ」

「やった」


凪沙は美味しそうにかき氷を口に入れて笑っている。

可愛すぎる。

てか、上目遣いで顔覗き込むとか相変わらずズルいな。


桜木たちの注文が終わると、気まずそうにこっちにやって来た。


「さっきは、本当に、悪かった」

「白斗、何したの?てか、知り合いだったの?」


凪沙は目を丸くしながらもまだかき氷を食べている。


「俺の分まで食べんなよ」

「あ、」


凪沙はヤバっとスプーンを止めた。


「この人は桜木美月さんっていって俺の小学校の同級生。久しぶりに再会して喋ってたんだけど、さっき凪沙と呼び間違えたんだよ。マジでごめん」

「いいよ。名前呼び間違えるくらいあるし。お友達来たなら私たちはもう行くね」


桜木が小さく笑ってそう言うと凪沙がえ、と声を上げた。


「私と白斗、友達じゃないよ」

「あ、彼女?」

「彼女でもねえよ。凪沙は俺の2歳年下の幼馴染」

「幼馴染。彼女じゃないんだ」

「ああ。じゃあな」


桜木たちと別れて残ってた半分のかき氷を食べた。

かき氷を食べて、花火大会が始まる前に近くの高台に行くことにした。

高台まで行くには少し長い階段があるが、凪沙は俺より平気そうに歩いている。


高台には他に誰もいなくて、街灯も1つしかなかったため結構暗い。


「凪沙」

「ん?」

「浴衣可愛い。似合ってる」

「あり、がとう。白斗も似合ってるね……、カッコいいよ」


凪沙は少し照れたように笑って俺の顔を見上げた。

2人とも照れて何も話せず、目を逸らすこともできず花火が打ち上がるのを待った。


ピューッと音が聞こえて空を見るとパッと大きな花火が開いた。

隣を見ると、凪沙が花火を見上げて楽しそうに笑っていた。

来年もまたこうして凪沙の隣で花火を見たいな。


花火が終わると、空は暗くなって星がチラホラと見えた。

そろそろ帰らないとね、と言う凪沙の言葉を遮って名前を呼んだ。


「凪沙」

「なに?」

「やっぱり、俺は凪沙が好きだ」

「………うん」

「伝えておきたかっただけ。もう暗いし帰るか」

「そうだね」


高台の階段を降りて、家に向かった。

明日から新学期か。

9月に入って少ししたら体育祭の練習が始まるな。


うちの高校は少し土地が高いせいか9月になれば少し涼しいため9月末に体育祭が行われる。

文化祭はその1ヶ月後だ。

イベント近くだと告白が増えるから………凪沙が告白されまくりになりませんように。


花火大会の会場近くに行くと、他の来場者も次々と帰っていた。


「白斗、ちょっと人減るの待って帰らない?今帰ったら押し潰されそう」

「そうだな」


道の端によけた。

途中で咲良が彼氏と通って、彼氏と分かれて俺たちと一緒に帰ると言った。

彼氏を見送ってから咲良に一緒に帰らなくていいのか?と訊くと、彼氏の乗る予定だった電車が咲良を家まで送ると間に合わなくて、逃したら次は30分後までないから咲良が送らなくていいと言ったらしい。


咲良は凪沙と帰れてラッキーなんて笑いながら凪沙の腕に抱きついている。


「そういえば、楓真とアキくん逆ナンされてたのみた」

「え、マジ?」

「うん。多分、同じ中学の女の子かな?一緒に回りませんかって誘われてた」


秋人も楓真も人気あるっぽいからな。

時々、2人で帰ってるのを見るけど絡みに行ってる女子とかいるし。


話しているうちに人が減ってきてそのまま家に向かった。

家に着いて、凪沙とは分かれてリビングに入った。

楓真は既に帰ってきていてシャワーを浴びたあとだった。


「咲良、先に風呂行けば?」

「やった!ありがとう」


咲良は1番上の帯を解いて走ってリビングを出て行った。

俺は暑いから、クーラーで涼んでからじゃねえとシャワーなんて入れねえ。

今日撮った凪沙の写真やツーショットを見返しつつ、何枚かは凪沙に送った。


風呂に入って髪を乾かしてリビングに行くと、母さんと父さんと咲良が3人で楓真を囲んでいた。


「何やってんだ?」

「楓真、家庭科の宿題まだやってない」

「あ〜、今年もあるのか。夏休みに家族に振る舞う手料理のレポート」

「そう」

「俺、何作ればいい?」

「スイーツとかでもいいんじゃない?」

「私、アイス食べたい」


咲良がそう言うと、母さんが冷凍パインとヨーグルトを取り出した。


「これでパインジェラート作ったら?」

「どうすんの?」


楓真は冷凍パインを潰して、ヨーグルトとはちみつを混ぜるだけのパインジェラートを作った。

できたジェラートを盛り付けて写真を撮ってプリントした。

ジェラートを食べてからレポートを書く手伝いをさせられた。

材料とレシピ、あとは、家族からのコメント。

俺が中学生のときはなかったけど、楓真が中学に上がると同時に来た家庭科の先生は去年もこの宿題を出していた。

楓真は去年は面倒くさがらずにちゃんとやってたけど、今年は存在を忘れていたらしい。


なんとか終わらせて、俺は自室に戻って勉強をした。

明日から2学期。

学校行事と受験勉強の両立が始まる。

マジで恋愛にうつつを抜かしすぎないようにしねえと。

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